現代社会にクエストがあったら人生変えられる?

神猫

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<第1章>任命

<第1話>異能力者の住む世界の傍らで

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むせかえるような暑さの続く夏休み初日。
小さなアパートの一角に住む少年・・・篠宮しのみや かおるは、夏が始まったと気持ちを高ぶらせるのではなく、既に

「暑い・・・・・」

「・・・この部屋、なんでこんなに暑いんだったっけ?」

「・・・・そうか、クーラーつけていないんだった。」
部屋の中にこもる暑さに俺はベッドの上で自分でも意味の分からない事を呟いていた。
ベッドに寝そべる俺の視界に入っているのは、右手に持った通帳、それが示す数字だった。

残額・・・・0

これが俺がクーラーも禄につけられず、ただベッドの上でじっとしている元凶だった。
かつて俺が見てきた中でこれほど絶望するものを見たことがあっただろうか・・・いや、ない。それに本当ならあるはずがないのだ。
けれども、俺の手元の通帳は無慈悲にその中身が空っぽだという事を告げている。

なぜこうなったかは俺自身がよく知っている。
それは親が俺への仕送りをミスった・・・という事だった。

「どうすんだよ・・・これ」
既に何度目かわからない呟きを繰り返す。
実際、以前にもこういう事があり、その時は携帯電話を使って事なきを得たのだが、今回は訳が違う。
その違いとして、現在俺が食卓を並べる机にはボロボロに破損した携帯が置かれている。

昨日の夕方、学校からの帰り道の途中、ポケットからうっかり道に落としてしまっていたらしく、取りに戻った時には車に轢かれたのか、もうあの有り様だった。あの中には変わったばかりの親の携帯番号も登録していたのにその記録もろとも吹き飛んでしまっていた。
そんなショッキングな出来事があった次の日にこんな仕打ち・・・
神様はどうやら俺に恨みでもあるらしい。

今の自分を絶望へと叩き落している二つの物を、起き上がった俺は交互に見て、再びベッドへと倒れ込む。

現在の手持ち金はゼロになったわけではないが、それでも普通の一般家庭に比べれば砂粒程度の量しか残っていない。

この格安のアパートの家賃も、今の手持ち金を全て使ったところで足りない。
それに俺へと次の仕送りが入るのは、一か月後。

俺の財産は壊滅的に

・・・ならば、どうする?
いつかはしないといけないと考えていた最後の手段を俺は口にした。

「バイト・・・するしかないか」

*****

残り一枚というなけなしの諭吉さんを、切符を買うためだけに使った俺は、都市部の中でも特に栄えている中央付近にある店へバイトに向かうために電車の先頭車両に乗っていた。

俺の手元の財布には、野口が9枚・・・

「はあっ・・・」
悲しい現実を受けて、俺はため息をつく。

夏休み初日という事もあってか、普段は満員の電車もすぐに座れるぐらいには空いていた。
俺の横には、どこかの社員の恰好をした新聞を読む男性や、老人の夫婦の方々、向かい側には母と娘が笑いあう仲の良さそうな夫婦、そして茶髪の長い髪を後ろで結び、眼鏡ごしに読書にふけこんでいる少女が座っていた。

いったて普通のとても平和な空間である。

涼しい冷房の効くこの空間は俺にとってみれば天国に近い物であった。

ふと視界を窓の外に移せば、色とりどりの様々な形や大きさをした建物が見える。そして、地上には多くの車やたくさん人が見える。
どうやら今日も能力者だらけのこの世界は目まぐるしく動いているらしい。



その目まぐるしく動く世界の中で、俺はこれから働かないのかといけないのか・・・

という思いと、それでも今だけはゆっくりとしようと目を閉じかけた瞬間、

「ピキッ・・・」

金属の何かが割れるような不可解な音がする。
それを耳で認識した瞬間、右の運転席である部分が激しい光と轟音とともに爆発する。

爆砕。

文字通りの現象に電車の駆動部もやられ、その身を大きく揺らしながら電車は急停止する。
内部ではその突然の爆風に乗客はもちろん、俺も、後方の車両へと派手に吹き飛ばされた。

「グハッ!?・・・・」
俺は車両の中間にある手すりとする棒にぶつかった。

「はあっ、はあっ・・・な、なにが起こったんだ?」
不幸中の幸いなのか、頭部を打たずにぶつかったのは右肩だけだったが、それでも痛みによりやや痺れている。

俺の視界の先では、爆発したであろう先頭車両から黒い煙が絶えず立ち込めていた。窓の外の風景も完全に停止している。
その煙が収まる前に、俺の左側となる後方車両から一人の黒いマスクを被った男性が俺の横を通り過ぎていく。

「はっ、はっは・・・・すっげえ、やっぱり俺の力ってすげえ!!」
その男の声は狂気に満ちていた。

「みたか?今の爆発を・・・魅力的だっただろう?心が震えただろう?」

正気の沙汰じゃない・・・
そうとしか考えられなかった。

マスクをした男はこの光景に、自分の犯した現状にうち震えていた。

「なあ・・・寝てないで感想を聞かせてくれよ?俺の能力【時限爆破リミットバースト】についてのな・・・」
男は、誰よりも先頭車両の近くへといき、振り返り、こちらを仰ぎ見ながらそう言った。
周りでは、今もなお爆風の衝撃により呻く人々をみても男は変わらず自分のことしか頭になかった。

「ふざける・・な・・・」
周りの人よりも軽症で済んだ俺の口からは自然と言葉が漏れていた。

「何を語っているんだ・・・これの・・・これのどこが魅力的だってんだッ!!」
耐えきれなかった、今もなお苦しむ人を見て、この男が許せなかった。

そんな俺の叫びを聞いても、男は特に動じることなく、にやりと笑みを浮かべてこう言った。
「・・・記念すべき第1感想、ありがとう」

「貴様ぁぁぁぁああああああッ!!」
自分で気づいた時には、俺の身体は動いていた。
目の前のふざけた男に、一発浴びせるためにかけ出していた。
そんな俺は、当然
「おっと・・・」
俺が走り込むのを見て、男は近くに倒れていた人間の首を掴み、持ち上げる。

「いいのか?お前がもう一歩でも動けば、こいつを殺すぞ?」
掴みあげられていたのは、つい先ほどまで俺の向かいの席で本を読んでいた少女だった。

「くそ・・・」
少女の首が下がっている事から、完全に気を失っていると判断した俺は立ち止まった。
立ち止まることしかできなかった。

くそっ・・・なんで、なんで止まっちまうんだよ!?俺は!!

自分が動いてしまったことによって招いてしまった少女の命の危険、そして何もできない自分に対してひたすらに後悔する。

「ははっ・・・・ははははははっ!!!!」
俺が何もできない事を悟った男は口角をつり上げて、笑った。

「惨めだな・・・お前、無能力者か?」
何も言えずに下を向く俺をみて、男は呆れるように、さらに言葉を連ねる。
「・・・そうか。生まれてきても何の能力も持ち合わせていないだなんて・・・・不幸だな。
能力さえあれば、こんな素晴らしい事もできるのに・・・」
そこまで言った男はふと何かを思いついたかのように語りだす。

「・・・そうだ。このまま、この爆破してしまおう・・・」
その言葉を受けて、俺は驚嘆する。

「爆破・・・するだと?それなら・・・それならお前だって死ぬはず・・」
「俺の力はなぜだか俺には当たらないんだ・・・それに、この程度の高さからなら爆風をうまく使える俺は助かる・・・・つまり、どういうことか分かるよな?」
マスクの中から男の瞳孔が、最大限に見開かれているのが見えた。
気が狂っているどころではない・・・もはやこいつは人間ではない。
しかし、人間でないからこそ、こいつは今言った事をたやすくやってのけるという事、そこに後先などは深くはないのだろう。

こいつは、自分の芸術爆発にただ溺れたいだけ・・・

くそっ・・・これ以上、考えていたって無駄だ!!何か・・・何かないのか!?

男について考える事をやめ、顔を上げてひたすらに糸口を探す。

四方八方をくまなく探すと、ふと男に捕まれている少女の右手の小さな指がゆっくりと、静かにことに気が付いた。
少女は指で空に小さな円を描くと、思いっきりその部分を掴んだ。

少女の異変に気付いた男が少女を見た瞬間、その男のは空中へと飛んでいた。
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