魔性の女に幼馴染を奪われたのですが、やはり真実の愛には敵わないようですね。

Hibah

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オスカーは恋の運命が動き始めたことに鼻息を荒くした。伯爵家に生まれ、名家の誇りを胸に抱きつつも、どこか物足りない人生を歩んできた。そんなオスカーにとって、ようやく全身全霊をかけて成し遂げねばならない仕事ができたような気がした。

オスカーは高ぶる感情を抑えるようにして、イザベラに言った。



「明日の夜中に出られるように、準備しておくよ。逃げるのに必要な物は用意しておくね」



オスカーはイザベラを安心させるために微笑んだが、イザベラはなお不安そうな顔をオスカーに示した。



「……ごめんなさい。でもやっぱり無理かも……」


「どうしてだい!? 必要な物は僕が用意するし、道中でも、グランベールでの生活でも、僕が必ず守るよ」


「わたしの家はね……外出は簡単に許してくれるのだけど、どこへ行くかは明確にしておくルールがあるの」


「……それで……?」


「わたしの部屋を出てすぐの廊下には警備兵が常にいるし、駆け落ちのために抜け出すなんてことは……不可能だと思う」


「……今ここから駆け落ちを始めればいい?」


「嫌よそんなの! 何の準備もできていないし、わたしの従者はこの館の外で待ってるわ。逃げてもすぐに追いつかれてしまうだけ……」


「じゃあどうすれば……?」


イザベラは思慮深そうに目を閉じて答えた。


「警備兵がいるとはいえ……やっぱりわたしの就寝時間で屋敷から抜け出して、逃げるしかないと思う。そうすれば朝まで気づかれないだろうし、逃げる時間を作れるわ。でも……わたしにそんな思い切ったことできるはずない! ただでさえ一人は心細いのに、屈強な警備兵の目を盗んで家を出るなんて……」


イザベラはここぞとばかりにか弱い女を演じた。はかなげな表情を作り出し、思い通りにいかない人生を嘆く悲劇のヒロインとなった。しかしただ嘆くだけでなく、あくまで解決策を模索するふりをした。オスカーと一緒にいたい、という態度を見せつつ――。


オスカーはしばらくうつむき加減で考え、意を決した。



「夜中に、君の屋敷まで迎えに行くよ。僕が安全に連れ出してあげる」



イザベラは心のなかでニンマリと笑った。イザベラはオスカーに、”囚われのお姫様を救い出す王子様”の役割を与えたかった。その思惑どおりになった。

オスカーは夢見る童貞青年である。そして、”駆け落ちする”という秘密の計画に酔っている。名家に生まれたとしても、生きている手応えを感じられない者は、その手応えを求めて平気で道を踏み外す。イザベラはそんなオスカーの欲求不満を見抜いていたので、屋敷に潜入するという決断を下させたのだった。


「ほんとに!? わたしの部屋まで来てくれるの? 嬉しい。あなたがいるなら、どんな怖い思いをしたって乗り越えていける気がするわ」


「きっとうまく屋敷に入ってみせるよ。君の部屋に窓はあるのかい?」


「あるわ。南東の角の二階がわたしの部屋よ。他の部屋とは違う大きな窓があるから、わかりやすいと思う」


「南東の……二階だね……。わかった」


「明日の夜……待ってるね」



こうして二人は駆け落ちの約束をした。
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