魔法学園のケンカップル

ぺきぺき

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7 初めてのデート、すれ違って突きつけられる現実

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日曜日。レグルスはキャサリンと初めてのデートに緊張していた。今日までにマーリンにしつこく何度も、「本当に告白したの?」「ちゃんと好きだと言ったの?」と問い詰められたが、返事がオッケーだった嬉しさに舞い上がっていたレグルスは、「もちろんだ」「ぬかりない」と取り合わなかった。

マーリンが「本当に首席なのかしら、この馬鹿」とののしった声も聞こえないほどに、彼は舞い上がっていた。

そして、その様子を見た学生たちが「レグルス・デイビーはマーリン・レオンが好きなのかも」「お似合いで入る隙がないわ」なんて噂を立てていたことにも気づかないままにデートコースを一生懸命に考えていた。


そうしてやってきたデート当日。待ち合わせの場所に、キャサリンは時間ぴったりに現れた。冬本番の寒空の下、暖かそうなグレーのロングコートに黒のマフラー、足元には黒いタイツと黒いショートブーツがのぞいている。肩からかけているショルダーバックも黒。手袋も黒。見事なまでのモノトーンコーデだ。

「おはよう。クマ男。」

盛り上がっていた気持ちは『クマ男』で盛り下がる。さすがにデートの間、『クマ男』と呼ばれ続けるのは盛り下がる。レグルスだって、できれば甘い雰囲気になりたい。

「レグルス。」

「ん?」

「レグルスって呼べ。………今日は。」

なぜ、最後のをつけてしまうのか。

「何で?」

「な…!何でって!」

そんなのわかるだろう?付き合い始めたんだから、名前で呼んでくれよ!こ、こここここ、恋人だろう?
レグルスは脳内でもどもりまくっている。しかし、恋人だからと素直に口からは出せなかった。

「こ、………、今日は大事な日だからだ!!」

キャサリンは首を傾げつつ、「わかった」と頷いた。二人の勘違いはまだ続く。

「レグルス、今日は何をするの?」

キャサリンの口から出る『レグルス』にレグルスは心臓を鷲掴みにされた。嬉しい。可愛い。お、おおおおおおお、俺も名前で呼ばなきゃ。

「まず、ハンナ湖に行く。キャ……ロバート。」

でもへたれて名前は呼べなかった。



ー---



ハンナ湖とは街と学園の間にある大きな湖で雪の日には凍りついてスケートリンクになる。今日はそこまでの寒さではないので凍り付いてはいないが、透き通るような美しさで、恋人たちに人気のスポットだ。

「ハンナ湖で何するの?あそこ、今日はカップルしかいないと思うけど。」

「あ…?な……!俺たち………、何もしねーよ!!!」

普通科の様子を聞いたり、クリスマスパーティーに来なかった理由を聞いたりしながらぐるりとハンナ湖の周りを歩いた。
ちなみに、レグルスは恥ずかしくて素直になれないだけで普通の会話ならば普通にこなす。


ぶるりとキャサリンが寒さで震えるのを横目で見たレグルスは、その肩を抱き寄せ……られなかった。

「……街に行ってランチにしよう。」

「そうね!何食べる?」

「食べたいものがないなら…、新しくできたフィロの店に行ってみたいんだ。」

キャサリンは生まれ育った環境か、将来の夢のためか、目新しいものに目がない。常に流行りそうなものにアンテナを伸ばして、商売機会をうかがっている。だから新しくできた異国料理の店に興味を持ってくれるのではないかという算段だ。

「あの店ね!いいよ!まだ食べてないメニューがいっぱいあるから!」

…期待した反応とは大分違ったが、レグルスは久しぶりのキャサリンとの食事を楽しんだ。


「上級魔法科はどうなの?必修が多くて大変でしょ?」

ハンナ湖ではレグルスが尋ねるばかりだったが、レストランではキャサリンからも会話が弾んだ。

「今学期は必修ばかりで埋まってるんだ。でも春からは余裕が出るはず。」

だから同じ授業が取りたい…とレグルスは言いたかったが、言葉にはできずに変にごくんと飲み込んだ。

「それは全部合格出来たらでしょう?大半の学生が三分の一ぐらい合格できないって聞いたけど。」

「俺は学年首席だぞ。問題ない。」

「うわ。その偉そうなの、相変わらずでむかつく。」

いつも通りにポンポンと軽快なやり取りをし、時に喧嘩をはさみながら、仲良く二人でランチを食べる姿はたまたま居合わせた同級生たちに見られていた。「あれ、レグルス・デイビーってマーリン・レオンと付き合っていたんじゃなかった?」「あの女の子、誰?」「浮気か?」「いや浮気相手にしては…。」なんて会話がなされていたのだが、レグルスは目の前のキャサリンに集中しすぎて気づかなかった。
キャサリンはばっちり気づいていたが。

店を出た後、レグルスのコートを引っ張って、小声で尋ねる。

「ねえ!ところで今日の目的はなんなの?まるでデートみたいだけど!」

「デートみたいって…、いや…、それは……そうだろう?」

大声が自慢のレグルスも思わず小声で返してしまう。キャサリンは一体、何を突然言い出したのか。

「デートを偽装することが目的だったってこと?何で?」

「偽装?な、何言ってんだよ…、本当のだろ?」

「え?」

「……え?」

意味が分からないというキャサリンの顔を見て、レグルスの頭がくるくると回りだす。キャサリンが関わらなければ彼は学年首席の優秀すぎる頭を持っている。気づきたくない結論に気づくのもすぐだった。


「……俺たち、付き合ってるよな?」

「ん?たしかに私はあんたに付き合って街まで出てきたけど…?」

「いやいやいやいやいや!!」

レグルスは思わず大声をあげてしまう。

「普通そんな勘違いするか!?お前だって馬鹿じゃないんだから!?」

「な…!何よ!私が何を勘違いしたって言うの?あんたが『俺に付き合えよ』って言ったから何か私に頼みたいことがあるんじゃなかったの?」

「ちげーよ!!『俺と付き合えよ』だよ!!何でそんな大事なところ聞き逃すんだよ!!」

「あんたの声がいつもと違って小さすぎるから!…って、え?」

キャサリンはとあることに気づき、大きく目を丸くした。


「え…?」

キャサリンはまじまじとレグルスの顔を見つめ、徐々にその顔は赤くなっていく。レグルスは顔に熱が集まっていくのを感じていた。この前の告白では確かにバクバクと緊張していたが、このような気持ちになることはなかった。気持ちが届く、というのはこういうことなのだろう。

「クマ男…、あなた…、私のことからかってる?」

「からっ…!?そんなわけねーだろ!!」

「で、でも、あんた、いつも私に怒ったように話しかけてきてたし…、いつも平凡女って呼んでくるし…、とても…、その、私のことがす、……好き、だとは…。」

「ば…!!す、好きじゃねーよ!!」

思わず反射でレグルスは否定してしまった。しまった!と思うと同時にキャサリンの顔の赤みがすんと引いた。

「なんだ、ほら、からかってるんじゃない。何がしたかったの?何がしたかったにしても趣味が悪いわよ。」

「ち、ちが…!!」

だ、だめだ!こんなんじゃ、だめだ!キャサリンに軽蔑されているのも感じる!違うんだ!何で素直になれないんだ!

レグルスはぐぬぬぬぬぬと顔を赤くして踏ん張っている。やがていつものようにプルプルと震えだした。キャサリンは顔に怒りをにじませてレグルスを睨みつけている。

「私のこと、からかっているだけなら、不快。帰る。」

キャサリンはくるりとレグルスに背を向けて去っていこうとする。

「違う!!!!!」

今まで一番に大きな声が出て、キャサリンがびくりと立ち止まった。そして慌てて振り返ってレグルスの口をふさごうとするが、遅かった。


「好きだ!!!!!!」


その声は街中の人、もっと言うと近隣の店にいた人たちの注目を集めるのに十分な大きさだった。

「お前のことが好き………!!!!!!」

「わかった!!わかったからちょっと黙って!!!」

キャサリンは思わずレグルスに駆け寄って、慌ててその口を両手を伸ばしてふさいだ。レグルスは唇に感じるキャサリンの手に、手袋越しであるにも関わらず、目の色と同じくらいに真っ赤になってキャサリンを見つめているし、キャサリンもみるみるうちに顔が赤くなっていく。

しかし、はっきりさせねばとキャサリンは小声でレグルスに問いかけた。


「あんた、マーリンが好きっていう話は何だったの?」

「な…!!誰がそんなこと…?」

「みんな言ってるわよ?まだ付き合ってはないみたいだから、てっきり今日はマーリンへのプレゼントを選びに行くのかと思って…。」

「そ、そんなわけない!お、おおおおおお俺は、きょ、今日はお前を楽しませようと思って………、つ、付き合ってると思ってたから……。」

いやいや、落ち着け、俺。誤解しようがない言葉で伝えろとヨークも言っていたじゃないか。”付き合う”という言葉がまず良くないんだ。いかようにも勘違いできてしまう。”好き”も控えめすぎたのかもしれない。また勘違いされてはたまったものではない。
首席の頭脳がぐるぐると回り、一つの答えを導いて彼女の手を握った。


「キャサリン・ロバート!!俺と結婚してくれ!!」

プロポーズである。


「け……、結婚!?ま、まだ早いわ!!お付き合い!お付き合いからで!!」

真っ赤になってキャサリンがそう告げると「わっ」という歓声が上がり拍手が巻き起こる。一部始終を見守っていた外野から「おめでとう」の声が届けられた。はっとしてキャサリンが周囲を見ると先輩、同級生、後輩、店の人、たまに教員まで、多くの人がこちらに注目し、祝福の声をかけてくれていた。

「ちょ、クマ男、これ、どうす……。」

言いかけてレグルスの顔を見たキャサリンはその顔があまりにも嬉しそうに惚けて、いつもの何倍にも増す色気に真っ赤になって口をつぐんでしまった。




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