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PROLOGUE
はじまりの刻-03
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「今朝も早いのね、ライヴ。で、何をしているの?」
俺達がドラグナーと接触した日から、一晩が過ぎた。結局あのドラグナーはお持ち帰りすることにしたのだが、俺が関与したあの機体は何分目立ちすぎる。そこでアルクさんに相談したところ、森の中にある洞窟に隠そうということになったのだ。とは言え実際に動かすのは初めてのこと。平常心を保つために、いつものトレーニングに勤しんでいたという訳だ。
「ああ、おはよう、リーヴァも早いのな」
「おかしな動きをしてるのね? 一体何の踊り?」
「これは準備体操。しっかりと体中の筋肉を解しておかないと、万が一の時に怪我をするからさ。その予防だな」
「時々ポイントとかフレックスとか言ってるけれど、何の呪文?」
「ああ、つま先を伸ばしたり上に向けたりすることを指すんだ。同じ屈伸でもつま先を伸ばしてやるのと上を向けてやるのとでは効果が異なるからね」
「ふうん… なんだか難しいのね」
「一緒にやってみるかい? 結構キツいけど、身体は柔らかくなるぜ」
「そう? …じゃ、あたしも混ぜて」
リーヴァは見よう見まねで俺の取るポーズを真似ようと試みた。しかし、そこは素人の生兵法。そこで俺は、手取り足取り解説を加えながらリーヴァにこのストレッチを指導してみた。
「痛っ! …何よコレ、これ以上曲がらないわよ!」
「ハハハ、やってる内にだんだん慣れてくるもんさ。たださ、無理はするなよ。最初はゆっくりと呼吸に合わせて、…そうそう、上手だ。リーヴァも意外と体柔らかいじゃないか!」
「何言ってるのよ、これが限界だっての! 一体どれくらいの時間こんなことやってるのよ?」
「そうだな… 体があたたまるまで、みっちりと30分位… かな?」
「そんなにやってるの?」
「ああ、この後は居合と殺陣の訓練もだから、トータルで… 大体一時間くらいかな?」
「イアイ? タテ? …一体何なの?」
「ああ、居合は剣術の一種のようなものさ。それと、殺陣は剣などを使った演劇の訓練。俺の親父に叩き込まれたんだよ」
「ライヴのお父さんも変わったことやってたのね…、知らなかったわ」
「ああ、いや、日本にいた時の習慣のようなものだから…」
「ニホン?」
「ああ、俺がいた世界での話だよ」
リーヴァの顔色が変わった。それまでのストレッチをやめると、怒ったように言い放った。
「まだそんなこと言うのね。あなたはライヴ=オフウェイ、それ以外の誰でもないわ。変なこと言わないでちょうだい!」
そう言うと、スタスタと歩いて行ってしまった。
「ハハハ…。失敗の巻、かな?」
ため息を大きくつくと、俺は再びストレッチに勤しむのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「…皆さん、ようこそ。この未知なる神話の世界へ。壮大なるクーリッヒ=ウー=ヴァンの世界へ。ブレンドフィア=メンションです。ところで、皆さんはイアイをご存じですか? ライヴ=オフウェイが活躍した時代から数千年が経った今でも、イアイを嗜む方は多いと思います。剣術の一派を成すこのイアイはそれまでの文献や資料などがないことから、ライヴ=オフウェイ少年が発祥だとも言われています。では彼は、一体どこでこの完成された剣術を身につけたのでしょうか?」
「…ここは、かつてダーフ村のあったとされるグローゼ・ベァガ山脈の麓です。この世界有数の山脈の登山口でもあるバリエーラの中心部から真北に15Giz(約24km)のところに、ダーフ平原が広がっています。この土地の下に、かつてのダーフ村が埋まっているというわけです」
そう語るのは、考古学の権威でもあるアンスタフト=ヒストリカ教授である。
「この遺跡からは、幾つかのオベリスクが発掘されてきました。その最も古い時代に分類されるのが、先史神話時代のものであると言われています。中でも、今から20年ほど前に発掘されたオベリスクからは、非常に興味深い出来事が刻まれていました。それが、イアイとタテに関する記述です」
イアイもタテも、剣術の流派とされている。だが、その両者にどのような違いがあるのかは、未だにハッキリとしていない。
「…そうなんです。現代に連綿と残っているのはイアイのみであって、タテに関する記述は残っていません。勿論、その技術を遺している流派も現代においては全くありません。あくまで想像でしか、我々はうかがい知ることができないのです」
現代にイアイを伝えるタクミ=フェストン師は語る。
「おそらくですが… 実践的なイアイに対し、タテは剣舞のようなものだと考えられています。もっとも、口伝が途絶えてから数千年ですからね。検証のしようがありません。今の我々には想像するしかないのです」
実践的な剣術であるイアイ。その特徴は、その剣の特徴を十二分に活かしたものであるということだ。
「はい、イアイの練習にはこの薄い剣が用いられます。少しでも剣の軌道がブレれば、剣は折れ曲がってしまいます。しかし、イアイをマスターしたものがこの剣を扱うと鉄ですら斬ってしまいます。それだけデリケートで、かつ、強力な剣術であるともいえます」
◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇ、やっぱり危ないからそのドラグナーは放っておきましょうよ!」
横たわったドラグナーから離れたまま、リーヴァが叫んだ。
「もう大丈夫だって。コイツ、俺のことを主と認めてるんだからさ」
「そんなこと、どうして分かるのよ! 単に魅入られてしまったんじゃないの?」
「そうかもしれないな。実際、夜な夜な俺を呼び続けるんだもんな~…!」
おどけてみせる俺に、怒ってみせるリーヴァ。結構本気で怖がっている。
「やめてよ、冗談じゃない!」
「ハハハ、そんなことあるわけ無いじゃん。んじゃ、動かしてみよっかな?」
俺はコクピットによじ登ると、キャノピーを開けた。墜落した状態のまま横たわっているとはいえ、結構な高さがある。俺はコクピットに我が身を滑り込ませると、すっかりキレイになったシートに座ってみた。
それにしても不思議なものである。これは本当に、リーヴァの言うとおり魂を喰らって破損箇所の再生や稼働するのだろうか? 俺は疑問を抑えつつ、腕や足、頭のギミックを装着した。
グン… と墜ちていく感じ。これだけはあまりいい感じはしない。慣れるまで時間がかかりそうだ。そして、静かに瞳を閉じる。網膜に、このドラグナーの目を通した映像が映し出された。首を回し、現在の体位を確認してみる。右腕が完全に地面に埋まったまま何かを握っているようだった。俺は修復された左腕でドラグナーの体を支えると、一気に右腕を引き抜いた。
大きな剣を握っていた。
右腕に装着された”何か”は、完全に大破していた。
俺はそのまま立ち上がると、視線が一瞬で高い位置にまで上がってくるのがわかった。頭の位置はほぼこの森の木々より上に当たる。それは木々の雲海を眺めているようなものだった。
「絶景… だな!」
「何呑気なこと言ってるのよ! 早く降りてきて!」
「リーヴァも見てみなよ。これはなかなかいい景色だぜ…!」
俺は近くにいたリーヴァを両手でそっと優しく手で持ち上げると、俺の目線にまで上げてみせた。
「……!」
リーヴァも言葉を失っている。それほどまでに美しい景色だった。木々の雲海の向こうには、大きな山脈が聳え立っている。それはまるで、超巨大な箱庭を思わせた。
「なぁ、リーヴァ」
「…なに?」
「この世界では、天動説が主流? それとも地動説?」
「何、それ?」
「この世界は星の世界が大地をめぐるのか、それとも大地のほうが動いているのかって話だよ」
「…そんなの、決まってるじゃない。大地のほうが動いているの。知らなかったの?」
「いや。思ったより、ちゃんと学問が定着してるんだなって」
「なにそれ、馬鹿にしてる?」
「そんなことはないさ、俺の世界… いや、年代によっては… 大地じゃなくて星の世界のほうが動いているという考えが主流だった時代があるからさ。…だからだよ」
「パノティアは丸いの。それは地平線を見ればわかることじゃない。それに、はるかな昔には、星々の世界を航行する船があったと言うわ。その船からは、この世界は丸い球体だったって。聖典にもそうあるじゃない」
「へぇ… まるで、オーパーツの世界だな」
「また変なことを言うのね。さ、動かせたのなら、早く洞窟までこの大荷物を運んでしまいましょ!」
俺は開いたキャノピーの端にリーヴァを座らせて、山脈の麓にあるという洞窟へと森の中を歩いていた。
「なぁ、リーヴァ」
「…ダメよ」
「まだ何も言ってない!」
「どうせろくなこと考えてないんでしょ。今度は飛んでみたいとか、もっと走らせてみたいとか」
「…へぇ… 本当によくわかったな。何で?」
「その眼よ。ライヴがその目で何かを言う時には、必ず何か企んでいるんだから!」
「理解があるんだな、ホント。で、どうなの?」
「さっき言ったじゃない! ダメだって」
「そんなこと言わずにさ、ちょっとだけ」
「ダメだったら、ダメ」
リーヴァはちっとも折れてくれない。ならば、方法を変えてみるか…。
「なぁ、リー…」
「ダメだったら!」
「ホント、付け入る隙もないのな」
「当たり前よ」
「…俺はさ、まだこの世界を知らないんだよ。でも、一度ジャンプできたら、一望できたらきっとこの世界を知ることにつながると思うんだ。…どうかな?」
「ど、どうって…」
「一度でいいんだ、飛ばせてほしい。コイツの能力も知りたいし、何よりこの世界のことが知りたいんだ」
「そんなこと…」
「な、いいだろ?」
「……」
「俺は知りたいんだ!」
「…わかった、わかったわよ。飛んでみたいんでしょ? なら、くれぐれも怪我しないように注意してね」
「了解!」
俺はリーヴァを地面に下ろすと、彼女を離れたところに避難させて軽くステップを踏んだ。
「どうやればいい? …どうすれば…」
考えても仕方ない。俺は背中のブースターを開放すると、とにかく高く飛ぶことだけをイメージした。
「うわぁぁぁぁああ!!」
ドラグナーは大きく飛び上がると、空中で無残にバランスを崩し落下した。
「いててて…」
「…みっともないわね」
「いや、これで感じはなんとか掴んだぜ…!」
俺は空を睨みながら、ブースターを少しづつ開放し、バーニアをふかしていく。そして、スタビライザーでバランスを取って…。
ジャンプ!
「…やった…!!」
俺は浮上しながら周辺を見渡した。一面に森が広がり、集落がはるか遠くに見える。更に遠く、…あれは砦?
思う間もなく、落下が始まった。俺はスタビライザーをふかしつつバランスを取り、無難に大地へと降り立った。
「で、いかがでした? 勇者様?」
皮肉たっぷりなリーヴァの言葉も、今では称賛の声に聞こえてくるから不思議だ。
「ああ、とても参考になったよ。あの集落の向こうにある砦みたいなのは、何?」
「ああ、バリエーラとの街境ね。この村はこのグローゼ・ベァガ山脈に三方を囲まれてるの。あそこに見えてたっていう砦が、完全にダーフとバリエーラとの行き来を難しくしているわ」
「ふうん… それで、森の中へ避難… か」
「そういうこと。領主様に逆らったら、ここでは生きていけないの。でもね、私達は負けない」
「そうこなくっちゃ、だな。ならついでに…」
「いいわ。許したげる。なんでも好きにするといいわよ」
「やった!」
こうして俺は、存分にドラグナーを動かしてみせたのだった。
俺達がドラグナーと接触した日から、一晩が過ぎた。結局あのドラグナーはお持ち帰りすることにしたのだが、俺が関与したあの機体は何分目立ちすぎる。そこでアルクさんに相談したところ、森の中にある洞窟に隠そうということになったのだ。とは言え実際に動かすのは初めてのこと。平常心を保つために、いつものトレーニングに勤しんでいたという訳だ。
「ああ、おはよう、リーヴァも早いのな」
「おかしな動きをしてるのね? 一体何の踊り?」
「これは準備体操。しっかりと体中の筋肉を解しておかないと、万が一の時に怪我をするからさ。その予防だな」
「時々ポイントとかフレックスとか言ってるけれど、何の呪文?」
「ああ、つま先を伸ばしたり上に向けたりすることを指すんだ。同じ屈伸でもつま先を伸ばしてやるのと上を向けてやるのとでは効果が異なるからね」
「ふうん… なんだか難しいのね」
「一緒にやってみるかい? 結構キツいけど、身体は柔らかくなるぜ」
「そう? …じゃ、あたしも混ぜて」
リーヴァは見よう見まねで俺の取るポーズを真似ようと試みた。しかし、そこは素人の生兵法。そこで俺は、手取り足取り解説を加えながらリーヴァにこのストレッチを指導してみた。
「痛っ! …何よコレ、これ以上曲がらないわよ!」
「ハハハ、やってる内にだんだん慣れてくるもんさ。たださ、無理はするなよ。最初はゆっくりと呼吸に合わせて、…そうそう、上手だ。リーヴァも意外と体柔らかいじゃないか!」
「何言ってるのよ、これが限界だっての! 一体どれくらいの時間こんなことやってるのよ?」
「そうだな… 体があたたまるまで、みっちりと30分位… かな?」
「そんなにやってるの?」
「ああ、この後は居合と殺陣の訓練もだから、トータルで… 大体一時間くらいかな?」
「イアイ? タテ? …一体何なの?」
「ああ、居合は剣術の一種のようなものさ。それと、殺陣は剣などを使った演劇の訓練。俺の親父に叩き込まれたんだよ」
「ライヴのお父さんも変わったことやってたのね…、知らなかったわ」
「ああ、いや、日本にいた時の習慣のようなものだから…」
「ニホン?」
「ああ、俺がいた世界での話だよ」
リーヴァの顔色が変わった。それまでのストレッチをやめると、怒ったように言い放った。
「まだそんなこと言うのね。あなたはライヴ=オフウェイ、それ以外の誰でもないわ。変なこと言わないでちょうだい!」
そう言うと、スタスタと歩いて行ってしまった。
「ハハハ…。失敗の巻、かな?」
ため息を大きくつくと、俺は再びストレッチに勤しむのだった。
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「…皆さん、ようこそ。この未知なる神話の世界へ。壮大なるクーリッヒ=ウー=ヴァンの世界へ。ブレンドフィア=メンションです。ところで、皆さんはイアイをご存じですか? ライヴ=オフウェイが活躍した時代から数千年が経った今でも、イアイを嗜む方は多いと思います。剣術の一派を成すこのイアイはそれまでの文献や資料などがないことから、ライヴ=オフウェイ少年が発祥だとも言われています。では彼は、一体どこでこの完成された剣術を身につけたのでしょうか?」
「…ここは、かつてダーフ村のあったとされるグローゼ・ベァガ山脈の麓です。この世界有数の山脈の登山口でもあるバリエーラの中心部から真北に15Giz(約24km)のところに、ダーフ平原が広がっています。この土地の下に、かつてのダーフ村が埋まっているというわけです」
そう語るのは、考古学の権威でもあるアンスタフト=ヒストリカ教授である。
「この遺跡からは、幾つかのオベリスクが発掘されてきました。その最も古い時代に分類されるのが、先史神話時代のものであると言われています。中でも、今から20年ほど前に発掘されたオベリスクからは、非常に興味深い出来事が刻まれていました。それが、イアイとタテに関する記述です」
イアイもタテも、剣術の流派とされている。だが、その両者にどのような違いがあるのかは、未だにハッキリとしていない。
「…そうなんです。現代に連綿と残っているのはイアイのみであって、タテに関する記述は残っていません。勿論、その技術を遺している流派も現代においては全くありません。あくまで想像でしか、我々はうかがい知ることができないのです」
現代にイアイを伝えるタクミ=フェストン師は語る。
「おそらくですが… 実践的なイアイに対し、タテは剣舞のようなものだと考えられています。もっとも、口伝が途絶えてから数千年ですからね。検証のしようがありません。今の我々には想像するしかないのです」
実践的な剣術であるイアイ。その特徴は、その剣の特徴を十二分に活かしたものであるということだ。
「はい、イアイの練習にはこの薄い剣が用いられます。少しでも剣の軌道がブレれば、剣は折れ曲がってしまいます。しかし、イアイをマスターしたものがこの剣を扱うと鉄ですら斬ってしまいます。それだけデリケートで、かつ、強力な剣術であるともいえます」
◇ ◇ ◇ ◇
「ねぇ、やっぱり危ないからそのドラグナーは放っておきましょうよ!」
横たわったドラグナーから離れたまま、リーヴァが叫んだ。
「もう大丈夫だって。コイツ、俺のことを主と認めてるんだからさ」
「そんなこと、どうして分かるのよ! 単に魅入られてしまったんじゃないの?」
「そうかもしれないな。実際、夜な夜な俺を呼び続けるんだもんな~…!」
おどけてみせる俺に、怒ってみせるリーヴァ。結構本気で怖がっている。
「やめてよ、冗談じゃない!」
「ハハハ、そんなことあるわけ無いじゃん。んじゃ、動かしてみよっかな?」
俺はコクピットによじ登ると、キャノピーを開けた。墜落した状態のまま横たわっているとはいえ、結構な高さがある。俺はコクピットに我が身を滑り込ませると、すっかりキレイになったシートに座ってみた。
それにしても不思議なものである。これは本当に、リーヴァの言うとおり魂を喰らって破損箇所の再生や稼働するのだろうか? 俺は疑問を抑えつつ、腕や足、頭のギミックを装着した。
グン… と墜ちていく感じ。これだけはあまりいい感じはしない。慣れるまで時間がかかりそうだ。そして、静かに瞳を閉じる。網膜に、このドラグナーの目を通した映像が映し出された。首を回し、現在の体位を確認してみる。右腕が完全に地面に埋まったまま何かを握っているようだった。俺は修復された左腕でドラグナーの体を支えると、一気に右腕を引き抜いた。
大きな剣を握っていた。
右腕に装着された”何か”は、完全に大破していた。
俺はそのまま立ち上がると、視線が一瞬で高い位置にまで上がってくるのがわかった。頭の位置はほぼこの森の木々より上に当たる。それは木々の雲海を眺めているようなものだった。
「絶景… だな!」
「何呑気なこと言ってるのよ! 早く降りてきて!」
「リーヴァも見てみなよ。これはなかなかいい景色だぜ…!」
俺は近くにいたリーヴァを両手でそっと優しく手で持ち上げると、俺の目線にまで上げてみせた。
「……!」
リーヴァも言葉を失っている。それほどまでに美しい景色だった。木々の雲海の向こうには、大きな山脈が聳え立っている。それはまるで、超巨大な箱庭を思わせた。
「なぁ、リーヴァ」
「…なに?」
「この世界では、天動説が主流? それとも地動説?」
「何、それ?」
「この世界は星の世界が大地をめぐるのか、それとも大地のほうが動いているのかって話だよ」
「…そんなの、決まってるじゃない。大地のほうが動いているの。知らなかったの?」
「いや。思ったより、ちゃんと学問が定着してるんだなって」
「なにそれ、馬鹿にしてる?」
「そんなことはないさ、俺の世界… いや、年代によっては… 大地じゃなくて星の世界のほうが動いているという考えが主流だった時代があるからさ。…だからだよ」
「パノティアは丸いの。それは地平線を見ればわかることじゃない。それに、はるかな昔には、星々の世界を航行する船があったと言うわ。その船からは、この世界は丸い球体だったって。聖典にもそうあるじゃない」
「へぇ… まるで、オーパーツの世界だな」
「また変なことを言うのね。さ、動かせたのなら、早く洞窟までこの大荷物を運んでしまいましょ!」
俺は開いたキャノピーの端にリーヴァを座らせて、山脈の麓にあるという洞窟へと森の中を歩いていた。
「なぁ、リーヴァ」
「…ダメよ」
「まだ何も言ってない!」
「どうせろくなこと考えてないんでしょ。今度は飛んでみたいとか、もっと走らせてみたいとか」
「…へぇ… 本当によくわかったな。何で?」
「その眼よ。ライヴがその目で何かを言う時には、必ず何か企んでいるんだから!」
「理解があるんだな、ホント。で、どうなの?」
「さっき言ったじゃない! ダメだって」
「そんなこと言わずにさ、ちょっとだけ」
「ダメだったら、ダメ」
リーヴァはちっとも折れてくれない。ならば、方法を変えてみるか…。
「なぁ、リー…」
「ダメだったら!」
「ホント、付け入る隙もないのな」
「当たり前よ」
「…俺はさ、まだこの世界を知らないんだよ。でも、一度ジャンプできたら、一望できたらきっとこの世界を知ることにつながると思うんだ。…どうかな?」
「ど、どうって…」
「一度でいいんだ、飛ばせてほしい。コイツの能力も知りたいし、何よりこの世界のことが知りたいんだ」
「そんなこと…」
「な、いいだろ?」
「……」
「俺は知りたいんだ!」
「…わかった、わかったわよ。飛んでみたいんでしょ? なら、くれぐれも怪我しないように注意してね」
「了解!」
俺はリーヴァを地面に下ろすと、彼女を離れたところに避難させて軽くステップを踏んだ。
「どうやればいい? …どうすれば…」
考えても仕方ない。俺は背中のブースターを開放すると、とにかく高く飛ぶことだけをイメージした。
「うわぁぁぁぁああ!!」
ドラグナーは大きく飛び上がると、空中で無残にバランスを崩し落下した。
「いててて…」
「…みっともないわね」
「いや、これで感じはなんとか掴んだぜ…!」
俺は空を睨みながら、ブースターを少しづつ開放し、バーニアをふかしていく。そして、スタビライザーでバランスを取って…。
ジャンプ!
「…やった…!!」
俺は浮上しながら周辺を見渡した。一面に森が広がり、集落がはるか遠くに見える。更に遠く、…あれは砦?
思う間もなく、落下が始まった。俺はスタビライザーをふかしつつバランスを取り、無難に大地へと降り立った。
「で、いかがでした? 勇者様?」
皮肉たっぷりなリーヴァの言葉も、今では称賛の声に聞こえてくるから不思議だ。
「ああ、とても参考になったよ。あの集落の向こうにある砦みたいなのは、何?」
「ああ、バリエーラとの街境ね。この村はこのグローゼ・ベァガ山脈に三方を囲まれてるの。あそこに見えてたっていう砦が、完全にダーフとバリエーラとの行き来を難しくしているわ」
「ふうん… それで、森の中へ避難… か」
「そういうこと。領主様に逆らったら、ここでは生きていけないの。でもね、私達は負けない」
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