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第三部 隣国潜伏編 母の故国で対決します
侯爵令嬢の独り言 父が隣国からの無理難題を断ったと聞いてホッとしてしまいました
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学園祭が終わって、話があるから領地に一度戻って来いと父から手紙が届いた。そんな事を命じられたのは初めてなので、何の話だろうと私は不審に思った。エルダも公爵から言われているみたいだ。
まあ、学園も学園祭が終われば少しは暇になるし、イェルド様との婚約が認められたのだろうかと私は前向きに領地に帰ってきたのだ。
「クリストフ、イングリッド、冷静に聞いて欲しい」
しかし、領地の応接に兄と一緒に呼ばれた私は珍しく真剣な顔の父に面食らった。
それにやけに暗い。
「実はスカンディーナに起こった原因不明の疫病が我が国の国境の町パヤラまで流行りだしたのは知っているな」
「はい」
「それは聞いていますが」
父の声に私達二人は頷いた。
「結構な数の病人が出ているらしい。陛下は国境との街を閉鎖しようとお考えだ」
「そこまで酷いのですか」
兄が驚いて聞いていた。まあ、王太子が聖女連れで対策に行ったのだ。大変なのは大変だろう。
「そうだ。王太子殿下が聖女様と一緒にパヤラに行っているのは知っているだろう?」
「ええ」
兄と私は更に頷いた。
「聖女のヒールも効かなかったらしい」
「そうなんですか」
「本当に役に立たないピンク頭ね」
私の一言に父は苦笑していたが。
「この疫病にかかると高熱が出るそうだ。そして、10日間暗い高熱で苦しみ、そして、最悪死に至る」
私と兄はそれを真剣に聞いていた。
「致死率は下手したら5割に達すると」
「そんなバカな」
「本当ですか」
私たちは目を剥いた。致死率が5割超える病などなかなか無い。かかったらほとんど死ぬようなものではないか。
「更に感染率も高いらしい」
「そんなのが領内に入ると大変なことになりますよ」
兄は慌てて言い出した。
「熱のあるものは領内に入れないように、領地境に騎士をだして警戒しているがそれにも限界はある」
兄と私は頷いた。
「ここからは本題だ。ようく心して聞いて欲しい」
父は私達二人を見て言った。
「なんでも、スカンディーナはその特効薬を作り出したらしい」
「そうなのですか」
兄は少し喜んで言った。でも、私はそこになにやら胡散臭い匂いを嗅ぎつけた。
「しかし、まだ、量産は中々難しいらしい」
父は私達の反応を見比べて言った。私は更に嫌な予感がした。
「その情報とともに、クリストフにテレーサ王女との婚約話が舞い込んできたのだ」
「何ですって!」
私と兄はハモっていた。兄には婚約こそしていないが、エルダという大切な相手が既にいるのだ。
「婚約関係になれば優先的に薬を下ろすという言葉を添えてだ」
「父上、俺にはその話は受けられません」
父の言葉に兄が即座に断った。
「領地の民の命がかかっているのに即答か」
父は冷たい目で兄を見下した。
「俺にはエルダという相手がいます」
「まだ認めたわけではない」
「しかし」
兄が怒って立ち上がった時だ。
「領地の領民の命がかかっているのだ。ここは少しは考えろ」
「ならば私はこの領主を継ぎません。父上の次はイングリッドで」
「ちょっと、お兄様。何勝手なこと言っているのよ。そんなのは私こそごめんだわ」
私は断った。
「まあ、待て。お前たちは侯爵家に生まれた責任というものがないのか」
父は呆れて言った。
「王家ならばいざしらず、たかだか侯爵家ではないですか。私達が継がなくても親戚の誰かが継ぐでしょう」
私は言い切った。
「そうです。父上。別にエルダも俺が次期侯爵だから好いてくれているのではないのですから」
兄にまで言われて父はムッとしていた。
「取り敢えず二人共座れ」
父が立ち上がった私達二人に指示した。
真剣な表情の父に私達二人は渋々座った。
「領主としてはスカンディーナの言い分に少しでも考えなかったかというと嘘になるが、その話は断った」
みるみるうちに兄の表情が明るくなった。
「何を嬉しそうにしている。クリストフ。病が流行るかもしれないんだぞ」
父は厳しい目で兄を見る。
「いえ、父上が息子の事を考えてくれる優しい父親で安心しました」
「ふんっ、そんなので跡継ぎに家出されたら困るからな」
兄の言葉にムッとして父は言った。
「ま、まさか、イェルド様がこの件を受けられたということはないわよね」
私は思いついて聞いてみた。
「お前はそれしか無いのか。と言うかお前ら2人共の婚約は認められんぞ」
父がムツとして言う。
「それは認められようがどうでもいいけれど、どうなのお父様」
私は思わず身を乗り出して聞いていた。
「オールソンのところも断ったと聞いている」
「良かった」
私は父の言葉に安心した。
「ふんっ、どいつもこいつも自分のことばかり考えおって」
父は不機嫌極まりなかった。
「疫病の流行り具合を確かめる上でも、二人共しばらくこの館に滞在するように。判ったな」
私たちは頷いていたのだ。
私は父の言葉をあっさりと信じてしまったのだ。
私は自分たちに関係ないと判ってホッとしていたのだ。ブルーノの本当の狙いがどこにあるか考えずに。私はここで安心してしまった事を後で死ぬほど後悔することになるのだ。
まあ、学園も学園祭が終われば少しは暇になるし、イェルド様との婚約が認められたのだろうかと私は前向きに領地に帰ってきたのだ。
「クリストフ、イングリッド、冷静に聞いて欲しい」
しかし、領地の応接に兄と一緒に呼ばれた私は珍しく真剣な顔の父に面食らった。
それにやけに暗い。
「実はスカンディーナに起こった原因不明の疫病が我が国の国境の町パヤラまで流行りだしたのは知っているな」
「はい」
「それは聞いていますが」
父の声に私達二人は頷いた。
「結構な数の病人が出ているらしい。陛下は国境との街を閉鎖しようとお考えだ」
「そこまで酷いのですか」
兄が驚いて聞いていた。まあ、王太子が聖女連れで対策に行ったのだ。大変なのは大変だろう。
「そうだ。王太子殿下が聖女様と一緒にパヤラに行っているのは知っているだろう?」
「ええ」
兄と私は更に頷いた。
「聖女のヒールも効かなかったらしい」
「そうなんですか」
「本当に役に立たないピンク頭ね」
私の一言に父は苦笑していたが。
「この疫病にかかると高熱が出るそうだ。そして、10日間暗い高熱で苦しみ、そして、最悪死に至る」
私と兄はそれを真剣に聞いていた。
「致死率は下手したら5割に達すると」
「そんなバカな」
「本当ですか」
私たちは目を剥いた。致死率が5割超える病などなかなか無い。かかったらほとんど死ぬようなものではないか。
「更に感染率も高いらしい」
「そんなのが領内に入ると大変なことになりますよ」
兄は慌てて言い出した。
「熱のあるものは領内に入れないように、領地境に騎士をだして警戒しているがそれにも限界はある」
兄と私は頷いた。
「ここからは本題だ。ようく心して聞いて欲しい」
父は私達二人を見て言った。
「なんでも、スカンディーナはその特効薬を作り出したらしい」
「そうなのですか」
兄は少し喜んで言った。でも、私はそこになにやら胡散臭い匂いを嗅ぎつけた。
「しかし、まだ、量産は中々難しいらしい」
父は私達の反応を見比べて言った。私は更に嫌な予感がした。
「その情報とともに、クリストフにテレーサ王女との婚約話が舞い込んできたのだ」
「何ですって!」
私と兄はハモっていた。兄には婚約こそしていないが、エルダという大切な相手が既にいるのだ。
「婚約関係になれば優先的に薬を下ろすという言葉を添えてだ」
「父上、俺にはその話は受けられません」
父の言葉に兄が即座に断った。
「領地の民の命がかかっているのに即答か」
父は冷たい目で兄を見下した。
「俺にはエルダという相手がいます」
「まだ認めたわけではない」
「しかし」
兄が怒って立ち上がった時だ。
「領地の領民の命がかかっているのだ。ここは少しは考えろ」
「ならば私はこの領主を継ぎません。父上の次はイングリッドで」
「ちょっと、お兄様。何勝手なこと言っているのよ。そんなのは私こそごめんだわ」
私は断った。
「まあ、待て。お前たちは侯爵家に生まれた責任というものがないのか」
父は呆れて言った。
「王家ならばいざしらず、たかだか侯爵家ではないですか。私達が継がなくても親戚の誰かが継ぐでしょう」
私は言い切った。
「そうです。父上。別にエルダも俺が次期侯爵だから好いてくれているのではないのですから」
兄にまで言われて父はムッとしていた。
「取り敢えず二人共座れ」
父が立ち上がった私達二人に指示した。
真剣な表情の父に私達二人は渋々座った。
「領主としてはスカンディーナの言い分に少しでも考えなかったかというと嘘になるが、その話は断った」
みるみるうちに兄の表情が明るくなった。
「何を嬉しそうにしている。クリストフ。病が流行るかもしれないんだぞ」
父は厳しい目で兄を見る。
「いえ、父上が息子の事を考えてくれる優しい父親で安心しました」
「ふんっ、そんなので跡継ぎに家出されたら困るからな」
兄の言葉にムッとして父は言った。
「ま、まさか、イェルド様がこの件を受けられたということはないわよね」
私は思いついて聞いてみた。
「お前はそれしか無いのか。と言うかお前ら2人共の婚約は認められんぞ」
父がムツとして言う。
「それは認められようがどうでもいいけれど、どうなのお父様」
私は思わず身を乗り出して聞いていた。
「オールソンのところも断ったと聞いている」
「良かった」
私は父の言葉に安心した。
「ふんっ、どいつもこいつも自分のことばかり考えおって」
父は不機嫌極まりなかった。
「疫病の流行り具合を確かめる上でも、二人共しばらくこの館に滞在するように。判ったな」
私たちは頷いていたのだ。
私は父の言葉をあっさりと信じてしまったのだ。
私は自分たちに関係ないと判ってホッとしていたのだ。ブルーノの本当の狙いがどこにあるか考えずに。私はここで安心してしまった事を後で死ぬほど後悔することになるのだ。
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