9 / 23
9
しおりを挟む
オスカーは恋の運命が動き始めたことに鼻息を荒くした。伯爵家に生まれ、名家の誇りを胸に抱きつつも、どこか物足りない人生を歩んできた。そんなオスカーにとって、ようやく全身全霊をかけて成し遂げねばならない仕事ができたような気がした。
オスカーは高ぶる感情を抑えるようにして、イザベラに言った。
「明日の夜中に出られるように、準備しておくよ。逃げるのに必要な物は用意しておくね」
オスカーはイザベラを安心させるために微笑んだが、イザベラはなお不安そうな顔をオスカーに示した。
「……ごめんなさい。でもやっぱり無理かも……」
「どうしてだい!? 必要な物は僕が用意するし、道中でも、グランベールでの生活でも、僕が必ず守るよ」
「わたしの家はね……外出は簡単に許してくれるのだけど、どこへ行くかは明確にしておくルールがあるの」
「……それで……?」
「わたしの部屋を出てすぐの廊下には警備兵が常にいるし、駆け落ちのために抜け出すなんてことは……不可能だと思う」
「……今ここから駆け落ちを始めればいい?」
「嫌よそんなの! 何の準備もできていないし、わたしの従者はこの館の外で待ってるわ。逃げてもすぐに追いつかれてしまうだけ……」
「じゃあどうすれば……?」
イザベラは思慮深そうに目を閉じて答えた。
「警備兵がいるとはいえ……やっぱりわたしの就寝時間で屋敷から抜け出して、逃げるしかないと思う。そうすれば朝まで気づかれないだろうし、逃げる時間を作れるわ。でも……わたしにそんな思い切ったことできるはずない! ただでさえ一人は心細いのに、屈強な警備兵の目を盗んで家を出るなんて……」
イザベラはここぞとばかりにか弱い女を演じた。はかなげな表情を作り出し、思い通りにいかない人生を嘆く悲劇のヒロインとなった。しかしただ嘆くだけでなく、あくまで解決策を模索するふりをした。オスカーと一緒にいたい、という態度を見せつつ――。
オスカーはしばらくうつむき加減で考え、意を決した。
「夜中に、君の屋敷まで迎えに行くよ。僕が安全に連れ出してあげる」
イザベラは心のなかでニンマリと笑った。イザベラはオスカーに、”囚われのお姫様を救い出す王子様”の役割を与えたかった。その思惑どおりになった。
オスカーは夢見る童貞青年である。そして、”駆け落ちする”という秘密の計画に酔っている。名家に生まれたとしても、生きている手応えを感じられない者は、その手応えを求めて平気で道を踏み外す。イザベラはそんなオスカーの欲求不満を見抜いていたので、屋敷に潜入するという決断を下させたのだった。
「ほんとに!? わたしの部屋まで来てくれるの? 嬉しい。あなたがいるなら、どんな怖い思いをしたって乗り越えていける気がするわ」
「きっとうまく屋敷に入ってみせるよ。君の部屋に窓はあるのかい?」
「あるわ。南東の角の二階がわたしの部屋よ。他の部屋とは違う大きな窓があるから、わかりやすいと思う」
「南東の……二階だね……。わかった」
「明日の夜……待ってるね」
こうして二人は駆け落ちの約束をした。
オスカーは高ぶる感情を抑えるようにして、イザベラに言った。
「明日の夜中に出られるように、準備しておくよ。逃げるのに必要な物は用意しておくね」
オスカーはイザベラを安心させるために微笑んだが、イザベラはなお不安そうな顔をオスカーに示した。
「……ごめんなさい。でもやっぱり無理かも……」
「どうしてだい!? 必要な物は僕が用意するし、道中でも、グランベールでの生活でも、僕が必ず守るよ」
「わたしの家はね……外出は簡単に許してくれるのだけど、どこへ行くかは明確にしておくルールがあるの」
「……それで……?」
「わたしの部屋を出てすぐの廊下には警備兵が常にいるし、駆け落ちのために抜け出すなんてことは……不可能だと思う」
「……今ここから駆け落ちを始めればいい?」
「嫌よそんなの! 何の準備もできていないし、わたしの従者はこの館の外で待ってるわ。逃げてもすぐに追いつかれてしまうだけ……」
「じゃあどうすれば……?」
イザベラは思慮深そうに目を閉じて答えた。
「警備兵がいるとはいえ……やっぱりわたしの就寝時間で屋敷から抜け出して、逃げるしかないと思う。そうすれば朝まで気づかれないだろうし、逃げる時間を作れるわ。でも……わたしにそんな思い切ったことできるはずない! ただでさえ一人は心細いのに、屈強な警備兵の目を盗んで家を出るなんて……」
イザベラはここぞとばかりにか弱い女を演じた。はかなげな表情を作り出し、思い通りにいかない人生を嘆く悲劇のヒロインとなった。しかしただ嘆くだけでなく、あくまで解決策を模索するふりをした。オスカーと一緒にいたい、という態度を見せつつ――。
オスカーはしばらくうつむき加減で考え、意を決した。
「夜中に、君の屋敷まで迎えに行くよ。僕が安全に連れ出してあげる」
イザベラは心のなかでニンマリと笑った。イザベラはオスカーに、”囚われのお姫様を救い出す王子様”の役割を与えたかった。その思惑どおりになった。
オスカーは夢見る童貞青年である。そして、”駆け落ちする”という秘密の計画に酔っている。名家に生まれたとしても、生きている手応えを感じられない者は、その手応えを求めて平気で道を踏み外す。イザベラはそんなオスカーの欲求不満を見抜いていたので、屋敷に潜入するという決断を下させたのだった。
「ほんとに!? わたしの部屋まで来てくれるの? 嬉しい。あなたがいるなら、どんな怖い思いをしたって乗り越えていける気がするわ」
「きっとうまく屋敷に入ってみせるよ。君の部屋に窓はあるのかい?」
「あるわ。南東の角の二階がわたしの部屋よ。他の部屋とは違う大きな窓があるから、わかりやすいと思う」
「南東の……二階だね……。わかった」
「明日の夜……待ってるね」
こうして二人は駆け落ちの約束をした。
12
あなたにおすすめの小説
ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。
幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。
一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。
ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。
【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって
鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー
残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?!
待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!
うわーーうわーーどうしたらいいんだ!
メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!
この恋を忘れたとしても
喜楽直人
恋愛
卒業式の前日。寮の部屋を片付けていた私は、作り付けの机の引き出しの奥に見覚えのない小箱を見つける。
ベルベットのその小箱の中には綺麗な紅玉石のペンダントが入っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる