たとえ“愛“だと呼ばれなくとも

朽葉

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1章

46.Land=Comet

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『──ってことがあったんですよ』

 いつも通り賑わっているアイクエのグループチャット内。
 律とグループメンバーの相性は良かったらしく、比較的大きな問題もなく、関係は順調に深まっていっていた。

 どうやら、今彼らは自分のユーザーネームの由来について語り合っていたらしい。まず始めにlandから話し始めたのだが、ただのゲームのユーザーネームに、これほどまで深い過去があったとは知らず、律は話にのめり込んで驚愕してしまった。

 ──その方の名前が理久……つまり、陸だから、それを英語にして、landってことかな……?

 そう考えながら、予め用意しておいた炭酸の強い缶のエナジードリンクを手に取って、一口だけ飲み込む。同時にチャットを打ち、landの名前についてのコメントをしようした。

『陸だからland?』

 しかし、律が書き込む間もなく他のメンバーが問い掛ける。
 landはその質問に対して『good』と書かれたスタンプで返答した。これは合っているということで、間違いないだろう。

『すげー過去だな、運命じゃん。ソイツが女だったら結婚まで行ってだろうねー!』

 またまたグループ内のメンバーの一人から、landへノリの良い言葉が投げられる。その光景が何だか青春真っ只中の男子高校生たちの会話のようで、微笑ましく思えた。
 律は画面を何度も見返しては、クスクスと声を漏らしがら笑ってしまう。

『いや、それはないだろうね~! だってボク、ゲイだし』

 唐突な触れ難いカミングアウトに、チャット内はしんと静まり返る。
 まあ、静まり返ると言えば、少しばかり大袈裟かもしれない。ただ、二、三秒程チャットが送られなかっただけだ。

 大体グループ内の誰かが一秒にも満たない時間で、スタンプやコメントを返すのだが……。

 けれども、相手の顔や名前も知らないネット上に、差別のようなものはなく、それから直ぐに他の人がチャットをした。

『え、じゃあ尚更じゃね? 運命の愛、始まらなかったん……!?』

 リアルとネットの反応がここまで違うのは、一体何故なのであろうか。ネットの反応が本心なのか、それともリアルの反応が本心なのか、考えていたらキリがない。

 律は自分の発言が文字やデータとなって残り続けるから、ネットの中では皆が優しくなれるのだと思った。
 勿論、匿名というところもあり、攻撃的になってしまう人がいるのも本当のことである。

 様子を見ていて、律もそろそろ何かチャットを送るべきだと考え、スマホのキーボードをゆっくりと打っていく。メンバーの中に同性愛に否定的な意見を持ち合わせた人が居なかったことに、一安心をしていた。

『それか相手が、ノンケだったんですかね……?』

 この質問に対しても、landは否定の言葉を述べる。

『んー、見た感じゲイっぽかったよ。それより理久さんのフルネーム、どっかで聞いた覚えがあるんだよなーって、ことが心残りかな。因みにボク、他の人に片想い中だしwww』

 さり気なく語られた最後の一文に、何処か孤独で哀しそうな雰囲気が漂っていると律は感じる。
 その相手がもう亡き人、と言うよりも、片想い中の相手にも好きな人がいると考えた方が納得する一文だった。

 こんなにもゲームの中ではリアルが充実しているように見える人でも、悩むことがあるのだと、自身が急な親近感を覚えていることに気づく。

 ──まあ、理久って名前の人ならお隣さんにいるけど……。

 あまりの勢いでチャットが流れる為、律は理久の苗字を完全に見逃していたのだ。

 もし、本当にフルネームが一致していることを知れば、何か二人の状況は変わっていったのかもしれない。
 やはり、landと唯斗を重ねてしまっている部分もあるからか、律はlandだけには必要以上に世話を焼いてしまう癖がある。

『片想い中かよ。じゃあ、ソイツに振られたら、また旅行先に行って、理久さんを探す旅が始まるんだな(涙)』

 landからは爆笑スタンプが送られてきているが、律は一緒に流されてまで、爆笑スタンプを送る気にならなかった。
 スタンプを送ることで、今のlandの片想いの存在を否定してしまう気がしたから──。

『それよりさ! 自殺を止めるなんて昔からお前、警察の素質があったんだな~。流石"刑事"だわ』

 チャットに新着で流れてきた『刑事』という単語が、律の目に止まった。色々警察のお世話になってきた律だが、頭に浮かんだのは事故の際の警察の対応ではなく、紛れもない理久のことについて。

 それらは全て日常的に聞こえる音や過去の会話、個人的な観察でのことで、物として提出できる証拠はない。
 だが、正直に心の奥を明かせば、誘拐、又は人を殺している可能性の高い理久を、きちんと警察へ通報するべきなのか、と改めて感じたのである。

 ──landさんに相談乗ってもらおうかな……。

 刑事というのもネット特有の嘘かもしれないし、証拠の無さすぎる状況では、相手にさえしてくれないかもしれない。

 そう考えるのは当然のことなのだが、律は顔も知らない誰かでも、『landさんなら大丈夫だ』と思ってしまう。

 一度だけ、緊張感を押し殺してから、口の中に溜まった唾液をごくり、と飲み込む。

 次にチャット内にあるlandのアイコンをそっとタップし、プロフィールを開く。まるで、相談への手助けをするかのようだ。

 この日ばかり回線がよく、直ぐにlandと律の個人チャットがスマホの画面に反映された──。
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