わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき

文字の大きさ
20 / 59
第3章 12歳の公爵令嬢

2

しおりを挟む
大聖女になったクリスは5回目の建国祭を無事に終えた。

「今年も素晴らしかったですわ。クリス様。」

最初はぎくしゃくしていた侍女のヤスミンは今では信頼できる大好きな侍女だ。クリスを立派な大聖女にすると身構えていたヤスミンも上手く肩の力が抜けて、クリスのことを面倒見の良い姉のように支えてくれている。ちょっと口うるさいことに変わりはないが、クリスもヤスミンの愛を理解できるぐらいには大人になった。

「ヤスミン、今年は観覧席から見てくれた?」

「いえ、今年もバルコニーの陰から。」

「えー?」

クリスは怒ったように頬を膨らませて、衣装を脱がせてくれているヤスミンを振り返った。

「もう、どうして?米粒ぐらいの大きさでしか私は見えないらしいけれど、結界が張られるところはとてもきれいだって、黒騎士団のみんなは言ってたよ?」

「でも、クリス様の姿は米粒なんですよね?バルコニーの陰からならよく見えますよ。」

「私の姿はきれいじゃないでしょ?来年はもっと良い観覧席をとってもらうから、そこから見てね!」

「はいはい。」

「もう。絶対みないつもりでしょう!」

クリスのサラサラのシルバーブロンドを丁寧にとかしながら、ヤスミンはクスクスと笑っている。そこにサーシャが軽食の準備ができたと部屋にワゴンを押して入ってきた。


「今日は特別なお菓子を用意しましたよ。クリス様へのご褒美です。」

「特別?なんだろう?私、おなかぺこぺこ!」

クリスは大好きな侍女の二人に可愛がられて、ニコニコしながらテーブルの椅子に座った。

「本当にクリス様はよく食べられますね。食べても食べてもお痩せになったままだけれど。」

ヤスミンが不思議そうな顔でクリスの前に皿を並べた。そう、大聖女を始めてからクリスの胃袋は満腹を知らない。昔はこんなにお腹もすかなかったのだが。一方のサーシャは鉄壁な侍女スマイルだ。

『あら、サーシャは何か心配事があるみたいよ?』

オッドアイの黒猫姿のフィフィはにゃーと鳴いてクリスの隣の席に登ってきた。それを聞いて驚いたクリスはサーシャを見る。

「サーシャ、何か心配事があるの?」

「まあ!クリス様に隠し事はできませんね。」

サーシャはふふふと笑いながらクリスの皿の上に可愛らしいフルーツのたくさん乗ったタルトをのせた。

「わあ!かわいい!」

「クリス様がこちらのタルトをたくさん食べてくださったら、サーシャの心配もなくなりますわ。」



ー---



事態は翌日に急変した。クリスが水汲みの下女さんたちに昨日の建国祭の話をしている時だった。

「クリスローズ様!クリスローズ様!大変です!」

走ってきたのはまだ若い神官長付きの神官だ。名前をカミーユ・モロー。神官長の甥っ子でもある。いつも神官長とクリスローズの間の伝令係のようなものを引き受けてくれている。
見たことないほど青ざめた顔で慌てたように走ってくる。


「カミーユ、どうしたの?」

「マルシャローズ様が…、離縁されて…、帰ってきました…!」

「え?マルシャお姉さまが?」

「大聖女にお戻りになるとおっしゃられていて…、白騎士団長が賛成されまして…。」


クリスは目を目いっぱいに見開いた。大聖女に戻る?何を言ってるの?

「とりあえず、お部屋に戻って待機していてください。」

クリスに従っていたサーシャを思わず振り返ると、サーシャも驚いた顔をしていた。急いで大聖女の部屋、つまりは自分の部屋に戻って待機ているとすぐに神官長がクリスローズの部屋にやってきた。

「クリスローズ様。お話は聞かれましたね?」

「はい…。私は大聖女じゃなくなるんですか?」

「マルシャローズ様の離縁はまだ正式には受理されていない様です。ですが、マルシャローズ様が嫁がれたガルシア公爵家も離縁には反対しておらず、むしろ離縁の正式な理由として教会でのマルシャローズ様の引き取りを希望しています。」

「そんな…。お姉さまはガルシア家で上手くいっていなかったの?」

「大きな声では言えませんが、どうやらその様です。」

クリスももう12歳、このような裏事情もある程度理解できるようになっていた。

「やはり、マルシャローズ様は教会育ちで次期侯爵夫人としては教養が足りなかったのでしょうね…。やはり学園を高等部まで卒業していないと、大貴族の夫人はこなせませんから。」

部屋に控えていたヤスミンは辛辣である。どうやらヤスミンは昔からマルシャローズが嫌いだったようだ。愚痴というか嫌味というか、みたいなことをよく言ってサーシャにたしなめられている。

「こらこら。この部屋の外ではそのようなことを言ってはいけないよ。」

神官長は苦笑しながらもヤスミンの言うことは否定しなかった。『賛成ってことね』とは同じく辛辣なフィフィの台詞だ。

「しかし、我々もその提案を受け入れようと思っているんだ。」

「「『え?』」」

クリス、ヤスミン、そしてフィフィが驚いた声をあげた。

「ど、どうしてですか?私は大聖女として不足だったのでしょうか…。」

「いえいえ!クリスローズ様は素晴らしい大聖女です!期待以上の働きをしてくださっていますよ。もう5年も。しかし…それよりも大事なことがあるのです。」

ヤスミンから漂う不快感が契約しているフィフィを通してクリスにも伝わってくる。

「大事なこと?」

「クリスローズ様、初めて結界を張った8歳のころから体調に異変があられるようですね?身長も年の割に低いし、体重も痩せすぎです。」

「え?」

クリスは自分の体を見下ろす。確かに長期休暇に帰ってくるヒューゴにもいつも「ちゃんと食べてるか?痩せすぎじゃないか?」ときかれていたが、そんなにも細く小さいのだろうか。確かに、聖女見習いとしてやってきた同い年の少女たちはみんなクリスよりも10cmは背が高かった。

「サーシャによれば、クリスローズ様は初めて”祈りの結界”を張られてから妙にお痩せになられたと。食事の量を増やしてもお痩せになられたままだと。
我々は、まだお小さいクリスローズ様の体に”祈りの結界”を張ることで何らかの影響が出ているのではないかと考えています。一方、マルシャローズ様はお子まで作られた立派な成人女性です。クリスローズ様が立派に成長されるまで、大聖女はお任せしましょう。」

「でも…。」

「クリス様、サーシャもそれがいいと思います。何よりも大事なのはクリス様のお体です。ずっとサーシャはクリス様のお体のことを心配していました。」

「サーシャ…。じゃあ、私は普通の聖女に戻るの?マルシャお姉さまの下で?」

クリスの脳裏には大聖女になる前の聖女暮らしが思い出された。あの頃はサーシャもヤスミンもいなかった。またあの小さな部屋で一人で生活することになるのだろうか。今はヒューゴもアリシラお姉さまからのお手紙もないのに。


「それについてはルロワ公爵様がいろいろと考えている様です。」

「お父様が?」

「ええ。とりあえず、クリスローズ様はマルシャローズ様の離縁が成立するまでに大聖女の部屋を引っ越す準備をしていてください。」


大変なことになってしまった、とクリスの胸中は不安でいっぱいだった。


しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

処理中です...