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第一章
「鉄路の果てにて」
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アメリカ中部・カンザス州南部。1889年春。
乾いた風が、地平線のかなたから吹き抜けてくる。
轟音とともに鉄の車輪がレールを削り、蒸気機関の白煙が空を裂く。
その終着駅、「アードモア」は、まるで誰かの夢の墓標のように、赤土の大地にぽつりと浮かんでいた。
「……ここが、俺の“やり直し”の場所ってわけか」
男が一人、列車のステップから降りた。
背に風を受け、麦わら帽子を深くかぶるその姿――エゼキエル・“ゼック”・カナン。
かつて“ジェシー・ジェームズの影”と恐れられた無法者。
今は名前を変え、偽造された入植証書を懐に、静かに「過去」を土に埋めるつもりだった。
駅の外では、土地を求める人々の群れが、まるでサーカスの一団のようにざわめいていた。
開拓者、鉱夫、教会の伝道師、酒場の女、賞金稼ぎ、詐欺師……夢と銃が交差する混沌。
中でも目を引くのは、馬車の影からじっとこちらを見つめる少年のような女――。
「……やっぱり“女”だな。目が違う」
ゼックは小さくつぶやいた。
―その“少年”こそ、のちに「カラミティ・ジェーン」と恐れられることになる少女ジェーン・ワトソン。
だが今は、誰にも知られぬまま兄を探し、この地へとやってきていた。
そして、彼らの遥か東、鉄路の始まりの町では、一人の老保安官が銃を手にしていた。
ウィリアム・“ビル”・アンダーソン。
かつて“ワイルド・ビル”と肩を並べた男。
もう一度だけ、自分の正義を貫くために。
夕暮れ、ゼックは酒場《バッドランド・ローズ》に腰を下ろし、安ウィスキーをあおった。
誰もが明日のランドラッシュに向けて、息を殺している。
その中で、ゼックの背後に影が落ちた。
「……おい、カナン。久しぶりだな」
ゾクリと背筋を冷たいナイフがなぞる。
その声―忘れもしない。
振り向けば、そこには賞金稼ぎの顔。
ジェシー・ジェームズの一味だったかつての仲間、“スリム・リード”
「お前がここにいるってことは……まさか“金鉱”の噂を本気にした口か?」
「それとも、“罪”を清算しに来たか――?」
静かな音が、夜の酒場に響いた。
ゼックの指が、ゆっくりとホルスターへと落ちてゆく。
―かくして、物語の幕は開く。
過去を背負う男と、希望を抱く少女、正義を問う老人。
荒野の風が、彼らを交差させるその時を待っていた。
乾いた風が、地平線のかなたから吹き抜けてくる。
轟音とともに鉄の車輪がレールを削り、蒸気機関の白煙が空を裂く。
その終着駅、「アードモア」は、まるで誰かの夢の墓標のように、赤土の大地にぽつりと浮かんでいた。
「……ここが、俺の“やり直し”の場所ってわけか」
男が一人、列車のステップから降りた。
背に風を受け、麦わら帽子を深くかぶるその姿――エゼキエル・“ゼック”・カナン。
かつて“ジェシー・ジェームズの影”と恐れられた無法者。
今は名前を変え、偽造された入植証書を懐に、静かに「過去」を土に埋めるつもりだった。
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中でも目を引くのは、馬車の影からじっとこちらを見つめる少年のような女――。
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ゼックは小さくつぶやいた。
―その“少年”こそ、のちに「カラミティ・ジェーン」と恐れられることになる少女ジェーン・ワトソン。
だが今は、誰にも知られぬまま兄を探し、この地へとやってきていた。
そして、彼らの遥か東、鉄路の始まりの町では、一人の老保安官が銃を手にしていた。
ウィリアム・“ビル”・アンダーソン。
かつて“ワイルド・ビル”と肩を並べた男。
もう一度だけ、自分の正義を貫くために。
夕暮れ、ゼックは酒場《バッドランド・ローズ》に腰を下ろし、安ウィスキーをあおった。
誰もが明日のランドラッシュに向けて、息を殺している。
その中で、ゼックの背後に影が落ちた。
「……おい、カナン。久しぶりだな」
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その声―忘れもしない。
振り向けば、そこには賞金稼ぎの顔。
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「それとも、“罪”を清算しに来たか――?」
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ゼックの指が、ゆっくりとホルスターへと落ちてゆく。
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過去を背負う男と、希望を抱く少女、正義を問う老人。
荒野の風が、彼らを交差させるその時を待っていた。
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