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狂乱のバトルロワイヤル!-01
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一体、何がどうしてこうなった?
今、俺の目の前で繰り広げられているのは、まさに引くに引けない女の戦いであった。
一人目は艶やかでストレートな亜麻色の髪を腰まで伸ばし、流し目も麗しい凛とした美少女。その名をシズカ=クラフ=ケーラという。年齢は16歳。俺を『主様と呼び慕ってくれる彼女のエモノは薙刀。…とはいっても、ここは乱取りトーナメントの場。相手が大怪我をしないように、その穂先の部分はバンバスという竹によく似た植物を組み上げて作ってある。また切先と石突にも何重にも布が巻かれ、事故がないように留意されてあった。シズカ… 彼女の希望で静と呼ぶようにしているが… はその身体を半身に中段の構え。いかにも武士然とした真白の道着に身を包み、他の二人から発する殺気を受け流している。
二人目は狼を思わせる真っ赤な髪を後方になでつけた気品ある美少女。その派手とも言える衣服も見事に着こなしており、その出で立ちは無粋な簡易鎧… ブレスト・プレートやガントレットと付属部品などで構成された… をも気にならない程であった。そんな彼女の名は、フラウ=シュルヌ。年齢は17歳。普段は身に着ける衣装とは裏腹に比較的大人しい貴族のお嬢様なのだが、その言葉遣い故に、融通の効かない印象を皆に与えている。いや、確かに堅苦しい話し方ではあるのだが、その実、控えめな少女なのである。このフラウのエモノは中剣とラージ・シールド。中剣とは言え、バンバス製の只の竹刀なのだが、その重みはここに集ったおそらく三人の内で一番重い。フラウいわく、『可能な限りホンモノに近い剣を所望』との事で、特注製の竹刀となっている。フラウが前面に構えているラージ・シールドにも大怪我をしないように細工を施してある。彼女を正面から見れば、その身体も剣筋もシールドで隠れてしまう構えだ。
3人目は一番若く、15歳。オレンジ色の髪を左側にサイド・テールにした美少女だ。その名をシェスター=ネッテという。小柄な体躯と彼女のコンプレックスともなっている童顔。それ故に、旗艦”アジ・ダハーカ”内でも固定ファンが多いボクっ子である。猫足立ちの彼女はフットワークも軽く、片手用の小剣をエモノとしている。迷彩のシャツにダボっとしたズボンを大きめのサスペンダーで吊っている。そんな彼女の装備は機動性を重視した軽量の簡易ブレスト・プレート。非常に人懐っこく表情豊かな彼女も、今だけはキリリとした面持ちで挑んでいた。
では、事の始めを語っていこうか。そもそもはダス・ヴェスタでの激戦の後、不覚にも俺が敵将であるアムンジェスト=マーダーによる深手を負ってオースティン砦まで撤退した、クーニフ歴37年7月18日の事である。
「近いうちに戦力の底上げを行う必要があるね」
手傷を負ってベッドに横たわったままの俺のこの不用意な一言が、誰かさんの耳に入った。整備班のNo.2、ミヒャエル=ニッカーである。
後に、彼は語った。
「いや、単純に儲かると思ってたんですよ。祭りだと。胴元を張れば、少なくとも身銭にはなる。小遣い銭にしてパァッと使って、整備班の普段の労をねぎらいたいと思ったんでさ。それだけハードな部署なんスよ、ここは」
◇ ◇ ◇ ◇
クーニフ歴37年9月19日。新たな俺の神鋼騎兵、ハインリッガー・ギーヴルも納品され、傷の具合もほぼ完治した頃のお話である。陸上空母アジ・ダハーカ・空中空母ザカラエル・そして陸上輸送艇ダウティナ各艦の廊下、人だかりの中心に、ベタベタと貼り付けられたポスター群があった。見ると、このように書かれている。
『誉れ高きライヴ隊No.1は誰だ! 前代未聞の大乱闘?』
はぁ? 俺はこんなこと許可した覚えはないぞ?
俺はポスターの責任者として名を連ねている、最も責任ある名前を見つけ出した。ミヒャエル=ニッカー、その人である。ここは首根っこを捕まえて、洗いざらい吐いて貰う必要があるな。
俺はアジ・ダハーカのカーゴへ向かった。
「あら、ライヴさん。今日はどのようなご用ですか?」
メイーダ=アストネイガー。俺と同じくらいの身長、スラリとした体躯。青く澄んだ瞳とポニーテールに纏めた金髪の髪。顔に残るそばかすがとてもチャーミングな女性だ。若くして当艦の整備班の責任者であり、トップクラスの技術者でもある。油に汚れたつなぎを着て、肩にかけたタオルで汗を拭きながらの登場だ。
「実はね、メイーダさん。カクカクシカジカ…」
おれはこそっと耳打ちした。
「えええ!? そんな事、私は知りませんよ? そう言えば、ニッカーと数人のスタッフの姿が見えませんね。まさかとは思いますが、見つけたらイロイロと問いただしておきますね」
憤慨した様子でメイーダは、ドスドスと足音を立てながら奥へと引っ込んでいった。これで今回の騒ぎは丸く収まるだろう。
翌日の9月20日。ポスターに書かれている決行日時は本日の朝10時。果たして、このダス・ヴェスタにいる地域住民や鉱夫、現在駐留している兵士たちがゾロゾロと集まってきていた。
「メイーダさん! これはどういうことですか?」
管制室から見た情景に驚いた俺は、伝声管の蓋を開けて、メイーダのいるカーゴへと呼びかけた。
「どうもこうも… もう手遅れだったんですよ。それに」
弱々しいメイーダの声がここまで伝わってくる。
「整備班全員のためだと言われては、返す言葉もなく…」
「返す言葉もないもないでしょう!」
呆れた声で俺は叫ぶと、伝声管の蓋を閉めた。そして立ち上がると、ダス・ヴェスタの中央にあるちょっとした広場へと足を運んだ。ざわめきが、俺を包んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
広場は呆れ返るほど多くのギャラリーが詰め掛けてきていた。その群衆の中心にニッカー一派が陣取っているではないか。よくよく見ると、ホワイトボードを持ち出して掛け率を書き込んでいる。これは、つまり、賭場を開いている?
「何だ何だ、この騒ぎは! 俺はこんな騒ぎ、許可した覚えはないぞ!」
俺は大声でニッカーに問いただした。
「いいじゃありませんか、船長。先日の大戦で皆が娯楽に飢えているんです。それに」
ニヤついたニッカーの顔が、横目で選手控室の方を見やった。釣られて、俺も控室を覗き込む。俺の視線に気付いたのか、控室の中にいるシェスターたちがニッコリと微笑みを返してきた。
「…おい」
俺は横目でニッカーを睨みつけた。
「これはどういうことだ?」
「ええ。お三人方には優勝した場合、船長にアタックする権利をプレゼントと言う事になっておりまして」
あいもかわらず、ニヤつきながら解説するニッカー。糸のような目がますます細くなった。
「そんな話は聞いてない。故に、この大会は成立しない」
「えええ~? ここまで盛り上がっているんですよ? ここで民衆の盛り上がりを鎮火させるのは得策ではないかと存じますが? 群衆が暴れだすと、抑えるのは難しいですよ。それに」
「それに、…なんだ?」
俺は生唾を飲み込んだ。
「たった今交渉が成立しました! さぁ、ライヴ隊の隊長、ライヴ=オフウェイの参戦だァ!」
『うおおおおおおおおお!!!』
群衆の声が轟き、波打った。そして、ライヴコールがどこからともなく上がってくる。
「おい、俺は…」
「さて。これで参戦しなければならなくなりました。船長、ここまで我々をこき使ったツケ、ココで晴らさせえてもらいますぜ」
そうか、そういう事か。当たり前だが、俺は整備班に苦労をかけこそすれ、その縁の下の力持ち的な部分の栄誉を捧げたことがなかった。しまった。これは一理あるかもしれない。俺は決断した。
「ん~、よし、いいだろう。神輿になろうじゃないか。ただし、こちらもやるからには本気でいかせてもらう。いいな?」
「勿論でさ。当然、マージンはタップリと支払わせていただきます』
「そんなもんはいらねーよ!」
俺は言い放つと、選手控室と書かれたテントへと足を進めた。
◇ ◇ ◇ ◇
テントの中では、いろんな顔ぶれが揃っていた。こういったお祭り事を苦手とするエッセン=ハンプトフィンガー大尉を除き、アジ・ダハーカの乗員だけではない殆どのドラグナー乗りが参戦していることが見て取れる。また、騎馬兵や一般兵士も参加していることもあって、テントの中は一種新鮮な雰囲気があった。
やがて選手全員にゼッケンが配られる。手に取ると、若干大きいようだ。どうやら防具の上から被る使用らしい。ナルホド、俺には必要ない。担当員に言って取り替えてもらえるよう進言した。
「いいえ。船長には特に、大怪我されては困るんです。簡単な軽装でもいいですから、ちゃんと防具を身に着けてください」
ピシャリと言い切られてしまった。これでは仕方ない。俺は陳列してある防具を借りることにした。胸を守る簡素なブレスト・プレートと喉口を守るゴージット・プレート、ガントレットを選択。使用する武器はバンバス製のもの。せいぜい青あざができる程度のものではあったが、まともに当たったらアウト、つまり負けの宣告が行われる。そういうルールだ。
さて。防具を身に纏いゼッケンを着込むと、次はチーム決めである。幾つかのブロックに分かれており、最終的には4名が残る、バトルロワイヤル方式だ。厳正なる抽選の結果、最後に参加した俺はチームCに割り振られた。他のメンツはどうなっているのだろう、俺はトーナメント表に目をやった。
…うん、なんだか上手くパワーバランスが取られているようだ。これから以後は、特筆すべき選手以外、ゼッケン番号で選手を呼ぶことにすべきだな、うん。
とりあえず、だが、簡単に説明しよう。
俺が所属することになったチームCだが、バトルロワイヤルに含まれる計6名の中に、何人か気になる選手がいる。一人目は俺の配下でもあるゼッケン4番のエーズ=ロイターと、シェスターの隊のゼッケン6番、コリービ=フリーゲン。いずれもドラグナー乗りだ。エーズのエモノは長巻に分類される長剣、対するコリービはスピアである。他はザカラエル… ブルフント=ヴィジッター公の配下のドラグナー乗りが二人と、我が軍の騎士一名。ふむ。なかなか苦戦しそうだな。俺は、大きくため息をついた。
テントの外では、熱気で溢れかえっていた。賭けに興じる人々の声がここまで聞こえてくる。一体何がそこまで面白いかな? 俺はもうひとつ、大きくため息をついた。
『おおおおお!!』と、どよめきが上がった。どうやらチームFの選抜者が決定したようだ。二回戦に選出された最初の一人は、…なんとシェスター=ネッテ。流石というか、小さいながらも小隊をまとめているのは、決して伊達ではない。あちら、こちらでも選抜者が決まっているようだ。
近くで掛札が宙を舞った。チームKで無名の民兵が勝ち残ったのだ。アルトール=クルーガー。我が軍が新たに迎えた軍師、ヴァータス=クルーガーの妹である。年齢は18歳。兄に似ず、大きく見開かれた目が誰もを魅了する。美しい黒髪は、静曰く『生前の私に引けを取らない』とのこと。スラリと伸びた身長は、俺よりも数センチ上回る、いわゆるモデル体型だ。だが、事あらば彼女は豹変する。騎馬兵を率い身の丈よりも遥かに大きなドラグナーを狩るのだ。その事実を知らない民衆は、いかにも強そうな貴族騎士を選んだ。なんと申しましょうか、本当に運が悪い。そのアルトールが頬を赤らめ、俺の姿を見て大きく手を振った。
『チームC、第1広場に集合してください! 間もなく開戦します。お客様も奮ってお集まりください』
アナウンスが俺の出番を告げる。さぁて、いっちょ鈍った腕を奮ってみようかね。
広場に到着すると、既に雰囲気は出来上がっていた。轟音のような歓声が恐ろしいほど俺達を包み込む。
『チームC、出場者を発表します。まずはヴィジッター公爵配下の傭兵、フェファ=ヤパニシャール!』
前長のショート・ボブにカチューシャで前髪をあげたスタイル。ハッキリ言ってデコ娘。生来は甘えたがりなのかもしれない、甘い視線。美人というよりは可愛いと言った感じか? いずれにせよ、前情報では16歳と聞いた。16!? 俺と同い年じゃんかよ。見た目以上に苦労してんな。そんなフェファは、登場するなり長剣に相当する竹刀をブンと振り回した。
『続きまして、ライヴ隊配下の…』
「配下じゃねぇ! 俺の上司はシズカ様たった一人だ! そのうち俺の方がライヴの野郎よか上になってやるんだよ! 間違えんな、バーカ!」
間髪入れず、エーズは声を上げた。
『し、失礼。シズカ隊の…』
「エーズ=ロイターだ。思い知れ!」
会場がどっと沸いた。年齢は俺よりひとつ上というのが信じられないほど子供っぽい思考回路。錆びたナイフのような光を放つ眼差しは、結構マジで危なっかしい。その視線の先には俺がいる。いや、マジ厄介だ。だが、これでもコイツは恐怖公と呼ばれ怖れられたアムンジェスト=マーダーの親衛隊をも務めた人材でもある。そう簡単に倒せるような相手ではない。他のヤツにとっては、だ。エーズは顔にかかった前髪をハラリ、とかきあげ、その両手でなでつけ、キメ顔でこう言った。
「さぁ、今日こそ手前を叩き潰してやんよ!」
『3人目だ! 先程二回戦に選ばれたシェスター=ネッテの部下、コリービーフリーゲン!』
呼び出されたコリービは、実に大人としての振る舞いのできた人物だった。手にした槍(状の竹刀)を頭上で大きく振り回し、観客にアピールする。23歳、男。オールバックの髪が風になびいて、男の俺から見ても結構色っぽいのだ。そんな彼にファンがいない筈がない。やはりあちこちから黄色い声援が飛んで来る。うん、それはそれで羨ましい限りだ。
『4人目は、ハンス=ドラファンハート! ライヴ隊で以前から剣を振るってきた強者だ!』
…すまない。俺は彼のことを知らなかった。いや、きっと活躍してくれたのだろう。本当に感謝している。赤い髪がその肌の白さを際立たせている。エモノは中剣(サイズの竹刀)と盾。以上!
『さぁて、今回の番狂わせの登場だ! アジ・ダハーカ船長にして英雄の名を恣にした若者。ライヴ=オフウェイ!』
俺の名が呼ばれた。俺は大剣(サイズの竹刀な)を振り上げ、歓声に応えた。俺の容姿? さぁて、自分の容姿をどのように説明すりゃいいのか、俺は上手い言葉が見つからない。ただ左頬にある目立たないほどの小さなバッテン傷とややクセのある黒髪の少年。そういう事にしておこう。
これでチームCの参加者は全て出揃った。参加者のすべての視線が、俺の一挙手一投足を見つめている。熱い、実に暑苦しい視線だ。先程までの喧騒はどこへやら、辺りは一瞬にして静寂に包まれた。緊張感の糸が、張って、張り詰めて、切れた。
『開始!』
今、俺の目の前で繰り広げられているのは、まさに引くに引けない女の戦いであった。
一人目は艶やかでストレートな亜麻色の髪を腰まで伸ばし、流し目も麗しい凛とした美少女。その名をシズカ=クラフ=ケーラという。年齢は16歳。俺を『主様と呼び慕ってくれる彼女のエモノは薙刀。…とはいっても、ここは乱取りトーナメントの場。相手が大怪我をしないように、その穂先の部分はバンバスという竹によく似た植物を組み上げて作ってある。また切先と石突にも何重にも布が巻かれ、事故がないように留意されてあった。シズカ… 彼女の希望で静と呼ぶようにしているが… はその身体を半身に中段の構え。いかにも武士然とした真白の道着に身を包み、他の二人から発する殺気を受け流している。
二人目は狼を思わせる真っ赤な髪を後方になでつけた気品ある美少女。その派手とも言える衣服も見事に着こなしており、その出で立ちは無粋な簡易鎧… ブレスト・プレートやガントレットと付属部品などで構成された… をも気にならない程であった。そんな彼女の名は、フラウ=シュルヌ。年齢は17歳。普段は身に着ける衣装とは裏腹に比較的大人しい貴族のお嬢様なのだが、その言葉遣い故に、融通の効かない印象を皆に与えている。いや、確かに堅苦しい話し方ではあるのだが、その実、控えめな少女なのである。このフラウのエモノは中剣とラージ・シールド。中剣とは言え、バンバス製の只の竹刀なのだが、その重みはここに集ったおそらく三人の内で一番重い。フラウいわく、『可能な限りホンモノに近い剣を所望』との事で、特注製の竹刀となっている。フラウが前面に構えているラージ・シールドにも大怪我をしないように細工を施してある。彼女を正面から見れば、その身体も剣筋もシールドで隠れてしまう構えだ。
3人目は一番若く、15歳。オレンジ色の髪を左側にサイド・テールにした美少女だ。その名をシェスター=ネッテという。小柄な体躯と彼女のコンプレックスともなっている童顔。それ故に、旗艦”アジ・ダハーカ”内でも固定ファンが多いボクっ子である。猫足立ちの彼女はフットワークも軽く、片手用の小剣をエモノとしている。迷彩のシャツにダボっとしたズボンを大きめのサスペンダーで吊っている。そんな彼女の装備は機動性を重視した軽量の簡易ブレスト・プレート。非常に人懐っこく表情豊かな彼女も、今だけはキリリとした面持ちで挑んでいた。
では、事の始めを語っていこうか。そもそもはダス・ヴェスタでの激戦の後、不覚にも俺が敵将であるアムンジェスト=マーダーによる深手を負ってオースティン砦まで撤退した、クーニフ歴37年7月18日の事である。
「近いうちに戦力の底上げを行う必要があるね」
手傷を負ってベッドに横たわったままの俺のこの不用意な一言が、誰かさんの耳に入った。整備班のNo.2、ミヒャエル=ニッカーである。
後に、彼は語った。
「いや、単純に儲かると思ってたんですよ。祭りだと。胴元を張れば、少なくとも身銭にはなる。小遣い銭にしてパァッと使って、整備班の普段の労をねぎらいたいと思ったんでさ。それだけハードな部署なんスよ、ここは」
◇ ◇ ◇ ◇
クーニフ歴37年9月19日。新たな俺の神鋼騎兵、ハインリッガー・ギーヴルも納品され、傷の具合もほぼ完治した頃のお話である。陸上空母アジ・ダハーカ・空中空母ザカラエル・そして陸上輸送艇ダウティナ各艦の廊下、人だかりの中心に、ベタベタと貼り付けられたポスター群があった。見ると、このように書かれている。
『誉れ高きライヴ隊No.1は誰だ! 前代未聞の大乱闘?』
はぁ? 俺はこんなこと許可した覚えはないぞ?
俺はポスターの責任者として名を連ねている、最も責任ある名前を見つけ出した。ミヒャエル=ニッカー、その人である。ここは首根っこを捕まえて、洗いざらい吐いて貰う必要があるな。
俺はアジ・ダハーカのカーゴへ向かった。
「あら、ライヴさん。今日はどのようなご用ですか?」
メイーダ=アストネイガー。俺と同じくらいの身長、スラリとした体躯。青く澄んだ瞳とポニーテールに纏めた金髪の髪。顔に残るそばかすがとてもチャーミングな女性だ。若くして当艦の整備班の責任者であり、トップクラスの技術者でもある。油に汚れたつなぎを着て、肩にかけたタオルで汗を拭きながらの登場だ。
「実はね、メイーダさん。カクカクシカジカ…」
おれはこそっと耳打ちした。
「えええ!? そんな事、私は知りませんよ? そう言えば、ニッカーと数人のスタッフの姿が見えませんね。まさかとは思いますが、見つけたらイロイロと問いただしておきますね」
憤慨した様子でメイーダは、ドスドスと足音を立てながら奥へと引っ込んでいった。これで今回の騒ぎは丸く収まるだろう。
翌日の9月20日。ポスターに書かれている決行日時は本日の朝10時。果たして、このダス・ヴェスタにいる地域住民や鉱夫、現在駐留している兵士たちがゾロゾロと集まってきていた。
「メイーダさん! これはどういうことですか?」
管制室から見た情景に驚いた俺は、伝声管の蓋を開けて、メイーダのいるカーゴへと呼びかけた。
「どうもこうも… もう手遅れだったんですよ。それに」
弱々しいメイーダの声がここまで伝わってくる。
「整備班全員のためだと言われては、返す言葉もなく…」
「返す言葉もないもないでしょう!」
呆れた声で俺は叫ぶと、伝声管の蓋を閉めた。そして立ち上がると、ダス・ヴェスタの中央にあるちょっとした広場へと足を運んだ。ざわめきが、俺を包んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
広場は呆れ返るほど多くのギャラリーが詰め掛けてきていた。その群衆の中心にニッカー一派が陣取っているではないか。よくよく見ると、ホワイトボードを持ち出して掛け率を書き込んでいる。これは、つまり、賭場を開いている?
「何だ何だ、この騒ぎは! 俺はこんな騒ぎ、許可した覚えはないぞ!」
俺は大声でニッカーに問いただした。
「いいじゃありませんか、船長。先日の大戦で皆が娯楽に飢えているんです。それに」
ニヤついたニッカーの顔が、横目で選手控室の方を見やった。釣られて、俺も控室を覗き込む。俺の視線に気付いたのか、控室の中にいるシェスターたちがニッコリと微笑みを返してきた。
「…おい」
俺は横目でニッカーを睨みつけた。
「これはどういうことだ?」
「ええ。お三人方には優勝した場合、船長にアタックする権利をプレゼントと言う事になっておりまして」
あいもかわらず、ニヤつきながら解説するニッカー。糸のような目がますます細くなった。
「そんな話は聞いてない。故に、この大会は成立しない」
「えええ~? ここまで盛り上がっているんですよ? ここで民衆の盛り上がりを鎮火させるのは得策ではないかと存じますが? 群衆が暴れだすと、抑えるのは難しいですよ。それに」
「それに、…なんだ?」
俺は生唾を飲み込んだ。
「たった今交渉が成立しました! さぁ、ライヴ隊の隊長、ライヴ=オフウェイの参戦だァ!」
『うおおおおおおおおお!!!』
群衆の声が轟き、波打った。そして、ライヴコールがどこからともなく上がってくる。
「おい、俺は…」
「さて。これで参戦しなければならなくなりました。船長、ここまで我々をこき使ったツケ、ココで晴らさせえてもらいますぜ」
そうか、そういう事か。当たり前だが、俺は整備班に苦労をかけこそすれ、その縁の下の力持ち的な部分の栄誉を捧げたことがなかった。しまった。これは一理あるかもしれない。俺は決断した。
「ん~、よし、いいだろう。神輿になろうじゃないか。ただし、こちらもやるからには本気でいかせてもらう。いいな?」
「勿論でさ。当然、マージンはタップリと支払わせていただきます』
「そんなもんはいらねーよ!」
俺は言い放つと、選手控室と書かれたテントへと足を進めた。
◇ ◇ ◇ ◇
テントの中では、いろんな顔ぶれが揃っていた。こういったお祭り事を苦手とするエッセン=ハンプトフィンガー大尉を除き、アジ・ダハーカの乗員だけではない殆どのドラグナー乗りが参戦していることが見て取れる。また、騎馬兵や一般兵士も参加していることもあって、テントの中は一種新鮮な雰囲気があった。
やがて選手全員にゼッケンが配られる。手に取ると、若干大きいようだ。どうやら防具の上から被る使用らしい。ナルホド、俺には必要ない。担当員に言って取り替えてもらえるよう進言した。
「いいえ。船長には特に、大怪我されては困るんです。簡単な軽装でもいいですから、ちゃんと防具を身に着けてください」
ピシャリと言い切られてしまった。これでは仕方ない。俺は陳列してある防具を借りることにした。胸を守る簡素なブレスト・プレートと喉口を守るゴージット・プレート、ガントレットを選択。使用する武器はバンバス製のもの。せいぜい青あざができる程度のものではあったが、まともに当たったらアウト、つまり負けの宣告が行われる。そういうルールだ。
さて。防具を身に纏いゼッケンを着込むと、次はチーム決めである。幾つかのブロックに分かれており、最終的には4名が残る、バトルロワイヤル方式だ。厳正なる抽選の結果、最後に参加した俺はチームCに割り振られた。他のメンツはどうなっているのだろう、俺はトーナメント表に目をやった。
…うん、なんだか上手くパワーバランスが取られているようだ。これから以後は、特筆すべき選手以外、ゼッケン番号で選手を呼ぶことにすべきだな、うん。
とりあえず、だが、簡単に説明しよう。
俺が所属することになったチームCだが、バトルロワイヤルに含まれる計6名の中に、何人か気になる選手がいる。一人目は俺の配下でもあるゼッケン4番のエーズ=ロイターと、シェスターの隊のゼッケン6番、コリービ=フリーゲン。いずれもドラグナー乗りだ。エーズのエモノは長巻に分類される長剣、対するコリービはスピアである。他はザカラエル… ブルフント=ヴィジッター公の配下のドラグナー乗りが二人と、我が軍の騎士一名。ふむ。なかなか苦戦しそうだな。俺は、大きくため息をついた。
テントの外では、熱気で溢れかえっていた。賭けに興じる人々の声がここまで聞こえてくる。一体何がそこまで面白いかな? 俺はもうひとつ、大きくため息をついた。
『おおおおお!!』と、どよめきが上がった。どうやらチームFの選抜者が決定したようだ。二回戦に選出された最初の一人は、…なんとシェスター=ネッテ。流石というか、小さいながらも小隊をまとめているのは、決して伊達ではない。あちら、こちらでも選抜者が決まっているようだ。
近くで掛札が宙を舞った。チームKで無名の民兵が勝ち残ったのだ。アルトール=クルーガー。我が軍が新たに迎えた軍師、ヴァータス=クルーガーの妹である。年齢は18歳。兄に似ず、大きく見開かれた目が誰もを魅了する。美しい黒髪は、静曰く『生前の私に引けを取らない』とのこと。スラリと伸びた身長は、俺よりも数センチ上回る、いわゆるモデル体型だ。だが、事あらば彼女は豹変する。騎馬兵を率い身の丈よりも遥かに大きなドラグナーを狩るのだ。その事実を知らない民衆は、いかにも強そうな貴族騎士を選んだ。なんと申しましょうか、本当に運が悪い。そのアルトールが頬を赤らめ、俺の姿を見て大きく手を振った。
『チームC、第1広場に集合してください! 間もなく開戦します。お客様も奮ってお集まりください』
アナウンスが俺の出番を告げる。さぁて、いっちょ鈍った腕を奮ってみようかね。
広場に到着すると、既に雰囲気は出来上がっていた。轟音のような歓声が恐ろしいほど俺達を包み込む。
『チームC、出場者を発表します。まずはヴィジッター公爵配下の傭兵、フェファ=ヤパニシャール!』
前長のショート・ボブにカチューシャで前髪をあげたスタイル。ハッキリ言ってデコ娘。生来は甘えたがりなのかもしれない、甘い視線。美人というよりは可愛いと言った感じか? いずれにせよ、前情報では16歳と聞いた。16!? 俺と同い年じゃんかよ。見た目以上に苦労してんな。そんなフェファは、登場するなり長剣に相当する竹刀をブンと振り回した。
『続きまして、ライヴ隊配下の…』
「配下じゃねぇ! 俺の上司はシズカ様たった一人だ! そのうち俺の方がライヴの野郎よか上になってやるんだよ! 間違えんな、バーカ!」
間髪入れず、エーズは声を上げた。
『し、失礼。シズカ隊の…』
「エーズ=ロイターだ。思い知れ!」
会場がどっと沸いた。年齢は俺よりひとつ上というのが信じられないほど子供っぽい思考回路。錆びたナイフのような光を放つ眼差しは、結構マジで危なっかしい。その視線の先には俺がいる。いや、マジ厄介だ。だが、これでもコイツは恐怖公と呼ばれ怖れられたアムンジェスト=マーダーの親衛隊をも務めた人材でもある。そう簡単に倒せるような相手ではない。他のヤツにとっては、だ。エーズは顔にかかった前髪をハラリ、とかきあげ、その両手でなでつけ、キメ顔でこう言った。
「さぁ、今日こそ手前を叩き潰してやんよ!」
『3人目だ! 先程二回戦に選ばれたシェスター=ネッテの部下、コリービーフリーゲン!』
呼び出されたコリービは、実に大人としての振る舞いのできた人物だった。手にした槍(状の竹刀)を頭上で大きく振り回し、観客にアピールする。23歳、男。オールバックの髪が風になびいて、男の俺から見ても結構色っぽいのだ。そんな彼にファンがいない筈がない。やはりあちこちから黄色い声援が飛んで来る。うん、それはそれで羨ましい限りだ。
『4人目は、ハンス=ドラファンハート! ライヴ隊で以前から剣を振るってきた強者だ!』
…すまない。俺は彼のことを知らなかった。いや、きっと活躍してくれたのだろう。本当に感謝している。赤い髪がその肌の白さを際立たせている。エモノは中剣(サイズの竹刀)と盾。以上!
『さぁて、今回の番狂わせの登場だ! アジ・ダハーカ船長にして英雄の名を恣にした若者。ライヴ=オフウェイ!』
俺の名が呼ばれた。俺は大剣(サイズの竹刀な)を振り上げ、歓声に応えた。俺の容姿? さぁて、自分の容姿をどのように説明すりゃいいのか、俺は上手い言葉が見つからない。ただ左頬にある目立たないほどの小さなバッテン傷とややクセのある黒髪の少年。そういう事にしておこう。
これでチームCの参加者は全て出揃った。参加者のすべての視線が、俺の一挙手一投足を見つめている。熱い、実に暑苦しい視線だ。先程までの喧騒はどこへやら、辺りは一瞬にして静寂に包まれた。緊張感の糸が、張って、張り詰めて、切れた。
『開始!』
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ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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