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レッスン日当日、ゴードン男爵はいつにもましてウキウキしていた。ここ三ヶ月あまり、自分と先生の関係は良好である。様々な学習法を伝えることで、むしろ自分が先生に教えてあげていると言っても過言ではない。何度「よくご存知ですね、さすがです」と褒めてもらったことか! 雑談の時間を多くすることで、先生の肩が凝らないようにも配慮している。少年時代、修道院附属学校にいた経験があるが、そのときの先生の雑談時間は楽しかった。授業の真剣さから解放され、リラックスする。わしはあのときの理想を実現している!
最も嬉しいのは……エレオノーラ先生の慎ましげな女性らしい視線である。わしが彼女を見つめると、彼女は照れくさそうに微笑して視線をそらす。その姿がなんとも愛おしいのだ! 彼女の一見するところの無表情や冷たさは、きっと今までに多くの人の誤解を生んできたことだろう。だがわしにはわかる。彼女の心に秘められた優しさ、情熱を……!
こんなことを考えながら、ゴードン男爵はエレオノーラが到着するといつも通り髪のセッティングへ向かった。それを見届けたカチェリーナは、さっと書斎に入り、小部屋の死角へ移動した。
レッスンが始まった。
この日ゴードン男爵はフローベールの小説『ボヴァリー夫人』のフランス語版と自国語版を用意していた。それらを机に並行して並べ、解説してほしいとエレオノーラに頼んだ。
「ゴードン様……フローベールの小説は大変素晴らしいもので、学ぶ意義の大きい作品ではありますが……もう少し取り組みやすい物語もあります」とエレオノーラが言った。
「フローベールの素晴らしさはやはり先生もご存知なのですな。さすがです。ちなみに……取り組みやすい物語とは何ですか?」
「たとえば『星の王子さま』の場面を抜粋し、フランス語の基礎的な文法に焦点を当てたテキストもございます。物語を通じて学習なされるつもりならおすすめです」
「ふむ……先生のおっしゃることは最もかもしれませんが、やはりわしは個人的に心酔した物語でなければ興味が持てないのです。フローベールが無理なら、ユーゴーの『レ・ミゼラブル』はいかがでしょう? あれも名作ですな! パン一つに苦しんだことが、実はわしにもあるのですよ。生活の不安はこの世で最も忌まわしいものです。先生はお若いから不安を感じることも多いでしょう?」
「ええ……まあ……たまに不安を感じることはありますが……」
「そうでしょう! しかし、気にすることはありません。若いうちは、安心するために不安を感じるようなものなのです。矛盾しているように聞こえるかもしれませんがね。わしも不安だらけだった。不安なく生きたいはずなのに、不安なしではいられなかった。不安に支えられていない安心感なんて、受け入れられなかった」
「ご苦労なさってきたのですね……」エレオノーラは相槌をうちつつも、この日も学習が進められないのではないかと恐れた。奥様も見ているのに……ああ! ままならない教師生活。
ゴードン男爵の勢いは止まらない。
「いやはやお恥ずかしい、馬鹿みたいに見えて実は人並みの苦労はしてきたのですよ! わしがどんなふうにして不安を克服したか、知りたいですかな?」
「はい……どのようにしたのですか?」
「ある日気づいてしまったのですよ。不安がわしを生かしているわけではない。水と食料、そして屋敷がわしを生かしてくれている……。あの日の感動を先生と分かち合えたらなあ! 人間は衣食住が整えば、あとは少しのワインがあればいい。それがわかってから、不安なんてさっさと捨てちまいました! なぜあんな役立たずを大切に抱えてきたのか、今となってはわかりません。必要なのは飯! 水! 屋根! だから先生も短い人生で一瞬も不安になる必要なんかないのです!」
こんな会話を続けるばかりで、いっこうに学習が進まない。フランス語を学ぶための時間なのに、目的が別になっている。カチェリーナは想像よりもひどい現状に驚き、行動に移すことに決めた。
最も嬉しいのは……エレオノーラ先生の慎ましげな女性らしい視線である。わしが彼女を見つめると、彼女は照れくさそうに微笑して視線をそらす。その姿がなんとも愛おしいのだ! 彼女の一見するところの無表情や冷たさは、きっと今までに多くの人の誤解を生んできたことだろう。だがわしにはわかる。彼女の心に秘められた優しさ、情熱を……!
こんなことを考えながら、ゴードン男爵はエレオノーラが到着するといつも通り髪のセッティングへ向かった。それを見届けたカチェリーナは、さっと書斎に入り、小部屋の死角へ移動した。
レッスンが始まった。
この日ゴードン男爵はフローベールの小説『ボヴァリー夫人』のフランス語版と自国語版を用意していた。それらを机に並行して並べ、解説してほしいとエレオノーラに頼んだ。
「ゴードン様……フローベールの小説は大変素晴らしいもので、学ぶ意義の大きい作品ではありますが……もう少し取り組みやすい物語もあります」とエレオノーラが言った。
「フローベールの素晴らしさはやはり先生もご存知なのですな。さすがです。ちなみに……取り組みやすい物語とは何ですか?」
「たとえば『星の王子さま』の場面を抜粋し、フランス語の基礎的な文法に焦点を当てたテキストもございます。物語を通じて学習なされるつもりならおすすめです」
「ふむ……先生のおっしゃることは最もかもしれませんが、やはりわしは個人的に心酔した物語でなければ興味が持てないのです。フローベールが無理なら、ユーゴーの『レ・ミゼラブル』はいかがでしょう? あれも名作ですな! パン一つに苦しんだことが、実はわしにもあるのですよ。生活の不安はこの世で最も忌まわしいものです。先生はお若いから不安を感じることも多いでしょう?」
「ええ……まあ……たまに不安を感じることはありますが……」
「そうでしょう! しかし、気にすることはありません。若いうちは、安心するために不安を感じるようなものなのです。矛盾しているように聞こえるかもしれませんがね。わしも不安だらけだった。不安なく生きたいはずなのに、不安なしではいられなかった。不安に支えられていない安心感なんて、受け入れられなかった」
「ご苦労なさってきたのですね……」エレオノーラは相槌をうちつつも、この日も学習が進められないのではないかと恐れた。奥様も見ているのに……ああ! ままならない教師生活。
ゴードン男爵の勢いは止まらない。
「いやはやお恥ずかしい、馬鹿みたいに見えて実は人並みの苦労はしてきたのですよ! わしがどんなふうにして不安を克服したか、知りたいですかな?」
「はい……どのようにしたのですか?」
「ある日気づいてしまったのですよ。不安がわしを生かしているわけではない。水と食料、そして屋敷がわしを生かしてくれている……。あの日の感動を先生と分かち合えたらなあ! 人間は衣食住が整えば、あとは少しのワインがあればいい。それがわかってから、不安なんてさっさと捨てちまいました! なぜあんな役立たずを大切に抱えてきたのか、今となってはわかりません。必要なのは飯! 水! 屋根! だから先生も短い人生で一瞬も不安になる必要なんかないのです!」
こんな会話を続けるばかりで、いっこうに学習が進まない。フランス語を学ぶための時間なのに、目的が別になっている。カチェリーナは想像よりもひどい現状に驚き、行動に移すことに決めた。
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