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「お姉ちゃん! 久しぶり!」
応接室に入ると、妹のタイスがソファに腰掛けたままこちらへ手を振った。
私は手紙を片手に持ちつつタイスの向かいに座った。
「タイス、元気そうね。今朝お父様から手紙が届いたばかりなの。びっくりしたわ」
「え、そうなの? いっつもぎりぎりで言うからダメよね、お父様は。わたしが今日からこの屋敷に住むっていうのは書いてあった?」
「住まわせてやってくれないか、というお願いの手紙だったけど……」
「わたしは今日からここに住むつもりで来たのよ? 大きな荷物は明日届くわ。お姉ちゃん、住んでいいよね?」
タイスは足を組んだまま、当然住めるよねというトーンできいてきた。少しは成長しているのかと思っていたのに、タイス特有の図々しさは変わっていない。
すると、ジルが応接室に入ってきて私の隣に座った。
「結婚式ぶりだねタイス! 元気だった?」
「はい、元気でした! ジル様も相変わらずかっこよくて素敵ですね!」
「はははは、ありがとう」
ジルはタイスに褒められて顔を赤くしていた。初対面のときもタイスにデレデレしていて、私はあまりいい気がしなかった。タイスはタイスで体をモジモジさせ、恥ずかしそうにしている。
ジルは私に言った。
「マリアンヌ、ちょっといいかな。外で話そう」
さすがに突然すぎるわよね……。実家には悪いけど、夫婦の日常を壊したくない。
応接室を出て、私からジルに話しかけた。
「ごめんなさい、急にタイスが押しかけて来ちゃって。やっぱり迷惑だと思うし、タイスにはひとまず実家に戻るよう伝えるね。タイスが王立学院にどう通うかは私も実家と話すようにするわ」
ジルは顔をしかめて首を横に振った。
「いやいや、それはできないよ。辺境伯様の頼みなんだから。辺境伯様の力のおかげで、僕は王宮でそれなりの立場になっているし。むげにはできないよ」
「ええ!? じゃあこのままタイスと一緒に暮らすの?」
「そうするしかないよ。でも安心して。僕たちの夫婦生活は必ず守る。タイスが来たからといって、同じ家で別々に住んでいるようなもんだ。僕はマリアンヌのことが好きだし、大切にしている。僕の仕事のためにも、タイスを受け入れてくれないか?」
確かにジルは王宮で飛躍的な出世を遂げていて、これは私の父の力に依っている。私たちはあくまで政略結婚で結ばれた間柄であり、それでもこうして一人の女性として愛してくれるジルには感謝しなければならない。これから一緒に暮らす相手というのも、私の妹であり、本来は私からお願いしなければならないこともわかっていた……。
私はジルに答えた。
「あなたがそう言うなら……あのようなおてんば娘の妹ではあるけど、一緒に暮らしてもらえると嬉しいです。ありがとう」
ジルはうんうんとうなずいた。
「じゃあ決まりだね。使用人にタイスの部屋をあてがうように指示しておくよ。マリアンヌはタイスと話して、ここに住んでもいいって伝えてあげて」
「わかったわ。いつも気を遣ってくれてありがとう」
「そんなかしこまらなくていいよ! これからも僕とマリアンヌは仲良し! いいね?」
そう言うとジルは使用人の部屋へ歩いて行った。
妹と一緒に住むというこの決断が私たち夫婦を終わらせることになるなんて、知るよしもなかった……
応接室に入ると、妹のタイスがソファに腰掛けたままこちらへ手を振った。
私は手紙を片手に持ちつつタイスの向かいに座った。
「タイス、元気そうね。今朝お父様から手紙が届いたばかりなの。びっくりしたわ」
「え、そうなの? いっつもぎりぎりで言うからダメよね、お父様は。わたしが今日からこの屋敷に住むっていうのは書いてあった?」
「住まわせてやってくれないか、というお願いの手紙だったけど……」
「わたしは今日からここに住むつもりで来たのよ? 大きな荷物は明日届くわ。お姉ちゃん、住んでいいよね?」
タイスは足を組んだまま、当然住めるよねというトーンできいてきた。少しは成長しているのかと思っていたのに、タイス特有の図々しさは変わっていない。
すると、ジルが応接室に入ってきて私の隣に座った。
「結婚式ぶりだねタイス! 元気だった?」
「はい、元気でした! ジル様も相変わらずかっこよくて素敵ですね!」
「はははは、ありがとう」
ジルはタイスに褒められて顔を赤くしていた。初対面のときもタイスにデレデレしていて、私はあまりいい気がしなかった。タイスはタイスで体をモジモジさせ、恥ずかしそうにしている。
ジルは私に言った。
「マリアンヌ、ちょっといいかな。外で話そう」
さすがに突然すぎるわよね……。実家には悪いけど、夫婦の日常を壊したくない。
応接室を出て、私からジルに話しかけた。
「ごめんなさい、急にタイスが押しかけて来ちゃって。やっぱり迷惑だと思うし、タイスにはひとまず実家に戻るよう伝えるね。タイスが王立学院にどう通うかは私も実家と話すようにするわ」
ジルは顔をしかめて首を横に振った。
「いやいや、それはできないよ。辺境伯様の頼みなんだから。辺境伯様の力のおかげで、僕は王宮でそれなりの立場になっているし。むげにはできないよ」
「ええ!? じゃあこのままタイスと一緒に暮らすの?」
「そうするしかないよ。でも安心して。僕たちの夫婦生活は必ず守る。タイスが来たからといって、同じ家で別々に住んでいるようなもんだ。僕はマリアンヌのことが好きだし、大切にしている。僕の仕事のためにも、タイスを受け入れてくれないか?」
確かにジルは王宮で飛躍的な出世を遂げていて、これは私の父の力に依っている。私たちはあくまで政略結婚で結ばれた間柄であり、それでもこうして一人の女性として愛してくれるジルには感謝しなければならない。これから一緒に暮らす相手というのも、私の妹であり、本来は私からお願いしなければならないこともわかっていた……。
私はジルに答えた。
「あなたがそう言うなら……あのようなおてんば娘の妹ではあるけど、一緒に暮らしてもらえると嬉しいです。ありがとう」
ジルはうんうんとうなずいた。
「じゃあ決まりだね。使用人にタイスの部屋をあてがうように指示しておくよ。マリアンヌはタイスと話して、ここに住んでもいいって伝えてあげて」
「わかったわ。いつも気を遣ってくれてありがとう」
「そんなかしこまらなくていいよ! これからも僕とマリアンヌは仲良し! いいね?」
そう言うとジルは使用人の部屋へ歩いて行った。
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