魔法学園のケンカップル

ぺきぺき

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プロローグ

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焦げ茶の髪を短く切りそろえ、特徴的な赤い瞳をした男子学生が一人で誰かを探しながら廊下を走っている。すれ違う女子学生たちが思わず顔を赤らめるほど、整った顔立ちをしているその男子学生は名前をレグルス・デイビーと言い、魔法学園の中でも優秀で魔力量の多い学生しか進学できない”上級魔法科”に所属することを示す銀糸の刺繍の入った青いネクタイをしていた。

レグルスの父は国有数の魔法商会を運営する商会長であり、母は光属性の一族であるカルベット家の出身である。この魔法学園で学ぶ者であれば、誰もが見逃せない特別な生まれをしていた。
おまけに魔力が多くてイケメンとくれば、女子学生がみんな彼をボーイフレンドにしたがるのは仕方のないことで、日に複数件のペースで告白されてしまうのも仕方のないことだった。


…けれど、そんな彼の眼中にいるのは魔法学園に入学したその日からたった一人だ。


「おい、ロバート!」

意中の相手の背中を見つけた彼は思わず顔を輝かせ声をかけたのだが、その声色は顔を見ていなければとても不機嫌そうに聞こえたことだろう。
意中の相手はオリーブブラウンのセミロングの髪を肩で跳ねさせながら廊下を一人で歩いていたとある女子学生である。彼女は不機嫌そうに振り返った。

「何よ、クマ男。」

「おまっ、そのクマ男って呼び名いい加減にやめろよな。」

「じゃあなんて呼べばいいのよ。」

「な、名前でいいだろう…、名前で。」

レグルスって呼んでほしい。もっと言うならレグって呼んでくれてもいい。お前なら許す。

脳内ではそう思っているのだが、その思いは声には出なかった。顔には多少出ていたのだが、彼女はそこまで真面目に彼のことを観察してはいなかった。

「はあ?あんたが『おまえなんかに俺の名前を呼ぶ資格はない!』って言ったんじゃない?いつの間にか私が資格をとったってわけ?」

意中の彼女は意味が分からないと眉間にしわをよせてレグルスを見ている。その両手には分厚い本が数冊乗せられており、先ほどの授業で使われたそれらの資料を彼女が準備室まで運んでいる途中であることがうかがえる。

「お、おまえがそんな資格、取れるわけないだろう!」

素直になれないレグルスは彼女相手にまたムキになってしまった。今年度も彼の呼び名は『クマ男』のままかもしれない。内心、またやってしまったと焦りながらレグルスは彼女の隣を歩く理由を探す。

「……その資料、運ぶの手伝おうか?」

「一人で持てる。」

ばっさりである。

「それより、何の用なのよ。」

「え?」

「呼び止めたでしょう?私、忙しいんだけど。ブルックとマーリンを食堂で待たせてるから。」

レグルスは先ほどの決心を思い出してごくりと唾を飲む。入学したその日から気になる存在だった彼女と新しい関係に踏み出すために、彼は今日、告白をすると決めていた。


「お、おまえ…。」

「何?」

「俺……………。」


俺の後、たっぷりの間をとって、レグルスは緊張しながら彼女に告げた。



「………付き合えよ。」


い、言ってしまった!しかも付き合えよって命令口調になってしまった!本当は『お試しでもいいから俺と恋人として付き合ってほしい』と下手に下手に告げるつもりだったのに!
こ、断られるか?だめだ!絶対にオッケーしてくれ!

レグルスは祈るような気持ちで彼女の顔を見つめた。そんなレグルスの葛藤などわからない彼女の方は、考えるようなそぶりをみせた後、簡潔に答えた。


「わかった。」

「わ、わかった?」

わかったって、イエスなのか!?ノーなのか!?

「いいってことか?」

「うん。」

イエスの返事をもらえたと思ったレグルスは跳びあがらんばかりに喜んだ。積年の思いが実り、彼女と恋人になることができたのだ。
彼女の方もしょうがないわね、みたいな顔をしている。


「で、どこに行くの?」

「え?」

もうデートの予定を決めてくれるなんてなんて積極的なんだ!

レグルスは大いに喜んで次の休日に一緒に街に出かける約束を取り付けた。しかし、もしこの場に彼か彼女の友人がいたならば、ベタなすれ違いが起きていることに気づいて止めてくれただろう。


レグルスの『俺(と)…付き合え(って恋人になれ)よ』は彼女に『俺(はどこそこに用事があるから)…付き合(って手伝)えよ』と受け止められていたことに。



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