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第二章
「カラミティの約束」
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アメリカ中部・カンザス州境界――草原の夜明け前
月が沈むとき、地平線がひとすじ青く染まりはじめた。
夜の帳の下、少女は冷たい石の上に座り、火を焚いていた。
その姿は遠目には少年のようだが、焚き火に照らされた横顔には、まだ残る少女の線が浮かんでいる。
名を――ジェーン・ワトソン。
「お兄ちゃん……ほんとに、あの中にいるの……?」
胸元に忍ばせた一枚の写真。
少しぼやけた写真の中には、笑顔の兄と、まだ長髪だった自分が写っている。
兄・サミュエルは、先にこの開拓戦線に入り“スーナー”として不正に土地へ潜入した。
そして消息を絶った。
「私、今度こそ、あんたを見つけるから……!」
火にくべた薪がはぜ、少女の顔に一瞬、怒りと決意の光を走らせた。
そのとき、ふと草原の先から馬の嘶きが聞こえた。
ジェーンが振り向いたとき、突然――世界が音を失った。
目の前に現れたのは、一人の老いた先住民の女。
白い髪を風にたなびかせ、手には不思議な柄の杖を持っていた。
「……約束の娘よ」
「……誰?」
「“カラミティ”――おまえがそう呼ばれることになるだろう名。
だが、恐れることはない。おまえは死を運ぶ者ではなく、真実を射抜く者だ」
その言葉と共に、女の姿は風に溶けて消えた。
ジェーンは夢か現かもわからぬまま、杖が残された地面に跪く。
そこには、一本の羽根が落ちていた。
翌朝、彼女はその羽根を帽子に挿し、開拓民の列に加わった。
そして、さりげなく銃を見せて問う男に向かって、淡々とこう答えた。
「……ワトソン、ジョン・ワトソンだ。射撃なら、試してみる?」
数分後、酒場の後ろに設けられた標的に向かって、彼女の銃が火を吹いた。
――十発、十中。
銃声が止んだとき、静まり返った周囲に誰かが囁いた。
「“カラミティ”だ……あれが、カラミティ・ジェーンか……?」
彼女は微笑みもせず、帽子を深くかぶりなおした。
その帽子には、まだ見ぬ兄への“約束”が挿されている。
一方、鉄路の先――
ゼック・カナンの過去が動き出し、
ビル・アンダーソンの銃が、再び油を差されていた。
そして、東からは“ある組織”が一人の少年を送り込む。
彼の名はまだ知られていない――
だが彼は後に、「ビリー・ザ・キッドの遺志を継ぐ者」として名を馳せる。
西風は、誰も知らない“真実”を運び続ける。
やがて、開拓の鐘が鳴り響くそのときまで。
月が沈むとき、地平線がひとすじ青く染まりはじめた。
夜の帳の下、少女は冷たい石の上に座り、火を焚いていた。
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名を――ジェーン・ワトソン。
「お兄ちゃん……ほんとに、あの中にいるの……?」
胸元に忍ばせた一枚の写真。
少しぼやけた写真の中には、笑顔の兄と、まだ長髪だった自分が写っている。
兄・サミュエルは、先にこの開拓戦線に入り“スーナー”として不正に土地へ潜入した。
そして消息を絶った。
「私、今度こそ、あんたを見つけるから……!」
火にくべた薪がはぜ、少女の顔に一瞬、怒りと決意の光を走らせた。
そのとき、ふと草原の先から馬の嘶きが聞こえた。
ジェーンが振り向いたとき、突然――世界が音を失った。
目の前に現れたのは、一人の老いた先住民の女。
白い髪を風にたなびかせ、手には不思議な柄の杖を持っていた。
「……約束の娘よ」
「……誰?」
「“カラミティ”――おまえがそう呼ばれることになるだろう名。
だが、恐れることはない。おまえは死を運ぶ者ではなく、真実を射抜く者だ」
その言葉と共に、女の姿は風に溶けて消えた。
ジェーンは夢か現かもわからぬまま、杖が残された地面に跪く。
そこには、一本の羽根が落ちていた。
翌朝、彼女はその羽根を帽子に挿し、開拓民の列に加わった。
そして、さりげなく銃を見せて問う男に向かって、淡々とこう答えた。
「……ワトソン、ジョン・ワトソンだ。射撃なら、試してみる?」
数分後、酒場の後ろに設けられた標的に向かって、彼女の銃が火を吹いた。
――十発、十中。
銃声が止んだとき、静まり返った周囲に誰かが囁いた。
「“カラミティ”だ……あれが、カラミティ・ジェーンか……?」
彼女は微笑みもせず、帽子を深くかぶりなおした。
その帽子には、まだ見ぬ兄への“約束”が挿されている。
一方、鉄路の先――
ゼック・カナンの過去が動き出し、
ビル・アンダーソンの銃が、再び油を差されていた。
そして、東からは“ある組織”が一人の少年を送り込む。
彼の名はまだ知られていない――
だが彼は後に、「ビリー・ザ・キッドの遺志を継ぐ者」として名を馳せる。
西風は、誰も知らない“真実”を運び続ける。
やがて、開拓の鐘が鳴り響くそのときまで。
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