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3章:それぞれのテイマーの道

89. エイリアス、始動

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「という訳で、今日からバグモンスター討伐イベントが開始された。これから皆には、そのイベントに参加しているという体で本物のバグモンスター討伐を行ってもらうことになる」

 少し前から運営の方で準備していたバグモンスター討伐イベントが、今日から開始された。
 このイベントの仕様設計はかなり難航したらしく、神AIから何度も仕様のリテイクを出されてやっと準備に取り掛かれたのだそうだ。

 イベント用バグモンスターの特徴は主に2つ。
 1つはダメージ無効ギミック。バグモンスターには表面上分からない内部カテゴリが複数存在し、そのカテゴリに対応した専用アイテムや専用武器でないとダメージが与えられない仕様となっている。
 そしてその専用アイテムや専用武器を手に入れる為のクエストも多数用意しているそうだ。

 特徴2つ目は今回のイベント限定の特殊攻撃。ペットやプレイヤーはイベントモンスターから攻撃を食らうと一見データが壊れたかのように見える特殊テクスチャを強制付加される。更に、攻撃された場所によっては様々な種類のデバフが付くようになるそうだ。
 ちなみに、本物のバグモンスターの被害に遭ってしまったプレイヤーには、今までと違う全く新しい試みのイベントでバグが発生した事にして、後日運営からデータ修復と共に謝罪の品を贈呈する手筈となっている。

 
 そしてイベントが開始された2日後、新生ギルド【エイリアス】の初出動の日がやって来た。

「よりにもよって、あの場所でバグモンスターが発生するなんて……」

 新生ギルド【エイリアス】が作られて初の活動場所は、なんと蟻巣の森だった。
 ファイさんが言うには、蟻巣の森には現在もハイテイマーズのメンバーが多くいたようで、かなりの被害が出ているそうだ。どうも、森の奥で発生したバグモンスターに煽られて大量のモンスターが雪崩れ込んで来てしまい、ペットロスト等の被害が出ているらしい。
 
「バグモンスター化したのはレジェンダリー・アントヴァンガード。蟻巣の森の最奥領域に生息するモンスターだ」
「また面倒臭い奴が出て来たのぅ。攻撃力と耐久力が高く、巨体の癖に機動力もある。唯一の救いは魔法や全体攻撃の類がないことか……」

 話を聞いた私達はすぐに蟻巣の森へと向かった。ちなみにシュン君は予定が合わずログインしていなかった。いつ現れるか分からないバグモンスターだとこういう事も頻繁に起きそうだ。
 尚、ファイさんに戦闘能力は無いらしく、運営専用エリアでバグモンスターのログ分析をしているとのことだった。

 ……

 …………

 ………………

 蟻巣の森の入り口付近はかなり険悪な雰囲気となっていた。奥から雪崩れ込んで来たモンスターは粗方倒し終えたようだが、そこにいたテイマー達の表情はどれも険しい。

「くそっ! こんなゴミアイテムになりやがって。俺の40時間がパーだ!!」

 1人のテイマーが、ロストしたペットの残したアイテムに悪態を悪態を吐いている。私はその言葉を聞いてむかっ腹が立ち、そのテイマーに一言言ってやりたくなったが、寸前の所でロコさんに止められてしまった。
 そう、プレイヤーのスタンスは十人十色であり、この世界のペットをどう捉えるかはその人次第なのだ。……けれど、やっぱりロストしたペットにあの言いざまは気に食わない。

「おお、獣の女王様じゃねぇか。隠居したとばかり思ってたんだが、こんな所で何やってんだ?」
「……ギース」

 私達が周りの状況を把握していた所に、失礼な態度の男が近寄って来た。

 ――ギース……この人がハイテイマーズを壊した元凶。

「おお、それにこいつは女王様の新しいペット、アンタッチャブル様じゃねぇか! いやぁ、今日は散々な目に遭ったが、いいもんが見れてラッキーだったな」

 ギースは私を一目見ると、大げさな態度で話し続ける。
 私はロコさんのことが心配になり、ちらりとロコさんの顔を見ると……その冷たく恐ろしい表情に驚き固まってしまった。

「ナツはペットではなく、わっちの大切な弟子じゃ。……お主が何の理由でわっちやナツを煽っておるのかは知らぬが、どうせくだらぬ企みでもしておるのじゃろう? 低脳な浅知恵で動くのは今も昔も変わらぬようじゃな、ギース」
「おいおい、企みだなんて人聞きの悪いこと言うなよ。……お前のその顔を見てると、あの日のことを思い出すぜ。今度は大切な友達を守れるといいな?」

 その言葉は私の怒髪天を突いた。私は反射的に踏み込み、ギースの顔面に拳を叩き込もうと動き出す。けれどそれは、ミシャさんにコートの襟を掴まれて阻まれてしまう。

「っ! ミシャさん、どうして!?」
「ダ~メ♪ きっと碌な結果にならないと思うから、ね?」

 ミシャさんは有無を言わせない笑顔で私にそう言い諭す。けれど、私は自分の感情に収まりが付かないとミシャさんと見つめ合っていると、その場の警告音が鳴り響いた。ギースの目の前に警告ウィンドウが表示されたのだ。

「わりぃな、連れが粘着質なプレイヤーに絡まれてるのかと思って運営に通報しちまった。勘違いだったら済まんな」
「……っち、興が削がれた。おい、お前ら! さっさと撤収するぞ!」

 私達がやり取りしている間にギンジさんはさっさと運営に通報していたようだ。
 警告されたギースはごねる事なく仲間たちを連れてこの場を去っていった。本当にハイテイマーズの奴らは引き際をわきまえているから厄介だ。

「ロコ、引きずるなよ? バグモンスターとメインで戦うのはナツだ。お前が引きずれば危険に晒されるのはお前じゃなくナツなんだからな」
「言われんでも分かっておる。……はぁ、ほんに面倒臭いのに絡まれてしまったの。さっさとバグモンスターを退治して帰るのじゃ」
「いいね~。じゃあ、ロコの家でエイリアスの初戦果を祝ってパーティーだ! 勿論料理はロコが作ってね♪」
「勿論、私も手伝います!」

 ミシャさんは本当に空気を作るのが上手い。先ほどまでの重い空気は霧散し、この後戦うバグモンスターへと自然に意識が向かい始めた。
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