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「お前! 180フランはどうした!? あのガキから取ってきたんじゃねえのかよ!? 手ぶらとかありえないだろ!」


帰宅したアランは、ヴァネッサがモデル代を持って帰らなかったと聞いて声を荒げた。テーブルをひっくり返し、花瓶を投げつけ、ヴァネッサの頬をぶった。ヴァネッサはぶたれた反動で倒れ込み、涙目でアランを見上げた。


「アラン、ごめんなさい! 今日のコルテオは様子がおかしかったの。来月は必ず取ってくるから……どうか許して……」


ヴァネッサはアランにしがみつくも、アランは彼女を乱暴に払いのけた。


「この馬鹿が! 二度と帰ってくるな! 出ていけ。お前とは別れる。いい加減うんざりなんだよ。別の女と暮らすわ」


「え……どういうことよ! たった一回、お金を持って帰らなかっただけじゃない! それに……別の女ってなによ!?」


「はあ? 俺のようなイイ男が、お前みたいなみみっちい女一人で満足すると思うなよ?」


「ひどい! あんまりよ! わたしのことを何だと思ってるの!? ずっとわたしを騙してきたのね! 夫婦になって、家を建てようって話をしてたじゃない!」


アランはあざけるようにして笑った。


「お前はな、金を持って来る女。それ以外に何の取り柄があるんだ? 言ってみろよ。金を持って来ないお前なんかいらないんだよ。顔も見たくないわ。チャンスは二度は与えませーん。あとよ……夫婦になるっていう契約書でも書いたか? 書いてねえだろうがよ。約束した覚えがないね~」


「この裏切り者! 人でなし!」


「一方的に言うんじゃねえよクソ女。お前だってコルテオに情を抱いてんだろ? お前の話しぶりからしてな、わかってんだよ俺は。浮気女はどっかいけ」


「そんなの言いがかりよ! 全部あんたのためにしてきたのに!」


ヴァネッサは掴みかかって反撃してみたものの、無駄に終わった。
ついにアランに無理やり外へ放り出された。家の扉を叩くも、アランは無視した。



そうして、身も心もボロボロになったヴァネッサは行くあてもなく歩き始め、やがて首都の中央広場に着いた。街灯に照らされた中央広場は多くの人影に揺れ、夜はまだ大部分を持て余していた。行く先も人、振り返っても人であった。

ヴァネッサはベンチに腰を下ろした。苦しくてあえぐような、みじめな気持ちだった。彼女の繊細なまつ毛から、二粒の涙が重くしたたり落ちた。

ヴァネッサはまるで都会の孤独という透明な壁に守られているかのように、一人でありとあらゆる後悔を始めた。その後悔の中には、モデル代を受け取らなかったことは入っていなかった。アランという男の言われるがままにしか行動せず、騙され、束縛や暴力を愛情と勘違いしていたことを悔やんだのだった。

そんな彼女の隣に座った一人の貴婦人がいた。

金銀で装飾された派手な額縁を両脇に抱えている。

そう。ベランジェール伯爵夫人である。
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