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1章:駆け出しテイマーの歩み方

25. これがギンジさん流トレーニング術!

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「ふっ!くぅ!このっ!!」

 ギンジさんの訓練を終えた翌日、私は『行動の主導権を維持したまま相手を望む通りに動かす』戦い方を身に着けるために猿と戦っていた。
 けれどそれは思った以上に難しく、回避に専念せず積極的に攻撃を加えるために隙が出来て被弾も多くなる。被弾すると更に隙が出来てしまうので、そこからは主導権が相手に移り防戦一方になってしまうという悪循環。
 無理やり相手の懐に飛び込み攻撃を加え攻防の主導権を取り戻そうとするも、未だに機動力が30未満で足枷によるデバフで更に機動力を落としている私にそれを強引に成すだけの力は無かった。
 
 ――ステータスで劣ってる私が強引に主導権なんて取れる訳がない。まずは回避に専念して仕切り直さなきゃ。

 被弾したことで焦ってしまっていたが、無理手で強引なやり方に失敗したことで逆に冷静さを取り戻すことが出来た。それからは以前までの戦い方にシフトし、回避に専念しながらリズムを整え攻撃の隙を伺う。

 ――……ここっ!

 猿から繰り出された大振りの拳を身を屈めて避けた後、そのままの距離を詰めて猿の足にスラッシュを叩きつけ、そのまま動きを止めず相手の背後に回り込み首に向かってスパイラルエッジを叩き込んだ。
 それでもHPを削りきることは出来なかったが、猿は背後からの強烈な一撃によって前方に倒れ込んだため、私はその背を踏みつけ両手に持った2本の短剣で執拗に首を攻撃し続ける。

「グ、グギャァアア!」
「……ふぅ。なんとかなった。けど、主導権を持ち続けるのって難しすぎるよ……」

 何度目かの攻撃によりやっと光となって霧散したモンスターを眺め、主導権を持ち続ける戦い方の難しさに溜め息する。
 只管避けて相手のスタミナを削り、動きが鈍くなった所で攻撃に転じて倒すというやり方は難しいことを考えずに1つの行動に集中すれば良かったため楽だった。けれど積極的に攻めて戦いの主導権を握り続けるためには、複数のことを同時に考えて行動しなくてはならない。その今までと違う戦い方には高い集中力を費やす必要があり、たった1戦しただけだというのに私は大きく疲弊してしまっていた。

「とにかく場数を踏んで慣れていこう。頭じゃなくて体で覚えるのがギンジさん流トレーニング術!!」

 ギンジさんは何かを教える時にあまり言葉での説明をもちいない。わざと失敗させたり実際に体験させることによって体で覚えさせるのだ。
 逆にロコさんは極力リスクを減らし、必要な時に必要なことを順序立てて説明してくれる。間違ってもレキをロストさせられないため、ロコさんのやり方はとても安心感がある。
 そんなこんなで私はギンジさん流トレーニング術に従いながら猿との戦いを繰り返し、自己改善を繰り返していった。

 ……

 …………

 ………………

 ――ああ、主導権を得るために重要なのは『観察』と『予測』だ。

 猿との戦いを始めて2時間程経過した時、私は遂に1つの気付きを得た。それは『ギンジさんが最初に回避特化の戦い方を教えた理由』だ。
 回避に専念する戦い方は相手をよく観察し、攻撃パターンを覚え、次の動きを予測することが重要だった。そして何のことは無い、主導権を積極的に奪取する戦い方も本質は同じだったのだ。けれど私は、攻撃することを優先し過ぎてしまったがために相手の初動の動きのみを予測して突っ込んで、その後の動きを予測出来なくなって反撃を食らってしまっていた。
 今の私にはスラッシュからのスパイラルエッジという鉄板コンボと、猿の攻撃パターン予測という武器がある。これからやることも同じだ。こちらから積極的に動いた場合の猿の行動パターンを覚えて、それからの相手の行動を予測し、予測に合わせた鉄板コンボを構築していく。
 私がこれから戦う相手は猿だけではないが、きっと猿との戦いの経験は他のモンスターとの戦いにも活用できるはず。相手の行動予測には何よりも経験が重要になってくるのだから。
 そうして猿との戦い方に変化が出て来た頃、レキとの散歩(湿地帯での訓練)にいかなくてはいけない時間になってきたので帰還結晶を使ってプライベートエリアへと戻ることにした。当初ギンジさんの言葉に倣い毎回死に戻りしていた私だが、訓練での収支的に黒字になり帰還結晶を購入しても問題ないと判断してからは毎回アイテムで帰還するようにしている。

 ――だって、やっぱりフルダイブ環境下での死に戻りって精神的にくるものがあるんだもん……仕方ないよね?
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