追放者の帰国記

剣正人

文字の大きさ
上 下
5 / 10

五話 本選

しおりを挟む
 無事に予選を突破した翌日。本選の会場である円形闘技場に来ている。
 今は控え室で試合が始まるのを待っていた。
「・・・」
 部屋の中は緊迫した雰囲気であり、居心地は悪い。
「第一試合を開始します。試合順に入場してください」
 そんな中、職員が怯まずに指示の声を出した。

 闘技場内には選手達の観戦場所も用意されており、そこで試合を観戦することもできる。
 俺も早速、その場所で観戦している。情報収集だ。
 大きな大会に相応しい規模と重要人物達が揃っており、あえて本気を出さずに戦うと決めた俺は彼らにとって迷惑な存在だろう。
「本選第一試合を始めます。双方、殺害禁止以外は自由。始め!」

 第一試合から激戦が続くが、勝つのはやはり霊法術士だ。けれども、武術士達は力戦していた。
 武術士達は技巧と気合を駆使して霊法術士を攻め立てるが、有効な攻撃を与えられない。
 そして、時間が経過していくと武術士の動きが鈍くなり、霊法術の攻撃を避けられなくなる。
 一撃でも当たれば武術士は耐える事は出来ず、試合終了。
 そんな試合が続いていた。

 観戦している間に俺の番が来た。
「私の右手側にいるのは、クリムゾン子爵家が子息。炎のレッド!」
 俺の前に立つ相手選手は赤い髪と野生味のある顔つき、鍛えた肉体を持つ青少年だ。
「左手側にいるのは、出自不明、正体不明。何もかも不明な男、ネムレス!」
 解説の人の言うように俺は今、全身鎧を着用している。顔も見られない仕様だ。
「始め!」
 審判の声に反応し、レッド選手は突撃してきた。余程、格闘戦に自信があるのだろう。
 けれど、こちらも格闘戦には自信がある。この全身鎧は闘気武装であり、近接戦用に設計されている。
 俺は突っ込んできたレッド選手に迎撃の左打撃を打ち込んだ。しかし、手応えがなく外したようだ。
「おおお!」
 レッド選手は低姿勢で俺の打撃をかわし、勢いよく体当たりをしてきた。
 だが、この全身鎧は見た目相応の重量を持ち、とても硬い。
 その結果は僅かしか動かなかったし、怪我もない。対して相手は無防備に頭を晒している。
「ん」
 俺はその頭目掛けて頭突きした。相手は衝撃で意識が飛んだようだ。
 意識が飛んだ事で密着状態から解放された。そして、俺はふらつくレッド選手の顎に拳を撃ち込んだ。
 倒れて気絶したのを確認してから判決を待った。
「勝者ネムレス!」
 暫くしても起き上がらないレッド選手を確認して、審判は判決を言った。
 地味な試合だったせいか、観客席は静かな雰囲気だ。
 俺もこんな決着になるとは思ってなかった。殴り合いになると思っていた。

 本選第一試合が終わった。民間からの出場者は俺のみが残った。
 本選第二試合は明後日に行われる。つまり、一日の休みがある。
 特にする事が無い。どうしよう。
しおりを挟む

処理中です...