上 下
42 / 105
2章:テイマーとしての覚悟

39. 新しい仲間

しおりを挟む
 1位から3位までの順位発表が終わったあとはステージに上がっての表彰式だ。私は緊張気味にステージまで歩いて行き、3人揃った所で表彰式が始まった。

「ではまず、3位のタルルさん。スイマーとして参加した貴女には記念トロフィーともう1つ、『バブルリング』を贈呈します」

 バブルリングとは腕に着ける青い金属製の腕輪で、着けることで薄い空気の膜で体を覆い、水中でも長時間呼吸をすることが出来るようになるスイマー専用装備だ。

「次に2位のナツちゃん。テイマーとして参加した貴女には記念トロフィーともう1つ、『スノードラゴンの卵』を贈呈します」
「え!?」
「え?」
「あ、すみません! はい、ありがとうございます!!」

 よく考えてみたら、私優勝賞品しか見てなくて2位3位の賞品が何なのか調べていなかったのだ。スノードラゴンという種類のペットについても情報を持っていないので、すぐにロコさんに聞くか調べないといけない。

「もしかして、ナツちゃん……1位以外の賞品を調べて無かった?」
「あぅ、その……ごめんなさい」
「あはは♪ ナツちゃんは見かけによらず豪胆だね!」
「あぅ~、本当にごめんなさい!」

 観客エリアからも笑いが巻き起こってしまい、私はもう恥ずか死にそうだ。早く表彰式が終わってこの場から逃げ出したい。
 それから私は俯きがちになり、「早く表彰式よ終われ」と願いながら気配を消し続けた。

「優秀な成績を収めた3人のパフォーマーに惜しみない拍手を!! ……これにてかくし芸大会を終了致します。ご参加頂きありがとうございました~!!」

 閉会式を終えると、私はそそくさとステージを降りてロコさん達の元へと向かった。

「お主、2位以下の賞品を知らなかったのかえ?」
「うぅ~、だって、1位の『可能性の卵』が目に飛び込んできてからは、それしか見えなかったんです……」
「相変わらず落ち着きがないのぅ。テイマーは常に冷静に情報を集め判断することが大切じゃぞ?」
「まぁまぁ、ナツちゃんのこういう所が瞬発力の源なんだから立派な長所だよ」

 ミシャさんからはフォローしてもらえたが、確かにこの猪突猛進な性格はテイマーとして仇になる可能性がある。冷静に情報を集めて、考え行動出来るように頑張ろう。……私に出来るかな?

「あの、ロコさん。スノードラゴンってご存じですか?」
「ああ、勿論知っておるぞ。名前の通り氷属性のドラゴンで、見た目は白く美しいドラゴンじゃな。最近のアップデートで、スノードラゴンの幼体が実装されてテイム可能になったのじゃ」

 プログレス・オンラインでは基本的にモンスターの幼体しかテイムすることが出来ない。その為、幼体が存在しないモンスターはテイム不可能なのだ。そしてこのスノードラゴンというモンスターは見た目が美しく、とても人気があるモンスターだったが、今まで幼体が存在していないためにテイムが出来なかったらしい。
 ちなみにスノードラゴンの幼体のポップ率はかなり低く、意図せず私はレアペット2体持ちとなった。

「今卵を孵すと、珍しい物見たさに人が集まってきそうじゃの。卵を孵すならお主のプライベートエリアが良かろう」
「そうですね。あ、それなら、今から私のプライベートエリアに来ませんか? この子が手に入ったのは皆のおかげなので、私のプライベートエリアでお披露目式みたいな」
「いいね♪ 私スノードラゴンの幼体見たことないから、すっごい興味あるよ!」
「う~ん、じゃがナツのプライベートエリアは初期部屋じゃろ? 少し手狭ではないかのぅ」
「……確かにそうですね。出来ればレキにも見て欲しいから3人とペット2匹が居る状態に……狭いですね」

 プライベートエリアは初期の状態では少し手狭だ。広くするには商業組合で手続きする必要があり、プライベートエリアのグレードに合わせた料金を月々支払わなければならない。

「ナツが良ければ、わっちのプライベートエリアに来るかえ?」
「え! いいんですか?」
「うむ、わっちは一向に構わん。こちらで良ければ菓子など作って祝勝会でも開くのも良かろう」
「ロコさんが作るお菓子!! それを言われたらもうロコさんの家で決まりですよ」
「よし、じゃあロコっちの家で祝勝会だね! そう言えば私もロコっちの家に行くの初めてだね」
「わっちは滅多に人を呼ばぬからの。ほれ、これがわっちの家のキーじゃ。使い捨てタイプの物じゃから、使う際は気を付けるんじゃぞ?」

 そんなこんなでロコさんのプライベートエリアで祝勝会が決まった。
 ロコさんから今貰ったキーは、登録されたプライベートエリアへ転移する為のアイテムらしく、使い捨てタイプは一度使うと消えてしまうそうだ。マスターキータイプの物もあるが、これは基本家主専用で人に渡す物ではないらしい。
 ロコさんは先に戻って準備するとのことで、私たちは1時間後にキーを使ってロコさんの家へ向かうこととなった。

 ……

 …………

 ………………
 
「ここがロコさんのプライベートエリア……広い!!」
「だねぇ。話には聞いてたけど、実際に見ると圧巻だね」
 
 プライベートエリアは大きく分けて部屋タイプと戸建てタイプの2つがある。ロコさんのプライベートエリアは草原のような庭付きの戸建てタイプだ。庭には沢山のペット達が居て、それぞれが遊んだり昼寝をしていた。

「おお、来たか。準備は出来ておるぞ。さぁ、遠慮せずに上がってくれ」

 ロコさんの家は草原の真ん中にある木造の大きな家だった。中もとても広かったが、意外と家具や飾りといった物は少なく、とても品のある感じの内装だ。

「ロコっち、家は凄い大きいのに家具とかってあんまり無いんだね。ちょっと勿体なくない?」
「家にはペット達も入ってくるからの。物が多いと不便なんじゃよ。それに人を呼ぶことも滅多にないでな」
「あ~、なるほど。庭に居るあの子達も入ってくるなら、足の踏み場は多い方がいいのか」
「そういうことじゃな。さて、菓子や飲み物は用意出来ておるが、卵を孵すのは食べる前と後どちらにするかの?」
「……先に孵したいと思います。折角ロコさんが用意してくれたお菓子ですし、出来れば一緒に食べたいので」
「スノードラゴンの幼体、凄い楽しみ! きっと可愛いんだろうな♪」

 私はまずサモンリングからレキを具現化して、その後インベントリからスノードラゴンの卵を取り出した。すると目の前に「スノードラゴンの卵を孵しますか?」というシステムメッセージが表示されたので、それにタッチして卵を孵した。
 バリバリバリという音と共に卵に亀裂が入っていき、中の子が出てこようとしている。

 ――しまった! 新しい子の名前考えてなかった!!

 そう、私は猪突猛進でいつも何かを見落としてしまう女なのだ……。
しおりを挟む

処理中です...