魔法学園のケンカップル

ぺきぺき

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14 決まる進路、大切にしすぎてすれ違う心

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魔法騎士であるキャサリンの従兄はレグルスに魔法騎士について丁寧に教えてくれた。

「国外任務はありますか?新人はロマーノにどれぐらいいけますか?」

「え?国外任務かい?ほとんどないよ。王族が視察に出るときの護衛ぐらいかな。それに新人は最初の二年は見習いとしての訓練期間だから、ほとんど国を離れられないよ。」

…なるほど。じゃあ魔法騎士はないな。

レグルスの様子をキャサリンが何とも言えない顔で見ていることにはレグルスは気づかなかった。



上級魔法科の有力な就職先は魔法を使った戦闘職だ。そのため、どうしても就職して一、二年は研修という名の訓練期間になる。

「なんか、戦闘職に魅力を感じなくなってきた。」

魔法騎士、魔法警察、と職場体験をして話を聞いてきたレグルスだったが、どうしてもこれというものに出会えなかった。

「まさか、最初の訓練期間が嫌だなんて言うんじゃないでしょうね?厳しいから。」

志望を魔法騎士に決めたマーリンが眉をよせてレグルスを見てくる。

「いや、厳しいのは構わないんだが、拘束時間が長いのが…。宿舎に住み込みだし、外泊は年に数度しか許されないし。」

キャサリンとすれ違う未来しか見えない。

「でも、最初の一年か二年だけだろ?正式に配属された後は違う。」

「でも、どっちも任地を自分で決められないだろう?魔法騎士は辺境の仕事も多いし。首都住まいになる魔法警察がまだましかな…。」

ヨークは少し呆れた顔になり、マーリンと意味深なアイコンタクトをした。レグルスの胸の内はバレバレである。なるべく国外勤務、できればロマーノで働ける職がいいのだ。しかも、就職早々の早いうちから。
なぜって、そこにキャサリンがいるから。

「あんまりロバート重視で進路を決めると、逆に怒られるんじゃないか?」

「そもそも、仕事内容にもそんなに惹かれていない。」

魔法騎士、魔法警察、上級魔法科に多い魔法職はもう一つある。

「あとは冒険者だな。冒険者協会の話を聞いてみてまた考えるよ。」



ー---



もともと上級魔法科の学生の多くは魔法騎士団に就職している。激務ではあるが、上級魔法科に在籍していたことはその後の順調なキャリアパスにつながるからだ。そして一部が魔法警察に就職する。
冒険者になるのは年に一人、いるかどうかだ。

というのも、冒険者は完全実力社会であり、実力に応じてEから最高でSまでのランクが与えられる。給料はランクによって最低給付額が決まっており、それ以上は出来高制だ。
依頼される仕事も、魔物の討伐や商人の警護、魔法薬の素材の収集など、時には国外にまで出向く。

相当腕に自信がなければ、冒険者になって稼ごうとは思わないわけである。魔法騎士や魔法警察の方が安定した収入が得られるのだ。
ちなみにレグルス達の言う冒険者協会はあくまでも支部であり、隣国にも拠点があり、魔法使い以外も所属しているのが冒険者の他の魔法職との大きな違いである。


「レグルス・デイビーくんね。冒険者協会へようこそ。支部長のボルトンよ。」

二年ほど前に冒険者協会の本国支部長には初めて女性の元冒険者が就任した。レグルスも新聞などで把握していたが、実際に会ってみるとまだ30代前半の金髪の綺麗な女性だった。偉い人であるはずだが、威張ったところのないフレンドリーな人だった。レグルスを見て「さすが熊獣人の血を引くだけあって、立派な体格ね」と偏見もない様子で話しかけてくれた。
冒険者協会へ訪れたのはレグラス一人で今年は他に就職を検討しているものがおらず、おかげで手厚い説明を受けることができた。

簡単に冒険者の仕組みの説明を受けて、請け負う依頼の例を見せられて、質問タイムとなる。

「早いうちから国外任務に就くことは可能ですか?例えばロマーノとか。」

「国外任務への参加はDランクから可能よ。単独での派遣はCランクからね。Cランクになればロマーノに居住してもらってそこからロマーノ中心の任務を受けてもらってもいいわ。年に何度か本所属のこの支部に報告に来てもらう必要はあるけど。」

「Cランクには何年ほどでなれるのでしょうか?」

「それは本人次第ね。見習いの研修が終わたら、任務を受け始めてもらって、その達成度を見てこちらで判断するわ。Cランクへの昇格は任務数だけでは決まらないの。でも、最短の事例で一年かな。
上級魔法科ならCランクまではすんなり上がれると思うわ。」

「つまり、約一年の見習研修とCランクまでの一年、ロマーノに住めるのに最低二年かかるということですね…。」

でも、国内勤務重視の他の職と比べれば圧倒的に理想に近い。レグルスは俄然興味がわいた。

「早くロマーノで暮らしたいなら、見習研修を在学期間から始めることも可能よ。もちろん、授業は取り終わってくれてないといけないけれど。」

「ほ、ほんとですか?」

それなら一年でロマーノで住めるようになる。

「そんなにロマーノに住みたいの?」

「婚約者が卒業後にロマーノの大学に進学するんです。」

「それはロマーノに住まなきゃね!冒険者は配偶者への配慮が多い職よ。世界中に仕事がある職だから飛び回りがちだけど、そのせいで家庭を壊したら仕事にも支障が出るでしょ?
ランクがあがって魔力も十分なら最高級の転移陣を支給するし、やりようによっては家族との時間もたくさん取れるはずよ。
その利点に惹かれて魔法騎士や魔法警察から転職する人もいるわ。」

支部長は左手の薬指に指輪をしており、どうやら既婚であるらしかった。

受付の横にある大きな地図の下にレグルスは案内されて覗き込むと、そこにはAやCといったアルファベットが浮かび上がっている。多くのDやEの文字はこの国のあらゆる都市の上にあり、CやBの文字は国外にも見られる。Aになるとその数は極端に減り、Sにいたっては地図上に今は二つしかなかった。一つはこの支部の上にあり、もう一つは隣国ヒューゲンにあった。

「これはこの支部に所属してる冒険者たちの所在地を示しているの。冒険者証でおおまかな所在地を把握できるのよ。ちなみにこの冒険者証は支部のある国ではどこでも身分証として使えるわ。」

支部長は隣国にいるSの文字を示した。

「これはSランクの表示で、彼は大きい任務の時だけ転移陣で飛んできて、基本は奥さんの警護の仕事をしているわ。奥さんの警護で必要依頼数を稼いでるずるいやつよ。Aランクの彼は今はブルテンにいるけれど…。あ、転移陣を使ったわね。本国に帰ってきたわ。
転移陣は魔力消費が激しいから、こんな使い方できる人は限られるけれどね。多分、今頃魔力枯渇で倒れているんじゃないかしら。ブルテンは遠いから。」

「専用の転移陣の支給はいつからですか?」

「魔法使いならAランクからね。その前でも支部に設置されている転移陣で支部間の移動をしてもらうことができるわ。もちろん、旅行での利用はだめだけれど。
支部があるのは全部で7か国。この7か国なら冒険者証を身分証に部屋も借りれるし、好きな場所に住んでいいわ。問題を起こしたら資格はく奪があり得るってことは忘れないでね。」

「なんか聞けば聞くほど魅力的な仕事に思えてきました。」

「そうなの。なんで人気がないのかしら。」

協会長は「婚約者さんと相談してみてね」といって送り出してくれた。



ー---



「冒険者に?」

「ああ。Cランクまであがれば、キャサリンと一緒にロマーノで暮らせる。」

レグルスは見えてきた未来に嬉々としていたが、キャサリンは逆に暗い顔だ。

「レグルス、私、何度も私ありきで進路を決めなくていいって言ったよね?」

「別にお前だけのことを考えて選んだわけじゃない。上級魔法科が有利に働く仕事だし、必要とされてる仕事だろ?」

「いや、8割がた私のことを考えてる。」

図星である。下手したら9割だ。

「そ、そんなことない!」

「どもってる。もしかしたら、9割私かも。」

自明に図星である。

「そ、それのどこが悪いんだよ!」

「人生の一大事でもあるんだから、自分のやりたいことを重視するべきじゃない?」

「キャサリンと一緒にいたいじゃだめなのか!?」

「レグルス、声、大きくなってきてる!」

「他にやりたいことなんて…何もないんだ…。」

レグルスはキャサリンを引き寄せて抱きしめた。

「で、でも、私は何も譲歩してない!!」

耳元で大きな声を出されて思わず顔を離す。

「レグルスをほったらかして交流プログラムに参加するし、その後も隣国に行く!全部私のため!」

最近可愛くなったと噂の元から可愛いキャサリンはレグルスの目の前で目を伏せて辛そうにしている。

「レグルスのために何も譲歩してない…。」

「そ、そんなことない!!」

至近距離にいるのに大声を出してしまい、今度はキャサリンが目をぱちぱちさせる。

「キャサリンは俺と婚約してくれただろう?そんなこと、留学に全く必要なかったのに。俺がしないと行かせられないって言ったから。」

「そうだけど…。」

「親への面通しまでしっかり、正式に婚約してくれた。それに、俺、卒業後に一緒の国にいたら、同棲したい。その後、国を移動するにしても絶対について行く。この先、一生一人になれない。」

キャサリンがちょっとそれは嫌かも、みたいな顔をした。

「ほら、ちょっと嫌だって思っただろう?それがお前の譲歩だよ。過保護な父親と離れた後に、うっとうしい俺につきまとわれるんだ。」

「…たしかに、それは譲歩かもしれない。」

「だろ?だから、何も不安になる必要ないんだ。」

今度はお互いに腕を回してしっかりと抱き合った。



「…でも、もし、もし、さらに譲歩してもらえるならだけど。」

「ん?」

「………キキキ、キティって呼びたい。」

「…キキキキティ?」

「キティだよ!バカ!」


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