わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

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第1章 6歳の聖女

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まだ幼いクリスに変わって、大聖女とルロワ家について少し説明を。


大聖女とは国全体を覆う大結界、別名”祈りの結界”をはることができる特別な聖女のことであるが、聖女であれば誰でもなれるわけではない。
大聖女になるには、ルロワ公爵家の血を継ぎ、キラキラとした青い瞳を持つ必要がある。大聖女に選ばれた聖女は特別な儀式の後、”宝石目”とよばれる瞳を開眼するが、宝石目となるためにはこの青い瞳ではないといけないのだ。

大聖女はオールディーの国防のために欠かせない、国王よりも重要な存在である。つまり、ルロワ公爵家で生まれる青い瞳の女児は例外なく聖女としての修行を行い、大聖女を目指すことを求められるのだ。


大聖女を安定的に輩出するためには、青い瞳の聖女が多くいる必要があるが、今は昨年就任した新任の大聖女とそれをサポートする前任の大聖女の二人しか青い瞳の聖女はいなかった。
そこで本来なら8歳ごろから始める聖女の修行をわずか6歳のクリスがスタートさせることになったのだ。


ここで言う大聖女というのが、クリスの上の姉、マルシャローズ・ルロワである。クリスよりも10も年上で、クリスが物心ついた時には聖女になっていたため、あまり話したことはない。
アリシラローズがあまり彼女のことを好きではないのを感じていたので、何でかな?といつも思っていた。


その理由は教会に着いてすぐに判明することとなる。



ー---



「お手紙を書くから、返事をちょうだいね、クリス。」

出発の日、お見送りに来てくれた姉のアリシラローズは緑の瞳を心配そうに潤ませて何度もクリスに念を押した。そう、アリシラローズは大聖女の資格を持たず、また聖女の素質である結界術も素養がないため、聖女の修行はしたことがないのだ。

「はい!アリシラおねえさま!すぐにお手紙かきます!」

クリスはシンプルな青いワンピースに身を包んでいる。これは姉が選んでくれたものだ。お見送りに父はいなかったが、いつものことなのでクリスも姉も全く気にしなかった。馬車に乗り込んで姉が見えなくなるまで大きく手を振り、意気揚々と教会に向かうクリスをアリシラローズはいつまでも心配そうに見守っていた。



ルロワ公爵家から教会までは馬車で30分ほどだ。上の姉は最初通っていたとのことだが、十分に通える距離である。まだ6歳のクリスを引っ越させた次期大聖女マルシャローズの真意とは…。


教会にたどり着いたクリスはコンパクトな荷物を一つ自分で持って教会の中に入った。聖女は自分のことは何でも自分でやるのだと聞いてから、なるべく自分のことは自分でやれるように頑張ってきた。
もちろん着替えだって、お風呂だって、簡単なお掃除だって一人でできる。といっても、もちろん公爵令嬢なので後ろには侍女が二人ついている。

「よくいらっしゃいましたね、クリスローズ様。」

出迎えてくれたのは白と銀の装束を着た神官たちだ。中でも中央に立つのは父と同年代の男性で一番偉い人の様だった。

「神官長のラファエル・モローです。御父上とは学園で同級生だったんですよ?」

「はじめまして!クリスローズ・ルロワです!今日からよろしくおねがいします!」

これまで面倒を見てきた中でもダントツに幼いクリスの元気な挨拶に神官たちはほっこりした。神官長も癒されたようでほっこりと笑うと「困ったことがあったら内緒で相談してください。」と言って去っていった。

「最初に大聖女様にご挨拶に行きますが、よろしいですか?」

「はい!」

お姉さまに会えるんだ!とクリスはるんるんで神官の後について行ったが、神官たちの表情は大聖女の部屋が近づくにつれて固くなっていった。
やがて一等立派な扉の前に立つと神官の一人が大きく扉をたたき、「クリスローズ・ルロワ様が到着いたしました。」と中に呼びかけると扉が開かれて中に通された。

中にいたのは輝くシルバーブロンドを緩く巻き、色は聖女らしく白いが高級そうなドレスに身を包んだ宝石のように輝く青い瞳の美しい女性だった。姉のアリシラローズとは四歳差のはずだが、大人びた派手な服装と化粧でより年上に見える。
横には整った顔立ちに白い騎士服に身を包んだ青年が二人控えていて、一人はさらさらの金髪でもう一人は黒髪だ。邪魔にならない位置には数人の侍女がいた。侍女たちも若く見目がいい。それだけの人材を従えたマルシャローズは何やらとても偉い人に見えた。


「マルシャおねえさま、おひさしぶりです。クリスローズがまいりました。本日よりよろしくおねがいいたします。」

ちょっと緊張しながら荷物を置いて幼いながらにカーテシーをする。

「よく来たわね、クリス。顔をあげて。会うのはクリスマス以来かしら。」

顔をあげてマルシャローズを見ると、言葉は歓迎しているが、どうやらクリスのことが気に入らなかった

「今日は初日だから仕方がないけれど、聖女は白い聖女服で活動するのよ。持ってきた私服は必要ないからすべて持って帰ってもらいなさい。
それと身の回りの世話は全て自分でやるのよ?侍女なんてつけられないわ。連れてきた二人は荷物と一緒に送り返しなさい。」

明らかに聖女服ではないドレス姿に、たくさんの侍女を従えたマルシャローズが言うので本当にそんなルールがあるのかと疑問に思うが、大聖女は特別なのかもしれない。マルシャローズの言うことにはとりあえず逆らうなと下の姉のアリシラローズに言いくるめられていたクリスは素直に頷いた。
マルシャローズ本人を目の前にしても、反論することはゆるされないことをひしひしと感じた。

「はい。おねえさま。」

「それと、私は姉だからってあなたを特別扱いしないわ。必要以上に接触してこないでちょうだい。でも私の恥になるようなことはしてはだめよ。規律を守って生活しなさい。朝は毎朝5時に起きてお祈りをするの。その後は水汲みよ。毎日の修行も欠かさずにね。あなたはダントツで幼いのだから他人の二倍の修行をなさい。休日はないわ。クリスマスも毎日よ。」

ということは、クリスは公爵家に帰ることはできないのだろうか。マルシャローズはクリスマス休暇に公爵家に来ていたが。

「はい。おねえさま。」

「それもやめて。お姉さまではなく大聖女様と呼びなさい。」

「はい。だいせいじょさま。」

「いいこと、あなたは私のスペアなの。私が何かあれば、その代役をする係。そのことを肝に銘じておきなさい。」

「…はい。だいせいじょさま。」

淡々と受け入れるクリスの態度がつまらなかったのか、マルシャローズは出て行きなさいというように手を振って部屋から追い出した。「侍女は送り返すのよ。」と念を押して。


幼いクリスの頭に『あなたはスペアなの』という言葉が強く刻まれた。



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