エメラインの結婚紋

サイコちゃん

文字の大きさ
1 / 6

第1話

しおりを挟む
 聖堂に集まった結婚式の参加者が騒いだ――

「結婚紋が光っている! あいつは既婚者だぞ!」
「本当だわ! 重婚は犯罪よ! 捕まえて!」

 この国では婚儀を行う際、手の甲に結婚紋を刻む。
 それは普段見えないが、結婚相手がいるのに他の者と寝ようとする時、さらに上から結婚紋を刻もうとした時、結婚相手とその紋を共鳴させた時……等に光るのだ。

 そして伯爵令嬢エメライン・コーラムバインと侯爵ブッチャー・シスル、二人の婚儀の最中、エメラインの手の甲に結婚紋が浮かび上がった。

「エ、エメライン! 貴様、俺を騙していたのか!」

 醜い豚のようなブッチャーが地団太を踏んで怒鳴る。
 聖堂の席に着いていたエメラインの家族達も怒り狂った。

「信じられん! まさかエメラインが結婚していたなんて!」

 そう言ったのはエメラインの叔父であるコーラムバイン伯爵だ。

「アバズレよ……! とんだアバズレだわ……!」

 そう言ったのは伯爵の妻であるカミラだ。

「エメライン! 同じ女として最低だと思うわ!」

 そう言ったのは伯爵の娘であるジャスティーナである。
 家族に罵られたエメラインは顔を伏せて黙っている。
 するとブッチャーが彼女の肩を掴んで、叫んだ。

「誰だ! 誰と結婚している!? そいつを連れてこい!」

 その命令にエメラインは小さく頷いた。

「あと三十分……彼が来るまで、どうしてもあと三十分かかるそうです……」
「はあ!? アンタ、まさか結婚式に男を呼んだ訳!?」
「何ていう神経なの! 死んだ方がいいわ!」

 ジャスティーナとカミラがエメラインを罵る。
 聖堂は混乱の渦と化し、参加者は口々に憶測を言い合っていた。
 この場合、率先して場を治めるべきは最も地位の高いブッチャーであろう。
 彼はエメランから手を離すと、今度は指差して命令した。

「エメライン! どういう訳なのか全部話せ! さもないと許さんぞ!」

 その言葉にジャスティーナとカミラ、伯爵が同意する。

「そうよ、そうよ! 誰と結婚していたのか言いなさい!」
「命が惜しかったら、侯爵様の言う通りにしなさい!」
「そうだ! よくも侯爵様の顔に泥を塗ったな!」

 それを聞いたエメラインは静かに頷いた。
 そしてこうなった事情を語り始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】わたしの欲しい言葉

彩華(あやはな)
恋愛
わたしはいらない子。 双子の妹は聖女。生まれた時から、両親は妹を可愛がった。 はじめての旅行でわたしは置いて行かれた。 わたしは・・・。 数年後、王太子と結婚した聖女たちの前に現れた帝国の使者。彼女は一足の靴を彼らの前にさしだしたー。 *ドロッとしています。 念のためティッシュをご用意ください。

貴方の願いが叶うよう、私は祈っただけ

ひづき
恋愛
舞踏会に行ったら、私の婚約者を取り合って3人の令嬢が言い争いをしていた。 よし、逃げよう。 婚約者様、貴方の願い、叶って良かったですね?

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

婚約破棄は踊り続ける

お好み焼き
恋愛
聖女が現れたことによりルベデルカ公爵令嬢はルーベルバッハ王太子殿下との婚約を白紙にされた。だがその半年後、ルーベルバッハが訪れてきてこう言った。 「聖女は王太子妃じゃなく神の花嫁となる道を選んだよ。頼むから結婚しておくれよ」

気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!

ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。 え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!! それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

初夜に夫から「お前を愛するつもりはない」と言われたわたくしは……。

お好み焼き
恋愛
夫は初夜にわたくしではなく可愛い少年を侍らしていましたが、結果的に初夜は後になってしました。人生なんとかなるものですね。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。 この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。

処理中です...