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過労で倒れる
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「ただいま……ゴホッ、ゴホッ」
たった二日しか開けていなかったのに、お店の中はなんだか埃っぽい。入った瞬間に軽く咳き込んでしまった。
結局あのあと、家庭教師になるかどうか結論を出すことができなかった。
これが平民だったらお金の問題さえクリアすれば、すぐにでも家庭教師になっただろう。
でも、特権階級の人たちは違う。彼らの機嫌を損ねたらアウト、質問に答えられなかったらアウト、教えても魔術が覚えられなかったらアウト。野球ならスリーアウトまで待ってもらえるけど、現実はワンアウトで人生が終わってしまう。
結局、僕は、特権階級の人にものを教えるのが怖かった。
これだけなら悩むまでもなく断ればいいと思うかもしれない。でも、普通に断ってしまうと相手の面子を潰したことになって、このお店への嫌がらせが始まるだろう。
ただでさえ客が少ないお店だったのに、固定客だったハンターが(この世から)居なくなってしまった。税金を支払うためにもお金を稼がなければならない。そのうえ嫌がらせが始まってしまえば、店を閉じるしか選択肢はない。でも僕は、それだけはしたくなかった。
両親から継いだこのお店を守らなければいけない。
それだけは絶対だ。
「リア公爵夫人の娘の情報を集めるか……」
相手が見えないからリスクを最大限に見積もっている。相手の情報が正確に手に入れば、必要以上に恐れなくてもいい。調べた結果、最低限の性格や能力を持っているのであれば、家庭教師の話を受けるのも悪くはないかもしれない。
そうと決まれば明日、情報屋にでも話を聞いてみよう。
問題の対処が決まったら目の前に転がっている、攻撃型のツノの解析がしたくなってきたぞ。おそらく未発見の魔術も字が使われているはずだ。
……この解析に成功すれば新しく客を呼び込めるかもしれない。
僕は、部屋から羊皮紙とペンを取り出すと、ツノに描かれている模様を写す作業を始めた。
◆◆◆
「クリス……クリス! お前大丈夫か!?」
「……誰? 兄さんか。どうしたの?」
「それは俺のセリフだ! 髪はボサボサだし目のクマはすごいし。退院してからの三日間なにをしてたんだ?」
「三日? そんなたったっけ?」
「おまえ……また、悪い癖が出たな」
兄さんはそのまま店のイスにどかっと座り、天井を見上げながら呆れた顔をしていた。
退院したのは昨日だと思っていたけど、兄さんの表情を見る限り、三日過ぎていたのは間違いないらしい。
「ツノの解析が楽しくてつい……」
「ついじゃないだろ。それより家庭教師の話はどうするか決めたか?」
完全に忘れてた……。早く情報を集めないと思い急いで立ち上がると、今まで忘れていた疲労が一気に表面に出てきて、そのまま倒れてしまった。
「クリス!」
「兄さん大丈夫だよ。ただ、少し疲れただけだから」
「リア公爵夫人の娘の情報を集めたから話したかったんだが、もういいから寝ろ。起きたら放してやる」
そういうと僕の返答を待たずにお姫様抱っこスタイルで持ち上げられ、そのままベッドに連れ込まれてしまった。僕にそんな趣味はないよ。前世で出会った腐った女性たちのことを思い出し、抱きかかえられながら深い眠りに落ちた。
◆◆◆
見慣れた天井に硬いベッド。
目覚めるとそこは、自分の部屋だった。全体的にけだるい感じが残っていて、まだ疲れが取れ切れていないようだ。
「ようやくお目覚めか」
体を動かすのも億劫で、顔を横に向けて声の発生源の方を向くと、寝る前と変わらない姿の兄さんがいた。
「兄さんおはよう。目覚めた時に兄さんがいるなんて、子どもの頃に戻ったみたいだよ」
「第一声がそれか……クリスは、相変わらず少しずれてるな。一応言っておくと、丸一日寝てたぞ」
そっか、そんなに寝てたんだ。体が重いのは疲れじゃなくて、寝すぎたせいかもしれない。
「そっか。兄さん部屋まで運んでくれてありがとう」
「礼なんていらない。それよりだ。寝る前に話したリア公爵夫人の娘の話をするぞ」
どうやら僕が寝ている間に兄さんが調べてくれいたようだ。荒っぽく細かいことが向いていない兄さんだけど、ここぞって時には的確なフォローをしてくれるから本当に頼りになる。
「僕が寝ている間に調べてくれたの? ありがとう」
「お前の事はよくわかっているつもりだからな。どうせ、グダグダ悩んだ後に調べようと思っていたんだろう?」
「まぁね」
兄さんは弟を助け蹴るのは当たり前だと言いたそうな、自信に満ち溢れた表情をしていた。
「その娘を一言で表すのであれば、才色兼備という言葉が適切だろう。夫人のように知的な美貌と魔術の才能を引き継ぎ、公爵のように頭の切れる子どもだって話だ」
「天才って言葉がぴったりだね」
「あぁ。物覚えも良いらしい。正直、家庭教師をしても数ヶ月か1年程度で教えることがなくなりそうだぞ」
才能があり、努力家でもある。それに美人。そんな完璧な人っているんだね……。
「それはそれで良いかも。家庭教師が長引けば、お店の方に影響が今日が出ちゃうしね。で、性格はどうなの?」
「詳しくはわからないが、理性的な人間らしい。少なくとも癇癪を起こして嫌がらせをするような人間ではないとの噂だ」
物覚えが良ければ短期間で終わると思うし、貴族特有の直情的な行動もしないのであればリスクは低いか。
僕は寝起きの頭をフル回転させ、しばらく思考の海に沈み。数分かけて、ようやく答えを出した。
「そっか……その話が事実なら家庭教師の話を受けても良いかもね」
たった二日しか開けていなかったのに、お店の中はなんだか埃っぽい。入った瞬間に軽く咳き込んでしまった。
結局あのあと、家庭教師になるかどうか結論を出すことができなかった。
これが平民だったらお金の問題さえクリアすれば、すぐにでも家庭教師になっただろう。
でも、特権階級の人たちは違う。彼らの機嫌を損ねたらアウト、質問に答えられなかったらアウト、教えても魔術が覚えられなかったらアウト。野球ならスリーアウトまで待ってもらえるけど、現実はワンアウトで人生が終わってしまう。
結局、僕は、特権階級の人にものを教えるのが怖かった。
これだけなら悩むまでもなく断ればいいと思うかもしれない。でも、普通に断ってしまうと相手の面子を潰したことになって、このお店への嫌がらせが始まるだろう。
ただでさえ客が少ないお店だったのに、固定客だったハンターが(この世から)居なくなってしまった。税金を支払うためにもお金を稼がなければならない。そのうえ嫌がらせが始まってしまえば、店を閉じるしか選択肢はない。でも僕は、それだけはしたくなかった。
両親から継いだこのお店を守らなければいけない。
それだけは絶対だ。
「リア公爵夫人の娘の情報を集めるか……」
相手が見えないからリスクを最大限に見積もっている。相手の情報が正確に手に入れば、必要以上に恐れなくてもいい。調べた結果、最低限の性格や能力を持っているのであれば、家庭教師の話を受けるのも悪くはないかもしれない。
そうと決まれば明日、情報屋にでも話を聞いてみよう。
問題の対処が決まったら目の前に転がっている、攻撃型のツノの解析がしたくなってきたぞ。おそらく未発見の魔術も字が使われているはずだ。
……この解析に成功すれば新しく客を呼び込めるかもしれない。
僕は、部屋から羊皮紙とペンを取り出すと、ツノに描かれている模様を写す作業を始めた。
◆◆◆
「クリス……クリス! お前大丈夫か!?」
「……誰? 兄さんか。どうしたの?」
「それは俺のセリフだ! 髪はボサボサだし目のクマはすごいし。退院してからの三日間なにをしてたんだ?」
「三日? そんなたったっけ?」
「おまえ……また、悪い癖が出たな」
兄さんはそのまま店のイスにどかっと座り、天井を見上げながら呆れた顔をしていた。
退院したのは昨日だと思っていたけど、兄さんの表情を見る限り、三日過ぎていたのは間違いないらしい。
「ツノの解析が楽しくてつい……」
「ついじゃないだろ。それより家庭教師の話はどうするか決めたか?」
完全に忘れてた……。早く情報を集めないと思い急いで立ち上がると、今まで忘れていた疲労が一気に表面に出てきて、そのまま倒れてしまった。
「クリス!」
「兄さん大丈夫だよ。ただ、少し疲れただけだから」
「リア公爵夫人の娘の情報を集めたから話したかったんだが、もういいから寝ろ。起きたら放してやる」
そういうと僕の返答を待たずにお姫様抱っこスタイルで持ち上げられ、そのままベッドに連れ込まれてしまった。僕にそんな趣味はないよ。前世で出会った腐った女性たちのことを思い出し、抱きかかえられながら深い眠りに落ちた。
◆◆◆
見慣れた天井に硬いベッド。
目覚めるとそこは、自分の部屋だった。全体的にけだるい感じが残っていて、まだ疲れが取れ切れていないようだ。
「ようやくお目覚めか」
体を動かすのも億劫で、顔を横に向けて声の発生源の方を向くと、寝る前と変わらない姿の兄さんがいた。
「兄さんおはよう。目覚めた時に兄さんがいるなんて、子どもの頃に戻ったみたいだよ」
「第一声がそれか……クリスは、相変わらず少しずれてるな。一応言っておくと、丸一日寝てたぞ」
そっか、そんなに寝てたんだ。体が重いのは疲れじゃなくて、寝すぎたせいかもしれない。
「そっか。兄さん部屋まで運んでくれてありがとう」
「礼なんていらない。それよりだ。寝る前に話したリア公爵夫人の娘の話をするぞ」
どうやら僕が寝ている間に兄さんが調べてくれいたようだ。荒っぽく細かいことが向いていない兄さんだけど、ここぞって時には的確なフォローをしてくれるから本当に頼りになる。
「僕が寝ている間に調べてくれたの? ありがとう」
「お前の事はよくわかっているつもりだからな。どうせ、グダグダ悩んだ後に調べようと思っていたんだろう?」
「まぁね」
兄さんは弟を助け蹴るのは当たり前だと言いたそうな、自信に満ち溢れた表情をしていた。
「その娘を一言で表すのであれば、才色兼備という言葉が適切だろう。夫人のように知的な美貌と魔術の才能を引き継ぎ、公爵のように頭の切れる子どもだって話だ」
「天才って言葉がぴったりだね」
「あぁ。物覚えも良いらしい。正直、家庭教師をしても数ヶ月か1年程度で教えることがなくなりそうだぞ」
才能があり、努力家でもある。それに美人。そんな完璧な人っているんだね……。
「それはそれで良いかも。家庭教師が長引けば、お店の方に影響が今日が出ちゃうしね。で、性格はどうなの?」
「詳しくはわからないが、理性的な人間らしい。少なくとも癇癪を起こして嫌がらせをするような人間ではないとの噂だ」
物覚えが良ければ短期間で終わると思うし、貴族特有の直情的な行動もしないのであればリスクは低いか。
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