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由緒正しき高貴な貴族バーナード伯爵の屋敷は、緑豊かな森を抜けた先にあった。伯爵邸の壮麗な庭園を通り、一台の馬車が正面玄関に停まった。

立派な身なりの司祭が喪服を着た男二人と共に、重厚な雰囲気を纏った馬車から降り立つ。司祭は給仕長エドガーの招きを受けて、屋敷の中に入った。喪服姿の男たちは、馬車にくくりつけたビロード張りの棺桶を外している。


「旦那様。司祭様がいらっしゃいました」


エドガーは寝室すぐそばの廊下からバーナード伯爵に報告した。その声には哀悼の情と、主人に対する深い配慮が込められていた。


「……入れ」


力のない、侘しい声だった。バーナード伯爵は前日の夕方、五歳年下の妻クラリスを失った。まだ三十歳にもなっていなかった。クラリスはまるでただ眠っているかのように、ベッドに横たわっている。

夫婦は結婚して十年仲睦まじく、一心同体であった。バーナード伯爵は妻の死を前にして悲痛のうちに泣き明かし、翌日の夜になってようやく司祭を呼ぶに至ったのである。それも自ら命じたのではなく、老僕エドガーに説得されて、半分死人のような状態で許可を出した。愛する妻を失った現実を受け入れていないため、危険な精神状態だった。


喪服の男たちが厳かに棺桶を運び入れた。


「旦那様。もうこれ以上は……」エドガーも主人の痛ましい姿を見ていられなくなった。遺体は明らかな変容を始めていたため、引き離すよりほかなかった。


「おい……だめだ……連れて行かないでくれ……。目が覚めるかもしれないだろ……お願いだよ……」目を腫らしたバーナード伯爵はエドガーの袖を引っ張り、泣きじゃくりながら言った。


「旦那様。ご安心ください。奥様は旅行に出かけるだけです。またそのうち帰って来ます。それに……地球は丸く、人の魂はあらゆるところで繋がっているとのことです。わたしも奥様にまた相まみえるのを楽しみにしております」


クラリスの枕元には、ピクニック用のバスケットが置いてあった。この日は真っ赤に熟したりんごがいっぱいに詰まっていた。ピクニックの好きなクラリスのために、バーナード伯爵は毎日バスケットの中を入れ替えてきた。そうして病身の彼女を励ましてきた。夫婦はかつて毎週のようにピクニックに行き、丘の上から街を眺めていた。それが愛し合う二人の貴重な時間だった。


「エドガー……その話は本当か……嘘じゃないんだな……?」


「はい、旦那様……」


エドガーの答えを聞き、バーナード伯爵は抵抗をやめた。首はうなだれ、膝に力は入らず、生気を失っていた。亡き妻クラリスが棺桶に入れられ、蓋をされても、バーナード伯爵は動かなかった。目の焦点が合わず、見送ることさえままならず、寝室にへたりこんでしまった――。



  ***



クラリスの葬儀は慎ましく行われた。バーナード伯爵は両脇をエドガーとコルテオ(エドガーの孫)に支えられ、もはや立っているとは言えない状態だった。戦場で重傷を負った兵士のように、その悲痛な面持ちは周りの親族の同情を誘った。バーナード伯爵の政治業務は、一時的に弟に引き継がれた。

クラリスの父であるエマニュエル伯爵は、ほとんど廃人のようになっているバーナード伯爵を見て、クラリスがいかに愛されていたかを知った。病気がちだった娘が亡くなったと知って辛い気持ちでいたが、いざ義理の息子である彼に会うと、その傷心を心配するほどだった。


「バーナード卿。君がクラリスの看病を懸命に続けてくれたことは知っている。娘は幸せだったはずだ。手紙の中で言っていたよ。夫の力になれず申し訳ない、もっと美味しいご飯を作ってあげたかった、と……。料理が得意なあいつは、いつもバーナード卿が美味しく食べてくれると喜んでいた。……わたしは君のもとへクラリスを嫁がせてよかった」


義父の言葉を聞き、バーナード伯爵は低いうめき声をあげながら泣き始めた。放心状態に近かった彼に感情が戻ってきたかのようだったが、やはり様子はおかしいままだった。


バーナード伯爵は泣きじゃくりながら答えた。


「クラリスは旅行に出かけたのです。そのうち帰ってくるでしょう。部屋もそのままにしておきます。妻を待ち続けます」
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