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プロローグ
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あぁ、月が綺麗だな。なんて、ぼんやりと考える。ヒリつく頬を撫でる風が気持ちよくて、涙が滲んだ。
遠くで父親の喚き散らす声と、食器類の割れる音がする。その音を意識的に聞かないようにし、私は一歩足を踏み出した。
あと一歩足を踏み出したら、全てが終わる。
横暴な父親の暴力とも、異質な目で私を見る周りの人たちとも、永遠におさらばだ。
最期にもう一度月を見上げ、現実から逃れるべく、一歩足を踏み出した。
* * *
死ねば痛みも苦しみも、何も感じなくなるものだと思っていた。なのに。
「~~~~~~っ!!」
身体を駆け抜けた激痛に悶絶する。そんな私の耳に、やけに明るい少女の声が聞こえてきた。
「やりましたわ! ほら、ごらんなさい。ちゃんと出来ましてよ!」
「エリザ様が成功なさったの、初めて見ました……」
喜び溢れる少女の声に続いて聞こえたのは、呆気に取られた少年の声。なるべく人のいない時間帯を狙って飛び降りたはずなのに、下に人がいたなんて。と、痛みから瞑っていた目を開けた私は、周りの状況を見て固まった。
「ココドコ……?」
飛び降りたのはマンションの屋上から。だから、下にあるはずなのは歩道と植え込みくらいなもの。だけど今、私の目の前に広がっているのは白一色の世界だった。
白い石造りの壁や柱。扉でさえ白いこの世界は、天国だと言われれば納得がいった。
死んでまで痛みがあるとは思わなかったけど、天国ならまぁいいか。そう思った私は、いそいそと身体を横たえた。
「え? あの、大丈夫ですか?」
「うん、天国行きならもういいかなって……あ、もしかして、何かやらなきゃいけないことあります? ていうか、できれば永遠に眠ってたいんだけど」
横たわってはみたものの、天国の仕来たりがあるのだろうかとふと思い直す。再び上体を起こした私に、二人の人物は顔を見合わせた。
「えっと……まずは自己紹介を致しますわね。私はエリザと申します」
にこやかに自己紹介をしたエリザは、十歳くらいの少女だった。桜色の髪をゆるく三つ編みにし、巫女さん風のドレスを着ている。
「自分はエリザ様の側近で、ノエルです」
深く一礼したノエルは、エリザよりも少し年上らしき少年。エリザと同じ桜色の髪を後で一つに結び、騎士風の深緑の服を着ていた。
髪の色もそうだけど、この二人は笑顔が似ている。その笑顔になんとなく癒されていたけれど、自分も名乗っていなかったことに気付いた。
「あ、田崎舞花です……」
「舞花様、良い名ですね! ようこそ、我がジオラス国へ!」
良く似た二つの笑顔を見ながら、私の頭にはクエスチョンマークが浮かび上がる。
「ジオラス国……? 天国、ではなく?」
「? ええ、ここはジオラス国と申しますの。舞花様のことは、私がお呼びしたのですわ」
にっこりと微笑むエリザを見ながら、私はお尻に鈍い痛みが残っていることに、絶望的な思いを抱いていた。
遠くで父親の喚き散らす声と、食器類の割れる音がする。その音を意識的に聞かないようにし、私は一歩足を踏み出した。
あと一歩足を踏み出したら、全てが終わる。
横暴な父親の暴力とも、異質な目で私を見る周りの人たちとも、永遠におさらばだ。
最期にもう一度月を見上げ、現実から逃れるべく、一歩足を踏み出した。
* * *
死ねば痛みも苦しみも、何も感じなくなるものだと思っていた。なのに。
「~~~~~~っ!!」
身体を駆け抜けた激痛に悶絶する。そんな私の耳に、やけに明るい少女の声が聞こえてきた。
「やりましたわ! ほら、ごらんなさい。ちゃんと出来ましてよ!」
「エリザ様が成功なさったの、初めて見ました……」
喜び溢れる少女の声に続いて聞こえたのは、呆気に取られた少年の声。なるべく人のいない時間帯を狙って飛び降りたはずなのに、下に人がいたなんて。と、痛みから瞑っていた目を開けた私は、周りの状況を見て固まった。
「ココドコ……?」
飛び降りたのはマンションの屋上から。だから、下にあるはずなのは歩道と植え込みくらいなもの。だけど今、私の目の前に広がっているのは白一色の世界だった。
白い石造りの壁や柱。扉でさえ白いこの世界は、天国だと言われれば納得がいった。
死んでまで痛みがあるとは思わなかったけど、天国ならまぁいいか。そう思った私は、いそいそと身体を横たえた。
「え? あの、大丈夫ですか?」
「うん、天国行きならもういいかなって……あ、もしかして、何かやらなきゃいけないことあります? ていうか、できれば永遠に眠ってたいんだけど」
横たわってはみたものの、天国の仕来たりがあるのだろうかとふと思い直す。再び上体を起こした私に、二人の人物は顔を見合わせた。
「えっと……まずは自己紹介を致しますわね。私はエリザと申します」
にこやかに自己紹介をしたエリザは、十歳くらいの少女だった。桜色の髪をゆるく三つ編みにし、巫女さん風のドレスを着ている。
「自分はエリザ様の側近で、ノエルです」
深く一礼したノエルは、エリザよりも少し年上らしき少年。エリザと同じ桜色の髪を後で一つに結び、騎士風の深緑の服を着ていた。
髪の色もそうだけど、この二人は笑顔が似ている。その笑顔になんとなく癒されていたけれど、自分も名乗っていなかったことに気付いた。
「あ、田崎舞花です……」
「舞花様、良い名ですね! ようこそ、我がジオラス国へ!」
良く似た二つの笑顔を見ながら、私の頭にはクエスチョンマークが浮かび上がる。
「ジオラス国……? 天国、ではなく?」
「? ええ、ここはジオラス国と申しますの。舞花様のことは、私がお呼びしたのですわ」
にっこりと微笑むエリザを見ながら、私はお尻に鈍い痛みが残っていることに、絶望的な思いを抱いていた。
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