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私イブリンには婚約者がいる。私の未来の夫になる人の名はベンジャミン。お互いが伯爵階級の生まれで、私たちは親が決めた結婚をすることになっている。

好きの度合いからすると、私のほうが圧倒的にベンジャミンのことが好きだ。いわゆる政略結婚なのに、ベンジャミンが好きで好きでたまらない。

でも一方で、ベンジャミンは私に対して冷たい。それが私には悲しい。
家どうしの打ち合わせでデートの予定が組まれているので、私たちは定期的にお出かけをする。たとえばベンジャミンと買い物に出かけて私が「この洋服どうかな?」と言っても、「なんでも似合うから大丈夫だよ」などと投げやりな感じ。

ただ不思議なことに、投げやりな態度を取られれば取られるほど、私はベンジャミンへの好きの気持ちが高まっていく。そして今となっては、寝ても覚めても「ベンジャミンは何をしているのかな」と考えてしまうのである。



しかしある日のこと、ベンジャミンのほうから私に話したいことがあると言ってきた。私は最初、めったにないベンジャミンからのお誘いに天にも昇るような気持ちがしたけど、ベンジャミンの暗い様子を見る限り、楽しい話ではないと察しがついた。

約束の時間にベンジャミンの家に行くと、庭のテラス席にベンジャミンが腰掛けていた。そして隣には……見たことのない女……。しかもベンジャミンと手を取り合って笑っている。ベンジャミンの顔がこれ以上なくほころんでいて、心から幸せそうな顔をしている。

私はベンジャミンの家の使用人に案内され、隣り合う二人の正面に座らされた。婚約者だというのに……なんて他人行儀な対応なのだろう……。

ベンジャミンが口火を切った。
「イブリン。来てくれてありがとう。まず僕の隣にいるこの女性は、ガーネットという。よろしく頼むよ」

よろしく頼むって……何を頼んでいるつもりなの? 目障りな女ね。私がこうして目の前に座っているのに、ベンジャミンの手を離そうともしない。

私はいちおう挨拶しておいた。
「は、はあ……? はじめまして、ガーネットさん。イブリンです。よろしくお願いします」

するとガーネットは丁寧に会釈してこたえた。
「突然すみません。わたしはガーネットと申します。男爵家の娘です。以後お見知りおきを」

こうして自己紹介が終わると、ベンジャミンは本題に入った。
「イブリン。君とは婚約をしているし、予定では来年結婚する。僕はそのつもりだけど、君もそうかい?」

「もちろんよ。家が決めたことだし、私はベンジャミンのことを愛しているわ」

ベンジャミンは、ハハハと笑った。
「ありがとう。でもね、その気持ちはもういらない、ということを伝えたいんだ」

「どういうこと? 婚約を破棄するの?」

「いや、違うよ。僕は君と結婚して同じ屋根の下には暮らすけど、夫婦らしい生活を送りたくないんだ。ガーネットを愛人として迎え、彼女と夜も寝る」

はい? 信じられない……。私の愛情だってあるのに、結婚する前から愛人を呼ぶ計画なの? 意味がわからないわ。

私はベンジャミンに言った。
「ちょっとよくわからないわ……。私はベンジャミンを大切に思っているし、それで問題ないじゃない? 五年前に婚約したときから、ずっとあなたのことが好きなのよ。ガーネットとは……どれくらいの付き合いなの?」

「半年前からだよ。でも時間の長さは関係ないよ。大事なのは中身なんだから」

「それは……そうかもしれないけど、ガーネットは男爵令嬢なのでしょ? 愛人扱いしていい身分ではないわ」

「父上が話をつけてくれたんだ。やはり持つべきものはよき父親とお金だね」

ベンジャミンは伯爵家の中でも一番のお金持ち。いろんなことをお金で解決する。そして悲しいことに……私の父もお金に目がくらんだのだと思う。私自身と、家の軍事力を提供することで、安定したお金を得たかったのよ。

ベンジャミンは続けて私に言った。
「納得してくれイブリン。君の家の兵士は優秀だから、父上はぜひ使いたいらしいし、僕も君との縁は切りたくない。愛人を認めてくれさえすればいいんだ。簡単だろ?」

ここで大人しくベンジャミンの言うことを聞いておくべきだろうか。少なくともベンジャミンは、私と結婚すると言ってくれている。愛人になるガーネットを受け入れて、懐の大きさを見せれば、ベンジャミンが振り向く可能性も……ゼロではないはず……。

「わかったわ。ガーネットを愛人として認めるわ……」

ベンジャミンは踊り狂うように喜んだ。
「本当に!? よかった!!! さすがイブリン、僕の妻になる女性だね。なんていい日なんだ! 三人で僕たちの輝かしい未来に祝杯を上げよう!」



ベンジャミンの愛人を認めてしまったせいで、私は自分自身を追い込むことになってしまう……。
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