西風の約束(The Oath in the West Wind)

leviathan

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最終章

「西風の約束」

1年後――1890年 春。ワシントンD.C.・議会図書館 地下記録室

革の表紙に金の箔押しでこう刻まれた一冊の書が、
ひっそりと棚に収められていた。

『オクラホマ準州における未発表採掘記録と民間証言集』
― 著:W・アンダーソン(故)/J・ワトソン/B・キッド(仮名)

そこには金鉱の位置は記されていなかった。
代わりに、“失われた土地の記憶”と“語られなかった正義”が、淡々と綴られていた。


オクラホマ準州・バーニング・ポイント跡地

ジェーン・ワトソンは小さな記念碑の前に立っていた。
碑には、兄・サミュエルの名と、保安官ビル・アンダーソンの名が刻まれていた。

「ここが、“誰かの命じゃなく、名が残る”場所になったこと……
それが、きっと約束だったんだよね」

そうつぶやいたジェーンの背には、
古びた羽根を挿した帽子と、新たな銃。


その後ろから、ゼックが歩いてきた。

かつての無法者の面影は消え、
今では“準州測量官補佐”という肩書きを得た彼は、政府の一部に潜り込んでいた。

「……お前の兄貴のこと、もう誰もスーナーなんて言わねえ。
ここじゃ、“先に真実を知った者”って意味になってる」

ジェーンはふっと笑う。

「そいつは、かっこよすぎるわ」


そして、遠くの岩陰から姿を見せたもう一人。

ビリー。
本名を今なお明かさない少年は、
今では「記録保守協会」の特別調査員として、各地の“消された歴史”を集めているという。

「……俺の名前なんて、どうでもいい。
でも、あんたたちの“記録”は――これからも誰かが読む。
そう信じてる」

彼はそう言って、古ぼけたノートを一冊、ジェーンに渡した。

『西風の約束』
― “語られなかった西部の記録”と副題が添えられていた。



空を見上げると、風が吹いていた。
どこまでも乾き、そして澄んだ風。

ゼックはつぶやく。

「自由ってのは、たぶん名前じゃねえ。
土地でもねえ。
自分の過去を、自分で語れることなんだ」

ジェーンは目を細めて、その風の向こうを見つめた。

「……きっとそうね。
だったら、私はこれから“西風の記録者”になるわ」


物語は、ここで終わる。

いや、“ここから始まる”と言うべきかもしれない。

かつて名を偽り、過去に縛られた者たちが、
それでもなお歩き、声を上げ、名を刻んだ物語―

『西風の約束』

それはただ一つの銃声でも、ただ一冊の記録でもない。

それは、未来へ向かう風の中に、今なお生きている。

― 完 ―
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