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狐に揉みくちゃにされながら時間は過ぎていき、ようやく宴会がお開きになると、私はまた五人の女性たちに連れていかれた。またもやお風呂に入れられたと思うと、今度は薄い夜着を着せられる。
「なっ、何これ……っ」
袖を通した時に、肌触りの良さに驚かされたものの、それより気になったのは布の薄さだった。合わせの部分以外、肌が透けて見えてしまっている。これでは裸も同然だ、と抗議をしたが、女性たちは有無を言わさず私を取り囲むと、母屋から伸びる一本の回廊を渡り、その先にある離れに私を連れていった。
「こちらでお待ちを」
言うなり、障子戸を閉め去っていく女性たち。私は諦めて部屋を見渡した。
部屋の中には灯りのついた灯籠が2つ、そして布団が一組だけある。その大きさは私が普段使っていたものより数倍大きいものだったけれど、こんなに大きなお屋敷だと布団も大きいのかもしれない、と思った……その時だった。
「待たせたな」
「ぁ……」
いつの間に来ていたのか、振り返ると部屋に入ってきていた巨体の青年が、後ろ手で障子戸を閉めるところだった。そして私の側に腰を下ろした彼は、軽々と私を抱き上げ、膝に乗せてしまう。
「由奈……」
「ぁ、待って……」
抱き締められ、また重なりかけた唇を寸でのところで回避する。すると、彼はキョトンとした顔で私を見下ろした。
「あなたは、誰? ここは……?」
疑問はたくさんあるにはあるけれど、まず聞かなくてはならないのはこれだろう。すると、彼はあぁ、と頷き、優しく微笑んだ。その笑顔に内心ドキッとしながら、座敷で会った時と同じく、何故かその紅い瞳に懐かしさを覚えた。
「すまぬ、説明ができていなかったな。我は暁、この天堂家の跡取りだ」
「あの、天堂家って……?」
「聞いたことはないか? この村の地主が頭の上がらぬ、旧家の一族……と、表向きにはなっているが、実際は人間ではない。天狐……まぁ、化け狐の一族だ」
そう言った青年ーー暁の瞳がキラリと金色に光って見えた。その瞳に射抜かれて、私の身体にザワリと何かが走った。
「我が一族の当主となる者は、別の一族から妻を娶る。我は初めて会った時から、由奈を妻にと望んでいたのだ」
「私……? でも、初めて会ったのは今日ですよね……?」
暁の言葉に首を傾げると、彼は一瞬目を見張り、次いで悲しげに私を見つめた。
「覚えて……いないか……?」
「え?」
困惑する私をしばらく見つめ、やがて諦めたのか、微笑んだ暁は私の髪に唇を寄せた。
「良いのだ、仕方あるまい……要は、我の一目惚れだ」
髪からおでこへ、おでこから頬へと降りてきた唇に、私の吐息が知らぬ間に荒くなっていく。そして、顎にそっと触れた指先に上向かされ、私は小さく息を漏らした。
「ずっと……由奈が欲しかったのだ。我の妻になってくれ……」
甘い誘うような囁き。あと数ミリまで近付いた唇。
そして、私はこの時自ら選択した。人間ではない彼とのこれからの人生を———。
「なっ、何これ……っ」
袖を通した時に、肌触りの良さに驚かされたものの、それより気になったのは布の薄さだった。合わせの部分以外、肌が透けて見えてしまっている。これでは裸も同然だ、と抗議をしたが、女性たちは有無を言わさず私を取り囲むと、母屋から伸びる一本の回廊を渡り、その先にある離れに私を連れていった。
「こちらでお待ちを」
言うなり、障子戸を閉め去っていく女性たち。私は諦めて部屋を見渡した。
部屋の中には灯りのついた灯籠が2つ、そして布団が一組だけある。その大きさは私が普段使っていたものより数倍大きいものだったけれど、こんなに大きなお屋敷だと布団も大きいのかもしれない、と思った……その時だった。
「待たせたな」
「ぁ……」
いつの間に来ていたのか、振り返ると部屋に入ってきていた巨体の青年が、後ろ手で障子戸を閉めるところだった。そして私の側に腰を下ろした彼は、軽々と私を抱き上げ、膝に乗せてしまう。
「由奈……」
「ぁ、待って……」
抱き締められ、また重なりかけた唇を寸でのところで回避する。すると、彼はキョトンとした顔で私を見下ろした。
「あなたは、誰? ここは……?」
疑問はたくさんあるにはあるけれど、まず聞かなくてはならないのはこれだろう。すると、彼はあぁ、と頷き、優しく微笑んだ。その笑顔に内心ドキッとしながら、座敷で会った時と同じく、何故かその紅い瞳に懐かしさを覚えた。
「すまぬ、説明ができていなかったな。我は暁、この天堂家の跡取りだ」
「あの、天堂家って……?」
「聞いたことはないか? この村の地主が頭の上がらぬ、旧家の一族……と、表向きにはなっているが、実際は人間ではない。天狐……まぁ、化け狐の一族だ」
そう言った青年ーー暁の瞳がキラリと金色に光って見えた。その瞳に射抜かれて、私の身体にザワリと何かが走った。
「我が一族の当主となる者は、別の一族から妻を娶る。我は初めて会った時から、由奈を妻にと望んでいたのだ」
「私……? でも、初めて会ったのは今日ですよね……?」
暁の言葉に首を傾げると、彼は一瞬目を見張り、次いで悲しげに私を見つめた。
「覚えて……いないか……?」
「え?」
困惑する私をしばらく見つめ、やがて諦めたのか、微笑んだ暁は私の髪に唇を寄せた。
「良いのだ、仕方あるまい……要は、我の一目惚れだ」
髪からおでこへ、おでこから頬へと降りてきた唇に、私の吐息が知らぬ間に荒くなっていく。そして、顎にそっと触れた指先に上向かされ、私は小さく息を漏らした。
「ずっと……由奈が欲しかったのだ。我の妻になってくれ……」
甘い誘うような囁き。あと数ミリまで近付いた唇。
そして、私はこの時自ら選択した。人間ではない彼とのこれからの人生を———。
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