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コルテオはまだ十歳の少年だが、街への買い出しや屋敷の力仕事などを積極的にこなす元気な使用人である。彼は街へ出かけると、花屋の娘ナタリーと話をするのが楽しみだった。ナタリーもまた十歳の少女で、いつも話し相手になってくれるコルテオに好意を持っていた。




春風を五線譜にして小鳥たちが歌う麗らかな晴れの日、コルテオはナタリーを自身の職場である伯爵邸に招いた。伯爵は妻を探しに行っている時間であり、付き添い当番はエドガーだった。


「ねえコルテオ……本当にわたしなんかが立派なお屋敷に行ってもいいの?」ナタリーは平民であり、本来バーナード伯爵の屋敷に出入りできる身分ではない。


コルテオは一瞬、ナタリーに伯爵邸の庭園を勝手に案内することの重大さを考えた。屋敷の現状を誰にも明かせないという葛藤もあった。

しかし、ナタリーを喜ばせたいという純粋な願いが不安を上回った。コルテオは彼女に心配をかけないように「えっへん」と胸を張りながら答えた。


「おいらはな、旦那様に信頼されているんだ。使用人はみんなクビになったのに、おいらは残ったんだぞ。よく働くし、気が利くからさ!」


「コルテオはいっつも街中を走り回って仕事してるもんね……さすがだわ!」


コルテオはナタリーに褒められて鼻高々である。とにかく好きな女の子にいいところを見せたくてしかたない。


「ナタリーは花が好きだろ? うちの屋敷には小さいけど綺麗な庭園があるんだぜ。おいらも初めて見たときはたまげたよ。珍しい花ばっかりなんだ」


「うちのお店にもないような花なの?」


「うん、そうだと思う。奥様がお花が好きだったみたいで、集めてたらしい」


「お花が『好きだった』ってことは、今はもうお好きでないの?」


「あ、いや、まあ……その……複雑な事情があってね……」


ナタリーはクラリスが亡くなっていることも知らないし、バーナード伯爵の状態も知らない。コルテオとしては事情を話したいものの、やはりそれは使用人としての流儀に反する。あくまでナタリーに対して「いい顔」をしたいのであって、秘密をバラすような行為はしたくなかったのである。

ナタリーはコルテオが言いにくそうな様子を察して「どうしたのかな?」とは思った。しかしコルテオのことを信頼していたので、そのコルテオがいいと言うのであれば招待を受けたかった。花を見に行くという口実で店を抜けられるし、なによりコルテオとお店以外で過ごすのが嬉しかった。


「コルテオさえよければ、ぜひ行きたいわ!」


コルテオは(助かった……)と思った。男らしく答えられないという歯がゆさを感じずに済んだからである。


「そうと決まれば早速行こう! すんごい花がたくさんあるから、きっと驚くぜ!」


こうしてコルテオとナタリーはともに街を出て伯爵邸に帰った。屋敷の門をくぐるその瞬間、ナタリーは新しい世界に足を踏み入れるような気持ちになった。

コルテオはナタリーを庭園に案内し、自慢の花々を見せた。そこはエドガーの手入れが行き届いている領域だった。花壇にはナタリーが見たことのない種類の花で埋め尽くされており、ナタリーは感動のあまり何度も何度も観察したのだった。ナタリーの活き活きとした瞳を見て、コルテオはとても満足だった。

しかし一時間も経たないうちに、しゃがんで花を見つめる二人の背後に突然声がした。


「コルテオ……客人か?」


コルテオの心臓は跳ね上がり、ナタリーは驚きで小さな悲鳴をあげた。

バーナード伯爵だった。
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