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3章:それぞれのテイマーの道

78. 規則の限界

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「あ、あの! そんな凄い二つ名持ちを集めたギルドに私が入ってるのって、他の人からおかしいって思われないでしょうか? そもそも私二つ名持ってませんし」

 そう私は重大なことに気が付いてしまったのだ。……私、弱すぎ!?
 確かに私はロコさんやギンジさんのお陰でスキルが凄い伸びている。とは言っても現状の私の強さは中級下位程度の強さしかなく、そもそも二つ名を持っていない私が二つ名持ちを集めたギルドに入っていることに不信感を持たれてしまう。

「ふっふっふ。そこはどうとでもなるのだよ! 視聴者の思考を誘導する方法なんてごまんとあるのさ♪」
「ぐ、具体的にどうするんですか?」
「う~ん、方法は色々あるけど、正直運営側で出来る事と出来ない事が分からないから、ファイたんにちょっと相談したいね」
「ファイたんとは私のことか? まぁ、対抗戦力を整えるためにもギルド設立は急務なので問題ないが」

 ミシャさんには何か妙案があるらしい。でもやっぱり、このメンバーの中に名前を連ねるのにはちょっと気後れしてしまう。

「あ、話をどんどん進めちゃってるけど、シュン君の意見をまだ聞いてませよ! ギルドに入る為には色々メリットとデメリットがあるから、そこの話もちゃんとしないと!」
「そうですね。正直今は置いてけぼり状態なので、詳しい情報と状況について教えて頂けると助かります」

 ――シュン君はあまり自己主張をしないタイプみたいだし、押しの強いこのメンバーではどんどん本意ではない方向に決まってしまうかもしれない。ここは私がしっかり守ってあげないと!

 その後はファイさんによって、バグモンスターの脅威とギルド設立の意味、そしてギルド加入のメリットとデメリットが説明された。
 
「バグモンスターの噂自体は掲示板を見て知ってましたが、そんな事情があったんですね。……分かりました。プログレス・オンラインは僕にとっても大切な世界ですから、それを守るためなら是非協力させて下さい」
「えっと、本当に大丈夫? バグモンスターはデータ自体を破壊する危険なモンスターだし、ギルド加入すると公式イベントには出られなくなっちゃうんだよ?」
「元々イベントには興味がなかったので出てなかったですし問題はないですね。それに……データ破壊って言っても、当たらなければ問題無いですよね?」

 そう言って笑うシュン君の笑顔には何とも言えない凄みがあった。

 ――『守ってあげないと』とか生意気言ってすみませんでした!!

 その後はファイさんとミシャさんでギルド設立について打ち合わせをして、その間私達はロコさんの家でお茶会としゃれこんだ。

 ……

 …………

 ………………

「そう言えばナツよ。お主は何故シュンと興行の街におったのじゃ? 確か蟻巣の森でレキ達のレベル上げをしておったと思うのじゃが」
「えっと、それが……」

 私は蟻巣の森でハイテイマーズと会ったことと、そこからシュン君と会った経緯を説明した。

「そうか……ナツ、すまぬ。わっちの考えが足りんかったようじゃ。まさか人気エリアまで独占するなどと、そんな大胆な行動まで起こすとは考えておらんかったのじゃ……」
「いえ、ロコさんが悪い訳じゃありませんから! 全部ハイテイマーズが悪いんです! それにちゃんと通報したので今頃は居なくなってると思います」
 
 ロコさんが責任を感じて悔いるような表情を見せたため、私はすぐにそれを否定した。ロコさんはハイテイマーズの話題になると、よくこういう表情をする。……ロコさんは何も悪くないのに。

「ナツさん……多分、そう簡単に彼らは狩場の独占を止めないと思います」
「え! でも、パブリックエリアの独占なんて完全な違反行為だし、運営に言えばペナルティを与えてくれるんじゃないの?」
「厳密に言うと、ハイテイマーズは違反行為をしていないんですよ。常にグレーゾーンからはみ出さないようにして、自分たちの利益を貪っているんです」

 ハイテイマーズは他プレイヤーから煙たがられる行為を沢山しているが、それらは常にギリギリ違反にならない範囲で行われており、そのため運営もハイテイマーズの対応に難航していて、彼らの犯行はどんどんエスカレートしていっているらしい。
 もし規約を無視して取り締まろうとすれば、その事例を逆手にとって他プレイヤーへの嫌がらせに使われる可能性すらあるそうだ。

「そんな……それじゃあ、これからもハイテイマーズはやりたい放題ってこと?」
「規則や法律、それらは必ずしも弱者を守るものだとは限らんからのぅ……」

 今もやりたい放題のハイテイマーズを取り締まれない。そんな現実を知って、私は表情を暗くしてしまう。

「一応我々運営は今、そのあたりの件で対応中だ。もう暫く時間は掛かりそうだがな」
「!?」

 またやられてしまった。本当にファイさんは私を驚かせることに味を占めているようだ。

「ミシャとの話し合いは終わったのかえ? それに対応中とはどうする予定なのじゃ?」
「話し合いは終わった。後ほどミシャ君の方から説明があるだろう。それと、迷惑行為に対する対応についてだが……今後プログレス・オンラインでは新たなステータスとして『カルマ値』を導入する予定だ」

 カルマ値、それは今のグレーゾーンを狙った迷惑行為に対応する為の物で、簡単に言うと神AIによってプレイヤーの行為をチェックし、他プレイヤーやゲーム自体に迷惑を掛ける行為を行うとカルマ値が加点されるようになるらしい。
 そしてカルマ値の値によってペナルティ対象とみなされる行為のハードルを下げる。そうすることで、日常的に迷惑行為をするプレイヤーにペナルティを与え、ペナルティを与えた事例を使って善良なプレイヤーに嫌がらせをする行為を抑制することが出来るそうだ。

「凄い! じゃあ、カルマ値を導入すればハイテイマーズみたいなのも取り締まれるんですね! ……でも、暫く時間が掛かるってどうしてですか?」
「カルマ値導入というのは、この世界に新たなステータスとルールを導入する行為なんだ。その影響範囲はかなり大きいため、バグモンスターという不確定要素が暴れている今の状態ではとても導入出来ない」
「つまり、カルマ値を導入するのはバグモンスターの問題を解決したあとってことですね?」
「そういうことだ」

 バグモンスターを倒す理由が1つ増えたようだ。レキ達やロコさん達が居るこの世界を守るため、ハイテイマーズを取り締まるため、その2つの理由があれば私は挫けずどこまでも頑張れる。

「あ、ナツちゃん。さっきファイたんと話し合ったんだけど、ナツちゃんを二つ名持ちってことにして新しいギルドのギルマスをやってもらうことに決まったよ♪」

 ……もう挫けそう。
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