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浮気の心配
秋から冬に季節が変わろうとしている。日に日に寒さが厳しくなり、ブレザーの厚いジャケットを着ていても寒いと思う日が増えてくる。
こうなってくると、アユミは寒さを理由にして僕に抱きついてくる。人目も気にせず、僕の腕に抱きつく。今日もいつもと同じように、アユミは僕の右腕に抱きついてきた。
「あぁ、寒いですねぇ、せんぱい」
「ねえ、歩きづらいんだけど」
「可愛い後輩が凍えてもいいって言うんですか? ひどぉい」
この程度の寒さで凍えるわけがない。そう思ったけれど、何を言ったところでアユミが離れることはないだろうから、僕は口を噤んだ。
「あたしはせんぱいより薄着なんですから、温めてください」
アユミはそう言って僕に抱きつく。ふわり、と花の良い香りが鼻腔をくすぐる。
たぶん、制服がスラックスじゃなくてスカートだから薄着だと言っているのだろう。アユミは黒いストッキングを穿いているから、その分だけ他の子よりは暖かいと思うのだけれど。
「厚着したらいいじゃないか。厚手のタイツにするとか」
「うぅん、そぉですねぇ、あまり厚着するとせんぱいが悲しんじゃうからなぁ」
「悲しまないよ。厚着しなよ」
「厚着すると脱ぐのも大変ですし。あぁ、それで焦らされたい派ですか?」
どういう派閥だよ。脱ぐ時間くらい待てるよ、僕だって。
ああ、いや、巧く話を逸らされている。僕が言いたいのは、人前で腕に抱きつくのをやめてほしいということだ。ただでさえアユミが可愛いから人目を引くのに、ますます注目を浴びてしまう。僕みたいな平凡な男では、アユミには釣り合わない。
アユミは僕の腕を抱いたまま、手に指を絡めてくる。細い指がごく自然に絡んでくるから、僕はうっかり何も言わずにスルーしてしまった。
「いいじゃないですかぁ、ちょっとくらい。あたしだって学校の中では我慢してるんですよぉ?」
「そんなことないでしょ。何も変わらないじゃないか」
「学校の中ではキスしてって言わないでしょー?」
ああ、確かに。僕は納得する。
いや、そうじゃない。そもそも僕たちの関係は不安定で、キスをすることができるような関係ではないはずだ。本当は、ただの先輩と後輩なのだから。危うく忘れるところだった。
だが、本当にその程度の関係なのだろうか。僕が知らないうちに、もっともっと深い関係になってしまっているような気がしてならない。やっていることは、恋人の関係にある男女がやるのと同じことだ。
僕たちは恋人なのだろうか。アユミにそう訊きたくても、僕にその勇気はない。そこで違うと言われてしまえば、僕はきっと立ち直れないくらいのダメージを負う。
だから、このままでいいのだ。どうせ僕のほうが先に卒業して、嫌でも僕たちの間には距離が生まれる。そうなった時に、今と同じ関係が続くのかどうかで判断すればよい。続くのなら、僕は一歩踏み出してもよいと思う。
僕が黙っていたからか、アユミが僕の手を引いてきた。
「せんぱい、他の女のこと考えてたでしょー?」
アユミはむっとした顔で僕に言う。むくれた顔も可愛くて、僕は思わず笑ってしまった。
「考えていないよ。きみのことしか」
「まーたそうやってはぐらかすんですか? まったく、誰のことを考えてるんですかねぇ」
「だから、きみのことだよ。他の女とかいないし」
「ほんとかなぁ。せんぱい、モテるんですから、ちゃんとあたしがいるってアピールしてくださいよねっ」
僕が何もしなくても、アユミがこういうことをしていれば充分だろう。実際、僕はアユミと付き合っていると多方面で思われている。僕も面倒だから否定していない。
それよりも、アユミが他の男のほうに行かないか心配だよ。僕はその言葉を飲み込んで、学校までの道を歩いていく。
僕たちはそうやって互いの浮気まがいのことを気にしながら、寄り添って歩いていった。無用な心配かどうかは、僕にはわからなかった。
こうなってくると、アユミは寒さを理由にして僕に抱きついてくる。人目も気にせず、僕の腕に抱きつく。今日もいつもと同じように、アユミは僕の右腕に抱きついてきた。
「あぁ、寒いですねぇ、せんぱい」
「ねえ、歩きづらいんだけど」
「可愛い後輩が凍えてもいいって言うんですか? ひどぉい」
この程度の寒さで凍えるわけがない。そう思ったけれど、何を言ったところでアユミが離れることはないだろうから、僕は口を噤んだ。
「あたしはせんぱいより薄着なんですから、温めてください」
アユミはそう言って僕に抱きつく。ふわり、と花の良い香りが鼻腔をくすぐる。
たぶん、制服がスラックスじゃなくてスカートだから薄着だと言っているのだろう。アユミは黒いストッキングを穿いているから、その分だけ他の子よりは暖かいと思うのだけれど。
「厚着したらいいじゃないか。厚手のタイツにするとか」
「うぅん、そぉですねぇ、あまり厚着するとせんぱいが悲しんじゃうからなぁ」
「悲しまないよ。厚着しなよ」
「厚着すると脱ぐのも大変ですし。あぁ、それで焦らされたい派ですか?」
どういう派閥だよ。脱ぐ時間くらい待てるよ、僕だって。
ああ、いや、巧く話を逸らされている。僕が言いたいのは、人前で腕に抱きつくのをやめてほしいということだ。ただでさえアユミが可愛いから人目を引くのに、ますます注目を浴びてしまう。僕みたいな平凡な男では、アユミには釣り合わない。
アユミは僕の腕を抱いたまま、手に指を絡めてくる。細い指がごく自然に絡んでくるから、僕はうっかり何も言わずにスルーしてしまった。
「いいじゃないですかぁ、ちょっとくらい。あたしだって学校の中では我慢してるんですよぉ?」
「そんなことないでしょ。何も変わらないじゃないか」
「学校の中ではキスしてって言わないでしょー?」
ああ、確かに。僕は納得する。
いや、そうじゃない。そもそも僕たちの関係は不安定で、キスをすることができるような関係ではないはずだ。本当は、ただの先輩と後輩なのだから。危うく忘れるところだった。
だが、本当にその程度の関係なのだろうか。僕が知らないうちに、もっともっと深い関係になってしまっているような気がしてならない。やっていることは、恋人の関係にある男女がやるのと同じことだ。
僕たちは恋人なのだろうか。アユミにそう訊きたくても、僕にその勇気はない。そこで違うと言われてしまえば、僕はきっと立ち直れないくらいのダメージを負う。
だから、このままでいいのだ。どうせ僕のほうが先に卒業して、嫌でも僕たちの間には距離が生まれる。そうなった時に、今と同じ関係が続くのかどうかで判断すればよい。続くのなら、僕は一歩踏み出してもよいと思う。
僕が黙っていたからか、アユミが僕の手を引いてきた。
「せんぱい、他の女のこと考えてたでしょー?」
アユミはむっとした顔で僕に言う。むくれた顔も可愛くて、僕は思わず笑ってしまった。
「考えていないよ。きみのことしか」
「まーたそうやってはぐらかすんですか? まったく、誰のことを考えてるんですかねぇ」
「だから、きみのことだよ。他の女とかいないし」
「ほんとかなぁ。せんぱい、モテるんですから、ちゃんとあたしがいるってアピールしてくださいよねっ」
僕が何もしなくても、アユミがこういうことをしていれば充分だろう。実際、僕はアユミと付き合っていると多方面で思われている。僕も面倒だから否定していない。
それよりも、アユミが他の男のほうに行かないか心配だよ。僕はその言葉を飲み込んで、学校までの道を歩いていく。
僕たちはそうやって互いの浮気まがいのことを気にしながら、寄り添って歩いていった。無用な心配かどうかは、僕にはわからなかった。
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