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異世界転生から始まる……?
食材ですか?
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「シアさん! 女の人が倒れてますよ!」
海岸沿いをのんびりと散策し、早目に戻っておこうかというところで、砂浜に打ち上げられている黒い影を見つけた。
船の残骸に紛れてしまっているが、スキルを使えばひとつの人影が倒れているのが確認できた。
髪の長さと細い体躯からすると女性で間違いないだろう。
外海の話をした直後に遭難者を見つけるとか、フラグというかお約束というか。
イベント的な感覚はさておき、生きているならば救助しなくては。
残念ながら手遅れだったのだとしても、船の残骸が外海からの物なのかどうか確認したいところではある。
「俺、見てきます!」
シアさんをその場に残して駆け出した。
「バカ! 迂闊に近付くなっ!」
足を動かす事に集中していたせいで、背に掛けられた言葉の意味を考えるまでに時間を要してしまった。
スキル無しでも人影が確認できる距離に近付いた時、俺の眼前の砂浜が盛り上がった。
「――っ!?」
状況を把握するよりも早く、そいつは砂を被ったままの巨体を俺めがけて突っ込ませてきた。
シアさんの声に走る速度を落としていなければ、その体当たりをまともに受けていたかもしれない。
「うお――っと!」
身を捩るようにしてなんとか躱すも、掠っただけの革鎧が不吉な音を発する。
巨体らしからぬその速度は、まともにぶつかれば骨折どころでは済まないだろう。
俺の横を物凄い勢いで素通りしたそいつは獲物を仕留め損なった事に気付いたのか、急制動をかけてその場に着地した。
「は、早い!?」
驚く俺に向けて、そいつは大きな――本当に巨大な口をガパリと開いた。
地に落ちる影が俺の全身を包み込む。
(やべ――)
情けない事に、正体不明の敵を前にした俺は足が竦んでしまっていた。
喰われる――?
その瞬間を悟ってしまった刹那――眼前に迫る大口に爆炎が叩き込まれた。
炎の余波を浴びる事はなかったが、爆風によって背後に転がされる。
砂浜でなければ頭を強打して気を失っていたところだ。
『しっかりするの!』
アメジィの叱責を耳にしながら、転がりながらも身体を起こした。
『ああんっ! 無理してムーンソードの力を引き出したからエネルギー切れなの! 威力も大して出なかったの! あとは頑張って、なの!』
そのままアメジィの声は聞こえなくなった。
今の言葉の通りだったのだろう。
動けなくなってしまった俺を見兼ねてアメジィが手を貸してくれたのだ。
(くっそ、不甲斐ない…っ!)
二度と、あんなみっともないザマは晒すものか。
再度、大口を開けて迫るそいつに向けて、抜き放った刀を全力で斬りつけた。
しかし返ってきた感触は、岩石を叩いたような軽い痺れ。
開けていた口を素早く閉じ、そいつは俺の渾身の一撃を防いだのだ。
「早い上に硬いとか……っ!」
このままでは埒が明かない。
距離をとって仕切り直したいところではあるが、正体が不明なままでどうやって距離を取ったものか。
「――おらあああああっっ!!!」
迷いを見せる俺を尻目に、裂帛の気合いが迸った。
そして俺の眼前に空間ができる。
「大丈夫かいっ!?」
飛び込んできたシアさんの体当たりが、そいつを離れた位置へと転がしていた。
そいつは巨体でありながら、見た目ほどに重量はなかったらしい。
「ありがとうございます!」
「礼なんて後でいいから!」
ともかく、これでやっと対峙する敵の姿を確認できる。
シアさんとも距離を開けながら、転がっていったそいつに視線を向けると――
「は、蛤っ!?」
そこに鎮座していたのは貝。
大きさはもちろん違うが、その形状は俺の記憶にある蛤そのままである。
横幅は確実に2メートルを超えており、厚みを見ても俺の背丈くらいありそうだ。
人間を襲うくらいなのだから、魔物に分類されるとみて良いのだろう。
「ハマグイだね。実物は初めて見るけど、もっと小さいかと思ってたよ」
パクパクと小刻みに殻を開閉させながら、蛤…じゃなくてハマグイは背(?)をこちらに向けた。
「くるよ!」
獲物を俺と定めたのか、出水管から潮を勢い良く噴き出し、俺に向かって一直線に飛び込んでくる。
「舐めんなっ!!」
尋常ではない速度だが、来ると分かっているものを避けられないような鍛錬をしてはいない。
身を屈めて突進を避けつつ、殻の端を剣先で突き上げた。
出水管の向きを変える事によって軌道を変えているハマグイだったが、外部からの衝撃を緩和できる程に高性能ではなかったようだ。
バランスを崩したハマグイは、回転しながら砂浜に突っ込んだ。
「もらった!!」
一足飛びに、俺の間合いにまで詰め寄る。
「【九重】!!」
刃が通らないならば、力技で砕くのみ。ひと息で九度斬りつける荒業だ。
寸分違わず同じ箇所を斬りつけたが、ハマグイの殻からは欠片ひとつ飛んではいない。
こちらも刃毀れなどしていないものの、なんつー硬さだ。
「――だったら、何度だってやってやらあ!」
出水管を覗かせるよりも早く、刀を振りかざす。
「【九重】! 【九重】! 【九重】っ!!」
本来ならば短時間に二度は打てない技だが、まったく疲労しない身体はさすが異世界だと思った。
それでも【九重】を複数当てた時点で、殻を砕いて倒す事は諦めた。
これは鉄壁というか、無敵属性というやつだ。実際、これだけ攻撃を受けて罅ひとつ入っていないのだ。
うまいこと口を開かせて攻撃するしかない。
「これでもくらいなっ!!」
詰め寄ってきたシアさんが剣を水平にして突き入れた。
俺の攻撃を見て同じ結論に至ったのだろう。
このあたりはベテランならではというところだ。
「げ――!?」
だが、剣先をハマグイに食い込ませたは良かったものの、瞬く間に刀身が軋み――砕かれた。
二枚貝の挟む力が強いという話は聞いた事があるが、こんな力で挟まれたら人間の身体などひとたまりもない。
驚愕を隠せないシアさんに向けて、ハマグイが大きく口を開く。
「――させるかよ!」
刀を垂直に立て、殻が閉じ込むのを防いだ。
ぎしりと殻と刀が擦れる音が響いたが、刀は折れる事もなくハマグイの動きを封じた。
相当に密度を増した材質なのだ。そうそう簡単に折れたりしてたまるものか。
ハマグイは自身の挟力に絶対的な自信があるのだろう。
口を開き直して刀を外すよりも、力任せに潰してしまおうとしている。
なんとも単純な思考回路ではあるが、俺達からすれば絶好の機会であり、ここを逃せば次は無いかもしれない。
「武器! 武器はないかい!?」
しかしながら俺の刀は塞がり、シアさんの剣も砕けている。
素手やそこらの石を手にしたところで、弾性の強そうな身に効果は薄そうだ。
「使いたくはなかったけど――!」
腰に差した短剣――ムーンソードを手に取った。
「シアさん、離れて!!」
魔術師という俺の側面を知っているシアさんならば察してくれると信じ、返答を待つ事なくムーンソードに呼び掛けていた。
「――燃えろっ!!」
ハマグイの殻の内側に真っ赤な火球が創り出された。
水分の蒸発する音が盛大に響き、ハマグイは狂ったようにのたうち回る。
なんちゃって魔法とはいえ、生き物である以上、その業火に耐えられる筈もない。
暴れたところで炎は離れず、ましてや掻き消える訳もなく、ハマグイを確実に焼ハマグイへと変えてゆく。
戦闘中ではあったが、なかなかに食欲を刺激される匂いが立ちこめる。
海に逃げ込もうと最後の足掻きをするハマグイだったが、向かう先には既にシアさんが回り込んでいた。
「こっちに――来んなっ!!」
散らばっていた船の残骸から手頃な木材を見繕っていたシアさんによって、単純な動きしか出来なくなっていたハマグイは見事に打ち返される。
「ナイスバッティン!!」
放物線を描いたハマグイは、砂浜に落ちた時には微動だにしなくなっていた。
焼ハマグイ、一丁上がりである。
海岸沿いをのんびりと散策し、早目に戻っておこうかというところで、砂浜に打ち上げられている黒い影を見つけた。
船の残骸に紛れてしまっているが、スキルを使えばひとつの人影が倒れているのが確認できた。
髪の長さと細い体躯からすると女性で間違いないだろう。
外海の話をした直後に遭難者を見つけるとか、フラグというかお約束というか。
イベント的な感覚はさておき、生きているならば救助しなくては。
残念ながら手遅れだったのだとしても、船の残骸が外海からの物なのかどうか確認したいところではある。
「俺、見てきます!」
シアさんをその場に残して駆け出した。
「バカ! 迂闊に近付くなっ!」
足を動かす事に集中していたせいで、背に掛けられた言葉の意味を考えるまでに時間を要してしまった。
スキル無しでも人影が確認できる距離に近付いた時、俺の眼前の砂浜が盛り上がった。
「――っ!?」
状況を把握するよりも早く、そいつは砂を被ったままの巨体を俺めがけて突っ込ませてきた。
シアさんの声に走る速度を落としていなければ、その体当たりをまともに受けていたかもしれない。
「うお――っと!」
身を捩るようにしてなんとか躱すも、掠っただけの革鎧が不吉な音を発する。
巨体らしからぬその速度は、まともにぶつかれば骨折どころでは済まないだろう。
俺の横を物凄い勢いで素通りしたそいつは獲物を仕留め損なった事に気付いたのか、急制動をかけてその場に着地した。
「は、早い!?」
驚く俺に向けて、そいつは大きな――本当に巨大な口をガパリと開いた。
地に落ちる影が俺の全身を包み込む。
(やべ――)
情けない事に、正体不明の敵を前にした俺は足が竦んでしまっていた。
喰われる――?
その瞬間を悟ってしまった刹那――眼前に迫る大口に爆炎が叩き込まれた。
炎の余波を浴びる事はなかったが、爆風によって背後に転がされる。
砂浜でなければ頭を強打して気を失っていたところだ。
『しっかりするの!』
アメジィの叱責を耳にしながら、転がりながらも身体を起こした。
『ああんっ! 無理してムーンソードの力を引き出したからエネルギー切れなの! 威力も大して出なかったの! あとは頑張って、なの!』
そのままアメジィの声は聞こえなくなった。
今の言葉の通りだったのだろう。
動けなくなってしまった俺を見兼ねてアメジィが手を貸してくれたのだ。
(くっそ、不甲斐ない…っ!)
二度と、あんなみっともないザマは晒すものか。
再度、大口を開けて迫るそいつに向けて、抜き放った刀を全力で斬りつけた。
しかし返ってきた感触は、岩石を叩いたような軽い痺れ。
開けていた口を素早く閉じ、そいつは俺の渾身の一撃を防いだのだ。
「早い上に硬いとか……っ!」
このままでは埒が明かない。
距離をとって仕切り直したいところではあるが、正体が不明なままでどうやって距離を取ったものか。
「――おらあああああっっ!!!」
迷いを見せる俺を尻目に、裂帛の気合いが迸った。
そして俺の眼前に空間ができる。
「大丈夫かいっ!?」
飛び込んできたシアさんの体当たりが、そいつを離れた位置へと転がしていた。
そいつは巨体でありながら、見た目ほどに重量はなかったらしい。
「ありがとうございます!」
「礼なんて後でいいから!」
ともかく、これでやっと対峙する敵の姿を確認できる。
シアさんとも距離を開けながら、転がっていったそいつに視線を向けると――
「は、蛤っ!?」
そこに鎮座していたのは貝。
大きさはもちろん違うが、その形状は俺の記憶にある蛤そのままである。
横幅は確実に2メートルを超えており、厚みを見ても俺の背丈くらいありそうだ。
人間を襲うくらいなのだから、魔物に分類されるとみて良いのだろう。
「ハマグイだね。実物は初めて見るけど、もっと小さいかと思ってたよ」
パクパクと小刻みに殻を開閉させながら、蛤…じゃなくてハマグイは背(?)をこちらに向けた。
「くるよ!」
獲物を俺と定めたのか、出水管から潮を勢い良く噴き出し、俺に向かって一直線に飛び込んでくる。
「舐めんなっ!!」
尋常ではない速度だが、来ると分かっているものを避けられないような鍛錬をしてはいない。
身を屈めて突進を避けつつ、殻の端を剣先で突き上げた。
出水管の向きを変える事によって軌道を変えているハマグイだったが、外部からの衝撃を緩和できる程に高性能ではなかったようだ。
バランスを崩したハマグイは、回転しながら砂浜に突っ込んだ。
「もらった!!」
一足飛びに、俺の間合いにまで詰め寄る。
「【九重】!!」
刃が通らないならば、力技で砕くのみ。ひと息で九度斬りつける荒業だ。
寸分違わず同じ箇所を斬りつけたが、ハマグイの殻からは欠片ひとつ飛んではいない。
こちらも刃毀れなどしていないものの、なんつー硬さだ。
「――だったら、何度だってやってやらあ!」
出水管を覗かせるよりも早く、刀を振りかざす。
「【九重】! 【九重】! 【九重】っ!!」
本来ならば短時間に二度は打てない技だが、まったく疲労しない身体はさすが異世界だと思った。
それでも【九重】を複数当てた時点で、殻を砕いて倒す事は諦めた。
これは鉄壁というか、無敵属性というやつだ。実際、これだけ攻撃を受けて罅ひとつ入っていないのだ。
うまいこと口を開かせて攻撃するしかない。
「これでもくらいなっ!!」
詰め寄ってきたシアさんが剣を水平にして突き入れた。
俺の攻撃を見て同じ結論に至ったのだろう。
このあたりはベテランならではというところだ。
「げ――!?」
だが、剣先をハマグイに食い込ませたは良かったものの、瞬く間に刀身が軋み――砕かれた。
二枚貝の挟む力が強いという話は聞いた事があるが、こんな力で挟まれたら人間の身体などひとたまりもない。
驚愕を隠せないシアさんに向けて、ハマグイが大きく口を開く。
「――させるかよ!」
刀を垂直に立て、殻が閉じ込むのを防いだ。
ぎしりと殻と刀が擦れる音が響いたが、刀は折れる事もなくハマグイの動きを封じた。
相当に密度を増した材質なのだ。そうそう簡単に折れたりしてたまるものか。
ハマグイは自身の挟力に絶対的な自信があるのだろう。
口を開き直して刀を外すよりも、力任せに潰してしまおうとしている。
なんとも単純な思考回路ではあるが、俺達からすれば絶好の機会であり、ここを逃せば次は無いかもしれない。
「武器! 武器はないかい!?」
しかしながら俺の刀は塞がり、シアさんの剣も砕けている。
素手やそこらの石を手にしたところで、弾性の強そうな身に効果は薄そうだ。
「使いたくはなかったけど――!」
腰に差した短剣――ムーンソードを手に取った。
「シアさん、離れて!!」
魔術師という俺の側面を知っているシアさんならば察してくれると信じ、返答を待つ事なくムーンソードに呼び掛けていた。
「――燃えろっ!!」
ハマグイの殻の内側に真っ赤な火球が創り出された。
水分の蒸発する音が盛大に響き、ハマグイは狂ったようにのたうち回る。
なんちゃって魔法とはいえ、生き物である以上、その業火に耐えられる筈もない。
暴れたところで炎は離れず、ましてや掻き消える訳もなく、ハマグイを確実に焼ハマグイへと変えてゆく。
戦闘中ではあったが、なかなかに食欲を刺激される匂いが立ちこめる。
海に逃げ込もうと最後の足掻きをするハマグイだったが、向かう先には既にシアさんが回り込んでいた。
「こっちに――来んなっ!!」
散らばっていた船の残骸から手頃な木材を見繕っていたシアさんによって、単純な動きしか出来なくなっていたハマグイは見事に打ち返される。
「ナイスバッティン!!」
放物線を描いたハマグイは、砂浜に落ちた時には微動だにしなくなっていた。
焼ハマグイ、一丁上がりである。
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