伯爵令息の恋は、こうして終わりました。

Hibah

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アンジェラはローラとの会話をリチャードに聞かれたと思い、全身がわなわな震えた。領主の息子の陰口を言うなんて、身の程知らずもいいところだ。自分だけでなく、村全体に迷惑がかかるかもしれない。アンジェラは身の不安と、これからの生活への恐怖を感じた。

「わ、わたしはお邪魔虫だと思うので……リチャード様、アンジェラ、お二人でごゆっくり~……」

ローラは見るからにまずい状況を脱するため、こう言い残すと逃げるように去って行った。罪の半分を抱える彼女を引き止めようという考えすら浮かばないほど、アンジェラは動揺していた。

状況が飲み込めていないベンジャミンは、リチャードとアンジェラの双方の顔を交互に眺め、首をかしげている。

「アンジェラ、どうかしたの? リチャード様……?」

リチャードは依然として心を挫かれていたが、落ち着いて深呼吸した。混乱した感情を静めて、冷静になろうとした。怒りがないと言えば嘘になるが、そもそも領主の息子という立場をかえりみずに村娘を追いかけたのが悪い。それに、アンジェラと結婚するような未来だって見えていなかった――そう、彼女には彼女の人生があり、弄ぼうといった考えはなかったにせよ、そっとしておくのが道理だった。領主の息子に恋されたなら、恋人の存在を隠すのだって当然の成り行き。アンジェラに恋人がいるという事実はきっと――村人たち皆が暗黙の了解として隠してきたことだったのだろう。

リチャードは反省した。自分の役割はむしろ、彼女のような平民の生活を守ることにこそある。村の人たちが身の丈に合った相手と結婚をして、幸せに暮らす。そのような土地にしていくことが領主の役割だった。自分もいずれ父親の跡を継いで領主になる以上、今からそう振る舞っておかねばならないと、リチャードは決意した。

「いや、ベンジャミン、なんでもないよ! この倉庫、老朽化が進んでいるよね。改築を考えているんだ」

ベンジャミンの怪訝そうな顔がぱっと明るくなった。

「さようでございますか! さすがリチャード様です!」とにこにこして、「私は材木を売りにいくために他の領主様の土地にも行くのですが、こんなに懸命に考えてくださる方はいませんよ」

ベンジャミンの賞賛にもかかわらず、リチャードの顔は暗さを増した。

「すまないな、気を遣わせてしまっているようだ」

リチャードの落ち込んだ様子を気にもせず、ベンジャミンは明るい顔をそのままにして、
「何をおっしゃっているんですか! こうしてリチャード様が頻繁に来てくれるからこそ、村にとって必要な設備や環境が整うのではありませんか。私はリチャード様に感謝してますし、リチャード様が次の領主様でなければ嫌ですよ!」
と言ったあと、屈託なく「あはははは」と笑った。

リチャードの心はベンジャミンの言葉で一瞬、輝きを取り戻した。自分の行いが村人たちのためになる一面もあったのだと思えた。しかし、その思いも束の間、アンジェラとローラの言葉が脳裏に浮かび、心の中にあった微かな灯火は再び物思いの陰に覆われた。何を信じ、誰を信じるべきか、彼にはわからなくなっていた。

ベンジャミンは「では、私も務めがございますので、これにて失礼致します」と言い、リチャードに対して深々と頭を下げ、その場を去って行った。

ついに、リチャードとアンジェラだけが残り、その周りを重い空気がみたした。
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