不純な浮気夫が許せないので、痛い目を見てもらいましょう。

Hibah

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ゴードン男爵は(うんうん、素直に言えないことはわかっておるぞ)という物知り顔をして、エレオノーラを見つめた。勘違いは続いている。


「エレオノーラ。君のような歳では、恋が実ることがまだ怖いのだろう。願いを持つことは若くてもできるが、いざ叶った後では、それを受け入れる精神力がいる。庶民は願いを持つ大切さは教えても、叶った後の振る舞い方まで教えてくれない。叶ったことがある人間などごく少数だからな。しかし、夢は叶った後のほうが大事なのだよ……わしがそれを教えてやる。夢の味わい方を……」


こう言ってゴードン男爵はエレオノーラに近づき、彼女を抱きしめようとした。しかしエレオノーラは身をひるがえしてそれを拒み、書斎の端まで逃げた。


「やめてください! 本当にゴードン様は思い違いをしております。わたしはあなたに恋なんてしていません。強がってもいません。迷惑なのです」



ゴードン男爵は嫌がるエレオノーラを見て、戸惑いの表情を浮かべた。そしてしばらく黙った後、やはりエレオノーラが怖がっていることがわかり、自分が好かれていないと悟るに至った。



カチェリーナが小部屋から姿を現した。



「あなた」



後ろから突然妻に呼びかけられたゴードン男爵は身体をビクッと震わせ、驚愕した。


「お、お前……! どうしてここに!?」


カチェリーナは小部屋を指し示しつつ答えた。


「あそこにずっといたのですよ。初めから全部聞いていました」


ゴードン男爵の顔から血の気が引く。


「いや、あの、これはだなあ……そう! お芝居なんだ。フランス語の教科書に出てきた芝居を、おふさけでやってみただけだ。そうですよね、先生?」


ゴードン男爵による往生際の悪い作り話を聞き、エレオノーラは冷たい視線だけで反応した。そんなわけないでしょ、と物語っていた。

思ったように調子を合わせてくれないと感じたゴードン男爵は、妻をちら見するも、こっちのほうがやばい。

人間はこんなに冷徹な目ができるのか!
一切が受け入れられない、人を刺すような視線……。

ゴードン男爵は膝の力が抜け、床に座り込んだ。無言で怯えた。

書斎の空気がピリピリと張り詰める中、カチェリーナはエレオノーラに言った。


「先生。レッスンは今日までとさせていただきます。夫がご迷惑をおかけしました。本日分のお金は後日、倍で支払います。ありがとうございました」


これを聞いてエレオノーラはうなずき、荷物をまとめてそそくさと書斎を出た。気まずさの頂点に達していた。

その後、カチェリーナはゴードン男爵を問い詰めた。


「フランス語を学ぶためにエレオノーラに来てもらっていたのではないのですか? エレオノーラはあなたの話相手ではないでしょ? 立派な先生ですよ。低俗なエロじじいの慰み者ではありません」


「……」言葉にならないゴードン男爵は苦悶に満ちた顔をしている。


「浮き足だって話をするだけでもウザがられるというのに、告白までしてしまうなんて……あなたには家庭があるのですよ? エレオノーラは将来がある独身女性ですし……どんなつもりですか? 本来の目的で彼女からフランス語を学ぶことが、彼女にとって最も良い未来だったのではありませんか? あなたのつまらない浮気心のせいで彼女は生徒を一人失いましたし、心にも何かしらの傷を負ったかもしれません。そこまで理解していますか?」


「……喜んでくれていると思っていたんだ……悪気はなかった……」


「悪気がなければ許されるとお思いで? そんな歳ではないのですよ。年寄りの『悪気はなかった』は一番タチが悪い。若い人ほど気を遣うのですから、それに甘えてはいけません」


「……わしが全部悪かった。本当にすまなかったよ……。あと……誤解してほしくないんだが、先生は悪くないぞ。だから彼女のことは責めないでくれ」


カチェリーナに怒りが湧き上がった。エレオノーラのことを誤解したことなんてない。


「わかってます! 先生のことをかばって何をいい人ヅラしてるの!? 先生が悪くないなんて当たり前。恥を知りなさい!」


家庭教師への告白を妻に見られてしまったというショックと、エレオノーラに拒まれたというショックが二重でゴードン男爵を襲った。いたたまれなさと、取り返しのつかないことをしてしまったという後悔とで押しつぶされそうだった。許されぬ恋という人生イベントを復活させた愚かさが、ゴードン男爵を痛めつけた。そして、青年時代に負ったかすり傷の幻影は、老年の重傷となって彼を迎えるのだった。
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