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第三章:辺境 ヴァルグレイス
王都からの召喚
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◆辺境村、集会所近くの牧柵前。
干された草束をくわえながら、痩せた山羊が鳴いた。
「ジョー……やっぱり足りねえよな、家畜。増えた人口に、草食わせる訳にもいかねえしな」
「今、育ててる芋も悪くないけど、タンパク質が足りない。鶏や豚がもっといれば、卵や肉も確保できる…それに欲を言えば牛も欲しいな」
アメリアは頷き、腰に手を当てて柵の向こうを見つめた。
「移民団の分まで考えると、あと少なくとも――豚十頭、鶏二十羽は欲しいな……それと、干し草の備蓄も少ない」
「冬越せねぇぞ、これじゃ。
ジョー、お前の知恵でなんとかできねえのか?」
そんな会話を3人でしていると、一羽の伝書鳩がアメリアの元に飛来した。
その爪には、厳重に封印された王都からの書状が括りつけられていた。
アメリアの表情が、それを読んだ瞬間にわずかに曇る。
「……やはり来たか。王都から“召喚命令”だ。緊急ではないが、至急の扱いだな」
召喚理由は、魔獣・オルデンベアの討伐と村の復興状況についての正式な報告――という建前だ。
だが、彼女には分かっていた。
“辺境で任命されて間もない女騎士長が武功を上げた”という事実は、王都の貴族連中にとっては面白くない話だ。
見せしめか、それとも昇進への踏み絵か。いずれにしても、向かわねばならぬ。
⸻
ジノは村の食糧事情と貴重な家畜たちの数が記された帳面を見つつアメリアへと問いかける。
「アメリア様、ついでにって言っちゃ失礼かもしれねえですが……家畜の仕入れ、王都で出来たりしませんか?」
「うーむ……当てが無いわけではないが、急ぎの旅になるしな…鶏を数羽程度なら大丈夫かもしれんが…」
アメリアは腕を組み、難しい顔をする。
そのとき――
『ジョーよ。家畜も広義で言えば価値のある”商品”じゃ。お主の“ウォレット”で何とかなるのではないかの?』
どこからともなく響くバールの声に、ジョーが目を見開いた。
「バール! たまには良いこと言うじゃねぇか!」
『“たまには”とは何じゃ! ワシは常に有益な助言を……ブツブツ……』
ブツブツ始めたバールを無視して、ジョーはスマホを取り出し、試しに近くにいた山羊へとウォレットを向けた。
「ちょっと待ってろよ……今、試してみる…」
数秒後――
山羊の姿が、ふっとかき消えた。
「……え?」
アメリアが目を細め、警戒するようにジョーを見る。
ジノも呆然と山羊がいた場所を見つめている。
「……うわ、ホントに消えた……」
「ジョー、お前……何をした?」
「いや、こないだ魔鉱石が収納できたろ? バールが『家畜もいける』って言うから試したらマジで……」
スマホを操作し、ジョーは「山羊」の項目をタップした。
メェエエエッ
次の瞬間、山羊が元通りの姿で現れた。
「戻った……」
アメリアが目を丸くする。
「……お前のスキルは一体どうなっているんだ……?」
「俺もよく分からねーけど、生き物もいけるらしい。これなら王都で家畜を仕入れて持ち帰るのもアリだな」
『フム、これぞまさに“価値の運搬”……ウォレットの真価が発揮されたのぅ』
「ってことで、アメリア! 王都行き、俺もついてっていいか?」
「……いいだろう」
ジョーはにやりと笑い、ジノの肩をばしばしと叩いた。
「で、ジノ。お前もパシリで同行な?」
「ちょ、パシリって何をさせる気だよ?」
「決まってんだろ。賑やかしと、飯係だよ!」
「聞こえ悪りぃな……まぁ、楽しそうだからいいけどよ……!」
こうして、王都行きのメンバーは自然と三人に決まったのだった。
⸻
◆王都への旅路
王都までの距離は、およそ馬の足で片道七日。
広大なアルシア王国の大地を進む旅路――そこを、三人と二頭の馬が駆けていた。
ジョーは、ジノの背にしがみつきながら、ふと思った。
「……なあ、人や精霊とも契約できるんだし、馬ともできるんじゃねぇの?」
『ほう? なかなか気づいたのう。知性の有無は問題ではない。対価さえ成立すれば、契約は可能じゃ』
「なるほどな……じゃあ、後で試してみるか」
⸻
休憩中
ジョーはポケットからスマホを取り出し、ウォレットアプリを開き、馬の項目をタップ。
――条件を提示
0.00005BTCを支払う YESorNO
「YESっと」
淡い光が馬の額に走り、魔法陣が浮かぶ。
そして次の瞬間、牝馬はふっと霧のように姿を消し、ジョーのウォレットに収納された。
『ふむ、成功じゃな』
「よし……ステータス確認っと」
ジョーは馬の項目をタップし、ステータスを呼び出す。
⸻
《名称:牝馬》
《ステータス:速度C+/持久B/耐久C/適応性C-》
《成長限界:B》
《備考:信頼度高・訓練済》
⸻
「んー……全部強化っと」
ジョーは全てのパラメータに神貨を"課金"し、再召喚を選択。
すると、光の粒子が集まり――そこに現れたのは、筋肉の張りが明らかに増し、たてがみも艶やかに変わった軍馬だった。
「うおっ!? 完全に別馬じゃねぇか……!」
ジノが驚く中、馬は軽く地を蹴ってみせる。まるで“自分が速くなった”ことを理解しているかのようだ。
「よし、次はアメリアの馬だ」
「……構わん。だが無茶はするなよ?」
ジョーは同じ手順でアメリアの馬とも契約。
結果、アメリアの愛馬もまた、滑らかなフォルムと力強い脚を備えた“魔改造軍馬”として再召喚された。
⸻
こうして、一行の移動速度は大幅に上昇した。
本来であれば一週間かかるはずだった王都までの道のりは、わずか四日半で踏破できる見通しとなった。
⸻
◆交易都市・ラネメルにて
村から王都への道中、彼らは交易都市ラネメルに立ち寄った。
石造りの市場には人と家畜が溢れ、空には香草と干し肉の香りが混ざっていた。
「うへぇ、家畜の値段……上がってんな」
ジノがボヤく。
ジョーは市場を回りながら、牛や山羊、鶏など様々な家畜を次々と“勘定”のスキルで確認していく。
「品質は普通に良いな……栄養状態、繁殖力、体温、ストレス……全部安定してる。でも……」
『ふむ。価格吊り上げの臭いがするのう。需要の高まっておる今、商人としても稼いでおきたいといったところじゃろうて』
「だよな」
そこへ家畜商人が現れ、にやけた顔で語りかけてくる。
「この街の家畜は、最高級ですよ旦那。最近は難民流入で需要も高くてねぇ。ちょっと値は張りますが――品質で損はさせませんよ?」
ジョーが返す前に、アメリアが静かに言った。
「ありがとう、だが、今は急ぐ旅だ。王都にも当てはある。今回は保留としよう」
家畜商人の笑顔がわずかに引きつった。
「…次の機会には売れているかもしれませんがね。ご決断はお早めに…」
アメリアは後に、この時の選択を後悔する事になる――
⸻
◆夜営・ジノの手料理
ラネメルを発ってから王都までは後1日馬を走らせれば到着出来そうだ。
三人は森沿いの小さな丘で野営を取った。
焚き火がパチパチと音を立て、ジノが鍋をかき回している。
「お待たせ。今日は野菜たっぷりのシチューだ。さっき採ってきた兎の肉も贅沢に入れてる」
ジョーが目を輝かせてスプーンを口に運ぶと、笑顔が弾けた。
「っっっ、うっま……! マジでうめぇよ、ジノの飯!」
アメリアも一口食べて、ほんの少し目を細めた。
「……そうだな。宮廷で食べる料理にも、劣っていないと思う」
「え、ええっ!? 二人して褒めすぎだろ……!」
ジョーは満足そうに肩をすくめて笑い、口を開いた。
「村がもっとデカくなったら、料理屋やれよ。俺が出資するからさ」
ジノは耳まで真っ赤になりながら、ぶっきらぼうに言った。
「ったく……お前ら調子良すぎだろ! でも、ありがとな。飯屋…ありかも…!」
焚き火の炎が揺らめき、星々が彼らの頭上を静かに流れていった。
王都への旅路は、少しずつ終点に近づいていた――。
干された草束をくわえながら、痩せた山羊が鳴いた。
「ジョー……やっぱり足りねえよな、家畜。増えた人口に、草食わせる訳にもいかねえしな」
「今、育ててる芋も悪くないけど、タンパク質が足りない。鶏や豚がもっといれば、卵や肉も確保できる…それに欲を言えば牛も欲しいな」
アメリアは頷き、腰に手を当てて柵の向こうを見つめた。
「移民団の分まで考えると、あと少なくとも――豚十頭、鶏二十羽は欲しいな……それと、干し草の備蓄も少ない」
「冬越せねぇぞ、これじゃ。
ジョー、お前の知恵でなんとかできねえのか?」
そんな会話を3人でしていると、一羽の伝書鳩がアメリアの元に飛来した。
その爪には、厳重に封印された王都からの書状が括りつけられていた。
アメリアの表情が、それを読んだ瞬間にわずかに曇る。
「……やはり来たか。王都から“召喚命令”だ。緊急ではないが、至急の扱いだな」
召喚理由は、魔獣・オルデンベアの討伐と村の復興状況についての正式な報告――という建前だ。
だが、彼女には分かっていた。
“辺境で任命されて間もない女騎士長が武功を上げた”という事実は、王都の貴族連中にとっては面白くない話だ。
見せしめか、それとも昇進への踏み絵か。いずれにしても、向かわねばならぬ。
⸻
ジノは村の食糧事情と貴重な家畜たちの数が記された帳面を見つつアメリアへと問いかける。
「アメリア様、ついでにって言っちゃ失礼かもしれねえですが……家畜の仕入れ、王都で出来たりしませんか?」
「うーむ……当てが無いわけではないが、急ぎの旅になるしな…鶏を数羽程度なら大丈夫かもしれんが…」
アメリアは腕を組み、難しい顔をする。
そのとき――
『ジョーよ。家畜も広義で言えば価値のある”商品”じゃ。お主の“ウォレット”で何とかなるのではないかの?』
どこからともなく響くバールの声に、ジョーが目を見開いた。
「バール! たまには良いこと言うじゃねぇか!」
『“たまには”とは何じゃ! ワシは常に有益な助言を……ブツブツ……』
ブツブツ始めたバールを無視して、ジョーはスマホを取り出し、試しに近くにいた山羊へとウォレットを向けた。
「ちょっと待ってろよ……今、試してみる…」
数秒後――
山羊の姿が、ふっとかき消えた。
「……え?」
アメリアが目を細め、警戒するようにジョーを見る。
ジノも呆然と山羊がいた場所を見つめている。
「……うわ、ホントに消えた……」
「ジョー、お前……何をした?」
「いや、こないだ魔鉱石が収納できたろ? バールが『家畜もいける』って言うから試したらマジで……」
スマホを操作し、ジョーは「山羊」の項目をタップした。
メェエエエッ
次の瞬間、山羊が元通りの姿で現れた。
「戻った……」
アメリアが目を丸くする。
「……お前のスキルは一体どうなっているんだ……?」
「俺もよく分からねーけど、生き物もいけるらしい。これなら王都で家畜を仕入れて持ち帰るのもアリだな」
『フム、これぞまさに“価値の運搬”……ウォレットの真価が発揮されたのぅ』
「ってことで、アメリア! 王都行き、俺もついてっていいか?」
「……いいだろう」
ジョーはにやりと笑い、ジノの肩をばしばしと叩いた。
「で、ジノ。お前もパシリで同行な?」
「ちょ、パシリって何をさせる気だよ?」
「決まってんだろ。賑やかしと、飯係だよ!」
「聞こえ悪りぃな……まぁ、楽しそうだからいいけどよ……!」
こうして、王都行きのメンバーは自然と三人に決まったのだった。
⸻
◆王都への旅路
王都までの距離は、およそ馬の足で片道七日。
広大なアルシア王国の大地を進む旅路――そこを、三人と二頭の馬が駆けていた。
ジョーは、ジノの背にしがみつきながら、ふと思った。
「……なあ、人や精霊とも契約できるんだし、馬ともできるんじゃねぇの?」
『ほう? なかなか気づいたのう。知性の有無は問題ではない。対価さえ成立すれば、契約は可能じゃ』
「なるほどな……じゃあ、後で試してみるか」
⸻
休憩中
ジョーはポケットからスマホを取り出し、ウォレットアプリを開き、馬の項目をタップ。
――条件を提示
0.00005BTCを支払う YESorNO
「YESっと」
淡い光が馬の額に走り、魔法陣が浮かぶ。
そして次の瞬間、牝馬はふっと霧のように姿を消し、ジョーのウォレットに収納された。
『ふむ、成功じゃな』
「よし……ステータス確認っと」
ジョーは馬の項目をタップし、ステータスを呼び出す。
⸻
《名称:牝馬》
《ステータス:速度C+/持久B/耐久C/適応性C-》
《成長限界:B》
《備考:信頼度高・訓練済》
⸻
「んー……全部強化っと」
ジョーは全てのパラメータに神貨を"課金"し、再召喚を選択。
すると、光の粒子が集まり――そこに現れたのは、筋肉の張りが明らかに増し、たてがみも艶やかに変わった軍馬だった。
「うおっ!? 完全に別馬じゃねぇか……!」
ジノが驚く中、馬は軽く地を蹴ってみせる。まるで“自分が速くなった”ことを理解しているかのようだ。
「よし、次はアメリアの馬だ」
「……構わん。だが無茶はするなよ?」
ジョーは同じ手順でアメリアの馬とも契約。
結果、アメリアの愛馬もまた、滑らかなフォルムと力強い脚を備えた“魔改造軍馬”として再召喚された。
⸻
こうして、一行の移動速度は大幅に上昇した。
本来であれば一週間かかるはずだった王都までの道のりは、わずか四日半で踏破できる見通しとなった。
⸻
◆交易都市・ラネメルにて
村から王都への道中、彼らは交易都市ラネメルに立ち寄った。
石造りの市場には人と家畜が溢れ、空には香草と干し肉の香りが混ざっていた。
「うへぇ、家畜の値段……上がってんな」
ジノがボヤく。
ジョーは市場を回りながら、牛や山羊、鶏など様々な家畜を次々と“勘定”のスキルで確認していく。
「品質は普通に良いな……栄養状態、繁殖力、体温、ストレス……全部安定してる。でも……」
『ふむ。価格吊り上げの臭いがするのう。需要の高まっておる今、商人としても稼いでおきたいといったところじゃろうて』
「だよな」
そこへ家畜商人が現れ、にやけた顔で語りかけてくる。
「この街の家畜は、最高級ですよ旦那。最近は難民流入で需要も高くてねぇ。ちょっと値は張りますが――品質で損はさせませんよ?」
ジョーが返す前に、アメリアが静かに言った。
「ありがとう、だが、今は急ぐ旅だ。王都にも当てはある。今回は保留としよう」
家畜商人の笑顔がわずかに引きつった。
「…次の機会には売れているかもしれませんがね。ご決断はお早めに…」
アメリアは後に、この時の選択を後悔する事になる――
⸻
◆夜営・ジノの手料理
ラネメルを発ってから王都までは後1日馬を走らせれば到着出来そうだ。
三人は森沿いの小さな丘で野営を取った。
焚き火がパチパチと音を立て、ジノが鍋をかき回している。
「お待たせ。今日は野菜たっぷりのシチューだ。さっき採ってきた兎の肉も贅沢に入れてる」
ジョーが目を輝かせてスプーンを口に運ぶと、笑顔が弾けた。
「っっっ、うっま……! マジでうめぇよ、ジノの飯!」
アメリアも一口食べて、ほんの少し目を細めた。
「……そうだな。宮廷で食べる料理にも、劣っていないと思う」
「え、ええっ!? 二人して褒めすぎだろ……!」
ジョーは満足そうに肩をすくめて笑い、口を開いた。
「村がもっとデカくなったら、料理屋やれよ。俺が出資するからさ」
ジノは耳まで真っ赤になりながら、ぶっきらぼうに言った。
「ったく……お前ら調子良すぎだろ! でも、ありがとな。飯屋…ありかも…!」
焚き火の炎が揺らめき、星々が彼らの頭上を静かに流れていった。
王都への旅路は、少しずつ終点に近づいていた――。
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