9 / 19
ヒーローが、来た
9:羽虫は全て排除する(Side:リディエル)
しおりを挟む
「兄さま、それでですねっ…」
俺の膝の上で一生懸命喋る愛おしいミーシャの姿に、頬が緩むのが止められない。身振り手振りを交えながら日々の暮らしを説明してくれる姿は、あまりにも可愛かった。
うんうんと相槌を打ちながら時折ミーシャの頭を撫でる。凄いね、頑張ったねと褒めてやれば輝かんばかりの笑顔を返してくれる。たったそれだけなのに、俺の心は酷く満たされていた。
そう、満たされていたのだ。ミーシャの口から、あの羽虫の名前が出るまでは。
「…あの、兄さま?兄さまはダニエルさまとお会いしてますか…?」
とても不安そうに、此方の機嫌をおずおずと伺うように見上げながらの問い掛けを、俺の頭は数秒間処理する事ができなかった。
ダニエル、様。あれか。ガードナー家の次男坊。あの日のお茶会で、愚かにもミーシャの視界に入ろうとした騎士もどきの礼儀知らず。
アイツとミーシャが文通している事は知っていた。本来であればすぐにやめさせた所だが、ミーシャがあまりにも楽しそうだったので見逃してやっていたのだ。だが、それとこれは別。ミーシャの口から奴の名前を出させるなぞ、俺は絶対に許さない。
「…いいや、あの日以来会ってないぞ。それよりもミーシャ、この間バタークリームが美味しいと評判のカフェが出来たらしい」
「バタークリーム…!」
「ミーシャは好きだろう?今すぐアンリに買って来させようか」
奴の話を適当に切り上げ、ミーシャが興味を持ちそうな話題を口にする。途端に瞳を輝かせる可愛らしい姿に微笑むと、チラリとアンリに視線を送った。
アンリは面倒くさそうな表情を隠す事もせず肩を竦めたけれど、どうやら異論はないらしい。まぁ、アンリもミーシャの事を可愛がっているし、ミーシャが喜ぶならやぶさかじゃないんだろう。
すべすべもちもちの頬を指先で弄びながら、バタークリームへの期待でいっぱいになったミーシャの顔を眺める。どんな味か想像しているらしいミーシャの顔は、普段の五割り増しで可愛かった。
「はっ…いえ、今はバタークリームよりもダニエルさまです!兄さまは、ダニエルさまとお会いしなきゃ駄目なんです!」
話題を無事にすり替えられたと思っていたが、今日のミーシャは誤魔化せなかったようだ。賢くなってて嬉しい反面、少しだけ苛立つ。ミーシャに苛立っている訳じゃない。ミーシャの心を蝕む、あの騎士もどきへの苛立ちだ。
だが何故俺が会わなければいけないのだろうか?この様子からして、ミーシャ自身が奴と会って仲良くしたいわけではなさそうだ。いまいちミーシャの意図が読めずに首を傾げていると、ミーシャが段々焦り始める。
ダニエルは俺の運命の相手だ、ダニエルは俺にとって必要不可欠だ…そんなわけない。俺の運命の相手はミーシャだし、必要不可欠な存在もミーシャだけだ。後にも先にも、ミーシャだけ。だってミーシャは、俺の天使なのだから。
「ミーシャが何故そこまで奴と俺を会わせたがっているのかは分からないけれど、俺と奴はきっと仲良くなれないよ」
「え、な、なんでですか。なんでそう言いきっちゃうんですか。兄さまとダニエルさまは、運命なのに」
くしゃりと今にも泣き出しそうに可愛らしい顔を歪めてしまったミーシャの背中を優しく撫で、ぎゅっと抱き締める。
俺の腕の中で縮こまるミーシャの身体は、小刻みに小さく震えていた。何故そこまで俺と奴をくっつけたがるのか、皆目見当がつかない。俺は、こんなにもミーシャを愛しているのに。
だから何度でもミーシャに伝える。俺の最愛はミーシャなんだと、ずっとそばにいて欲しいのだと。ミーシャがいれば、俺は何を相手にしようと立ち向かえるのだからと。
「ミーシャ、愛してるよ。世界で一番ミーシャが好きだ、大好きだよ…だから、そんなに悲しそうな顔をしないで。ミーシャを怖がらせるものは、兄さまが全部排除してあげるからね」
「…っ、……う…」
「うん?」
極々小さな声で何かを呟いたミーシャに聞き返すと、ふるふると首を左右に振ってしまい教えて貰えなかった。この子が何に対して恐れているのかが分からなくて困惑するけれど、そんなもの俺が必ず排除して見せる。
まずはあの騎士もどきの羽虫からだ。アイツと会ってから、ミーシャは不安そうにする事が多くなった。文通している中で、何か変な事でも吹き込まれたのだろうか?
ミーシャには悪いけれど、今夜にでもこっそり手紙を読ませてもらおう。もしその中にミーシャを脅かすような文言が少しでも含まれていたら、文通は二度とさせない。ミーシャを害そうだなんて、俺が絶対に許さない。
「ミーシャ、そろそろお昼寝の時間だから部屋に戻ろうか」
「…ん」
とんとんと軽く背中を叩き、ミーシャを抱き込んだままそっと立ち上がる。お昼寝という単語に触発されたのか、ミーシャが眠たそうに欠伸をしていた。その様子が可愛くて額にキスをすると、嬉しそうな笑い声が聞こえてくる。
あぁ、これだ。この笑顔だ。ミーシャのこの笑顔がある限り、俺は何にだって立ち向かえる勇気を貰える。ミーシャの笑顔を守るために生まれてきたのだと、深く実感する。
「おやすみミーシャ、いい夢を」
「…おやすみなさい、りでぃにいさま」
眠気が限界でふわふわと喋るミーシャの額に、今一度口付ける。そっと毛布を掛けてやれば、程なくしてミーシャは眠りに落ちた。
何度か頭を撫でた後ミーシャの部屋を後にすれば、扉の前に控えていたアンリが一歩後ろを歩いている気配を感じる。俺はアンリに視線を送らないまま、淡々とした声で命令した。
「ダニエル・ガードナー及びガードナー侯爵家を調査しろ。少しでも黒い所が見つかったら、容赦なく潰せ」
「御意」
ミーシャ、もう大丈夫だからね。兄さまが、ミーシャを害する羽虫を全て駆除してあげるから。
俺の膝の上で一生懸命喋る愛おしいミーシャの姿に、頬が緩むのが止められない。身振り手振りを交えながら日々の暮らしを説明してくれる姿は、あまりにも可愛かった。
うんうんと相槌を打ちながら時折ミーシャの頭を撫でる。凄いね、頑張ったねと褒めてやれば輝かんばかりの笑顔を返してくれる。たったそれだけなのに、俺の心は酷く満たされていた。
そう、満たされていたのだ。ミーシャの口から、あの羽虫の名前が出るまでは。
「…あの、兄さま?兄さまはダニエルさまとお会いしてますか…?」
とても不安そうに、此方の機嫌をおずおずと伺うように見上げながらの問い掛けを、俺の頭は数秒間処理する事ができなかった。
ダニエル、様。あれか。ガードナー家の次男坊。あの日のお茶会で、愚かにもミーシャの視界に入ろうとした騎士もどきの礼儀知らず。
アイツとミーシャが文通している事は知っていた。本来であればすぐにやめさせた所だが、ミーシャがあまりにも楽しそうだったので見逃してやっていたのだ。だが、それとこれは別。ミーシャの口から奴の名前を出させるなぞ、俺は絶対に許さない。
「…いいや、あの日以来会ってないぞ。それよりもミーシャ、この間バタークリームが美味しいと評判のカフェが出来たらしい」
「バタークリーム…!」
「ミーシャは好きだろう?今すぐアンリに買って来させようか」
奴の話を適当に切り上げ、ミーシャが興味を持ちそうな話題を口にする。途端に瞳を輝かせる可愛らしい姿に微笑むと、チラリとアンリに視線を送った。
アンリは面倒くさそうな表情を隠す事もせず肩を竦めたけれど、どうやら異論はないらしい。まぁ、アンリもミーシャの事を可愛がっているし、ミーシャが喜ぶならやぶさかじゃないんだろう。
すべすべもちもちの頬を指先で弄びながら、バタークリームへの期待でいっぱいになったミーシャの顔を眺める。どんな味か想像しているらしいミーシャの顔は、普段の五割り増しで可愛かった。
「はっ…いえ、今はバタークリームよりもダニエルさまです!兄さまは、ダニエルさまとお会いしなきゃ駄目なんです!」
話題を無事にすり替えられたと思っていたが、今日のミーシャは誤魔化せなかったようだ。賢くなってて嬉しい反面、少しだけ苛立つ。ミーシャに苛立っている訳じゃない。ミーシャの心を蝕む、あの騎士もどきへの苛立ちだ。
だが何故俺が会わなければいけないのだろうか?この様子からして、ミーシャ自身が奴と会って仲良くしたいわけではなさそうだ。いまいちミーシャの意図が読めずに首を傾げていると、ミーシャが段々焦り始める。
ダニエルは俺の運命の相手だ、ダニエルは俺にとって必要不可欠だ…そんなわけない。俺の運命の相手はミーシャだし、必要不可欠な存在もミーシャだけだ。後にも先にも、ミーシャだけ。だってミーシャは、俺の天使なのだから。
「ミーシャが何故そこまで奴と俺を会わせたがっているのかは分からないけれど、俺と奴はきっと仲良くなれないよ」
「え、な、なんでですか。なんでそう言いきっちゃうんですか。兄さまとダニエルさまは、運命なのに」
くしゃりと今にも泣き出しそうに可愛らしい顔を歪めてしまったミーシャの背中を優しく撫で、ぎゅっと抱き締める。
俺の腕の中で縮こまるミーシャの身体は、小刻みに小さく震えていた。何故そこまで俺と奴をくっつけたがるのか、皆目見当がつかない。俺は、こんなにもミーシャを愛しているのに。
だから何度でもミーシャに伝える。俺の最愛はミーシャなんだと、ずっとそばにいて欲しいのだと。ミーシャがいれば、俺は何を相手にしようと立ち向かえるのだからと。
「ミーシャ、愛してるよ。世界で一番ミーシャが好きだ、大好きだよ…だから、そんなに悲しそうな顔をしないで。ミーシャを怖がらせるものは、兄さまが全部排除してあげるからね」
「…っ、……う…」
「うん?」
極々小さな声で何かを呟いたミーシャに聞き返すと、ふるふると首を左右に振ってしまい教えて貰えなかった。この子が何に対して恐れているのかが分からなくて困惑するけれど、そんなもの俺が必ず排除して見せる。
まずはあの騎士もどきの羽虫からだ。アイツと会ってから、ミーシャは不安そうにする事が多くなった。文通している中で、何か変な事でも吹き込まれたのだろうか?
ミーシャには悪いけれど、今夜にでもこっそり手紙を読ませてもらおう。もしその中にミーシャを脅かすような文言が少しでも含まれていたら、文通は二度とさせない。ミーシャを害そうだなんて、俺が絶対に許さない。
「ミーシャ、そろそろお昼寝の時間だから部屋に戻ろうか」
「…ん」
とんとんと軽く背中を叩き、ミーシャを抱き込んだままそっと立ち上がる。お昼寝という単語に触発されたのか、ミーシャが眠たそうに欠伸をしていた。その様子が可愛くて額にキスをすると、嬉しそうな笑い声が聞こえてくる。
あぁ、これだ。この笑顔だ。ミーシャのこの笑顔がある限り、俺は何にだって立ち向かえる勇気を貰える。ミーシャの笑顔を守るために生まれてきたのだと、深く実感する。
「おやすみミーシャ、いい夢を」
「…おやすみなさい、りでぃにいさま」
眠気が限界でふわふわと喋るミーシャの額に、今一度口付ける。そっと毛布を掛けてやれば、程なくしてミーシャは眠りに落ちた。
何度か頭を撫でた後ミーシャの部屋を後にすれば、扉の前に控えていたアンリが一歩後ろを歩いている気配を感じる。俺はアンリに視線を送らないまま、淡々とした声で命令した。
「ダニエル・ガードナー及びガードナー侯爵家を調査しろ。少しでも黒い所が見つかったら、容赦なく潰せ」
「御意」
ミーシャ、もう大丈夫だからね。兄さまが、ミーシャを害する羽虫を全て駆除してあげるから。
1,735
あなたにおすすめの小説
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
30歳まで独身だったので男と結婚することになった
あかべこ
BL
4年前、酒の席で学生時代からの友人のオリヴァーと「30歳まで独身だったら結婚するか?」と持ちかけた冒険者のエドウィン。そして4年後のオリヴァーの誕生日、エドウィンはその約束の履行を求められてしまう。
キラキラしくて頭いいイケメン貴族×ちょっと薄暗い過去持ち平凡冒険者、の予定
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる