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9.かわいいの努力
しおりを挟む学校に通い始めて2週間ほどが経過した。
いつものように夕と一緒にクラスまで歩く。
「ねー今月のLueur(リュール)もう見た?」
「見た見た!!シェル綺麗すぎ!」
「やばいよね!俺の天使だわ」
「いや俺の未来の妻だし笑」
登校して一番にそんな会話が聞こえ、体を縮こませた。なんか居た堪れない……。
『Lueur』これは俺が専属している雑誌の名前だ。有名なファッション雑誌で、何度も表紙を飾らせていただいている。
中学の時、道を歩いてたら声をかけられて、スカウトされたのだ。お金に困っていた俺は、モデルになることを決意した。正直俺みたいな人間が活躍していることに疑問を抱くが、俺はいい金づるらしい。...64歳の社長が言ってた。ちょっと酷いと思う。良くしてもらってるんだけどね。まぁそのおかげで、借金も少しずつ返せるようになった。それまではなかなか返せなくて、借金取りの人によく後をつけられてたから。危うく体を売るところだった。...今も迫られてるんだけど。何とか躱し続けている。
放課後、俺は帰ろうと思って中庭を歩いていた。
「ぐすっ、うぅ」
ん?何この声?泣き声?
ただごとじゃないと判断した俺はさっと当たりを見回した。
ちょうど木で隠れて見えにくいところに3人の男の子がうずくまっていた。全員小柄で、中性的な容姿をしている。かわいいらしいルックスだ。
「ちょ、大丈夫ですか?!」
慌てて声をかけると、男の子たちは呆然と顔をあげた。急に話しかけてごめん、と心の中で呟いた。目元は赤く腫れ、瞳から大粒の涙を零している。何があったのだろうか。
こういう時どうすればいいのかわからない...。
とりあえずスボンのポケットからティッシュを取り出して、涙を拭いてあげた。道で配られていたガサガサのではない。ちゃんと鼻セレ〇だ。俺は優秀なのでね。
左手で男の子の後頭部を支えながら右手で顔を擦らないように優しく拭っていく。すると、男の子は少し落ち着いたようで、泣き止んだのだが、しゃっくりは止まらない。頭を撫でてあげると、すり、と頭を手に押しつけてきた。
おぉ、かわいい。
この子、どうやらメイクをしていたようなのだが、全部取れてしまったようだ。
せっかく可愛くしていたのにもったいないな。
「せっかくのメイク、落ちちゃったね。せっかく可愛いのに」
思わずそう呟くと、男の子は泣き腫らした目をぎゅっと瞑り、小さな声で絞り出すように呟いた。
「...かわいく、ないんです」
「え?」
「...ケバいって...」
ケバい?は?何それ?
「...それ、誰かに言われたの?」
そう聞くと、男の子は小さく頷いた。他の子達もコクコク頷いている。
信じられない。俺だって仕事柄メイクをすることがあるが、その大変さは良く知っている。それを貶されるのは俺でも辛い。
「...俺もね、メイクする時が、いや、メイクしたことがあるんだけどね、あ、やりたくてやった訳じゃないんだけど。メイクって、すごい時間かかるし、めんどくさいし、すぐ落ちちゃうし、大変なのわかるよ、」
俺は仕事の時だけだけど、この子たちはきっと毎日やっているんだろう。可愛くいるには努力が少なからず必要だ。
「それをさ、自分のためとか、誰かのために努力してやるのって、すごいなって思うよ」
俺がそう言うと、男の子たちはやっと涙が止まった瞳から再びポロポロと大粒の涙を零し始めた。...俺のせいじゃないことを願いたい。いや、少なくとも精神浄化作用の涙であることを願う。じゃないと俺がいじめたみたいになるじゃん。
どうすればいいのか分からなくなった俺はしがみついてくる男の子の頭を撫でながら泣き止むまで隣に座っていたのだった。
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