追放者の帰国記

剣正人

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二話 八年後

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 青空の下、馬車を運転しながら俺は八年ぶりの帰国に感慨深くなる。
 はっきり言ってこの国に来る気はなかったが、母が死んだと噂で知り、真実かどうか調べた。そして、色々考えた結果、墓参りに行く事にした。
 母は俺にとって唯一の親だ。父を筆頭に祖父、祖母、弟、妹は俺にとって家族ではない。
 そんな母の葬式に参列出来なかったのは、本当に残念だ。

「列に並んでください」
 考え込んでいたら、馬車は城塞都市の門付近に着いていた。この聖王国内の都市は全て壁に覆われていて、出入りの際は門兵による質疑応答がある。
「ようこそ、王都へ」
「こんにちは」
 門兵に挨拶をし、商人ギルドカードを渡す。
「行商人の方ですか。何を積んでいるんですか?」
 簡単な質疑応答を受け、馬車の中も見せる。馬車の中には寝ている女性と積荷がある。
「この女性は?」
「妻です。起こした方がいいですか?」
 この女性は3年前に結婚したレイアだ。当初は連れて行く気はなかったが、彼女に説得されて一緒に行く事になった。
「そのままでいいですよ。怪しい物もないですね」
 行商人は夫婦でやる者も珍しくない為、わざわざ起こしたりはしないみたいだ。
「はい。問題なしです。通ってください」
 普通なら通行料を取られるが、商人ギルドに入っていれば無料で通れる。聖王国の経済政策の一つだ。
 許可が出たので、馬車を進ませて王都に入る。懐かしい光景が目に入ってきた。

「どう?久しぶりの光景は?」
 目を覚ましたらしいレイアから、感想を聞かれた。俺は珍しく感慨に浸っていたので、少し恥ずかしい。
「良くも悪くも何も変わってない、かな?」
 昔と比べて小さな変化はあるものの、大きな変化はなかった。その為、まるで時間があまり流れていないように感じたのだ。
「そう。伝統ある国だからなのかもね」

 王都内を暫く進んで予約を取ってある宿に到着した。事前に手配しておいた為、楽に手続きが終わった。
 四週間の滞在を予定しており、商談と秘密の墓参り、そして、レイアの予定。この三つだ。
 翌日、俺は早速商談に来ていた。
「こちらが要望の銃です。長銃と短銃の二つがあります」
 今回の商談は武器蒐集家に対し、新しい武器になる銃の販売だ。この国では銃を手に入れる事は困難であり、だからこそ高く売れるだろう。
「これが噂の銃ですか。霊力も魔力も必要とせず、遠距離から攻撃する武器」
 若干興奮気味で銃を手に取り、隅々まで観察しながら話しかけてくる。
「ええ。遠くだと当たらないし、一度使ったら再度装填しないといけないしと、問題も多いですが」
 不便な点もあげていくが、相手に届いているのか、わからない。相手は銃に夢中になっている。
 結局、想定よりも時間をかけ商談は成立した。
 金と珍しい物を手に入れた。上々の成果だ。
 しかし、今日は兎に角疲れた。レイアも待っているし、さっさと帰ろう。
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