Je veux t'aimer

☆甘宮リンゴ☆

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#1 それは、運命の出会い

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ここは、魔法のある世界。
人々は、魔法の力で火を使い、空を飛び、動物を狩る。
魔法が当たり前の世界。



ところが、大昔。
まだ魔法が存在していなかった頃。
天使と悪魔が、長い長い戦争を繰り返していた。
翼を切り裂き、羽根を燃やし、天から雷を落とし、嵐のような風を呼ぶ。
混沌とする世界だった。
天使達は、地上で怯える人間達に救いの手を伸ばし、教会を建て信仰を広めた。
悪魔達は、人間を甘い言葉や力で誘惑し、堕落させた。
その時代に、ある天使と悪魔が生まれた。
天使の名はサジェス(Sagesse)。
生まれながらに様々な知恵を持った。
悪魔の名はエーヌ(Haine)。
生まれながらに深い憎しみを持った。
2人は、それぞれ天国と地獄で特別な存在とされた。
そして、この戦争に終止符を打つために、切り札として育てられた。
 


-side:Haine-

ここは、地獄。
1人の下級悪魔がいた。
名は、エーヌ。
「もう少し、あと少しで、地上に出れる…!」
エーヌは地獄に漂う魔気を集めていた。
下級悪魔は、わた毛に黒い翼が生えているような姿をしており、地獄から出ることを許されない。
魔気という黒いオーラを集め、中級悪魔に進化すると地上に出ることを許される。
地獄に生まれてから、まだ十日のことだった。
たくさんの魔気を吸収したエーヌの体を黒い影が覆い、その形を造っていく。
やがて影が晴れると、双角が生え、身体の半分程の翼が生えた悪魔の影の姿になった。
これが、中級悪魔の姿だ。
「やった!これが、中級悪魔、なのね。」
己の手や翼を見て確信したエーヌは、すぐ様地獄の門のところへ向かった。
「中級悪魔エーヌ。地上への出入り申請。」
「中級悪魔エーヌ。地上への出入りを許可します。おめでとう、エーヌ。」
「ありがとうケルベロスさま。行ってきます!」
番人に礼を言い、門を抜けて地上へ向かった。
エーヌは、早く地上に出てみたかった。
地獄から見上げた地上には、たくさんの人間達がいた。
些細な事で喧嘩をし、争いを生む。
エーヌにとって、素晴らしい存在だった。
「(己の欲に忠実で、力を欲する人間。きっと、素晴らしい憎悪を得られるでしょう!)」
エーヌの力の源は憎悪。
人間が生み出す憎悪は、最高のご馳走だ。
「(そうだ。地上に行ったら天使という者にも会ってみましょう!一体、どんな味がするかしら。)」
天使の羽は、地獄でも噂されるほど美味だと言う。
「……見えた!」
目に刺さる程の小さな光が見え、エーヌは思わず目を瞑った。
翼を大きく広げ、顔を腕で覆いながら光の中へ入り、勢いよく地上へ飛び出した。
恐る恐る目を開けると、見えたのは地を覆う木々の葉。
そして、光り輝く大きく丸い月だった。
「……素敵。」
月の光に照らされ、影が伸びていく。
「ここが、地上…。」
闇の空には星々が光り、暖かく心地よい風が吹いている。
地上の、人間達の世界に出たのだと、実感した。





-side:Sagesse-

ここは、天国。
1人の幼い天使がいた。
名は、サジェス。
ある日、サジェスは四大天使であるミカエルの元に呼ばれた。
天国に生まれてから、まだ十日のことだった。
「サジェスよ。地上へ赴き、知の泉の女神から洗礼を受けて来なさい。まだ生まれてまもないあなたですが、サジェスなら大丈夫です。」
「わかりました。ミカエルさま。」
「これを授けます。悪を討ち、光の道を示す弓です。くれぐれも、悪魔には気をつけなさい。たとえ影の悪魔だろうと、油断しては駄目ですよ。」
「はい。行ってまいります。」
ミカエルに深くお辞儀をして、門へ向かった。
貰った弓を十字架のネックレスに変え、首に掛ける。
天の門へ着くと、1人の天使が待っていた。
「あ、ラグエルさま。」
「サジェスよ。そのままでは、光の粒となってしまうぞ?」
「いけない!僕はまだ地上へ行けないんだった。」
幼い天使には、光の輪がある。
まだ己の中の光の力が少ないからだ。
そのまま地上に出ると、光の粒となって天国に戻されてしまう。
「だが、お前は知の泉へ行くのだろう?ならこれを飲みなさい。一時的だが、普通の天使と同じ姿になれる。」
「ありがとうございます!」
サジェスは青い液体の入った小瓶を受け取ると、一気に飲み干した。
すると、頭上にあった光の輪が消え、青年の姿になり、羽根が身体の半分程の大きさになった。
「これが…、一人前の天使の姿なのですね。」
「そうだ。お前にはまだ資格がないんだが、洗礼を受けたなら、きっとすぐなれるだろうよ。」
「はい、行ってまいります!」
ゆっくりと開かれた扉を通り、地上の世界へと飛び立った。
サジェスは、地上の世界を楽しみにしていた。
暖かい光が、人間の笑顔が溢れている。
サジェスにとって、素敵な世界だった。
「(知の泉に住む女神様の洗礼を受ければ、きっとすぐ一人前の天使になれる!)」
サジェスの象徴は知恵。
知の泉にいるという女神は、知識の神だ。
「(あ、でも、悪魔には気をつけないと。)」
天使にとって、悪魔は天敵だ。
その力に屈してしまうと、堕天してしまう。
「あ、あれだ!」
時の流れが変わり、地上の世界が見えてきた。
羽根を大きく広げ、バランスを取りながら、ゆっくりと教会の屋根に降り立つ。
今は夜だったようで、教会の中は暗く静まり返っていた。
そっと地上に降り、空を見上げた。
黒い空に、無数の星が瞬き、大きな月が地上を照らしていた。
「…綺麗だ。」
月の光に照らされ、教会の影を写し出していた。
サジェスは、地上に来れたのだと確信した。





-満月の夜。
地上に立つ天使は見た。
月に照らされた、黒く禍々しい影の悪魔の姿を。
月に照らされた悪魔は見た。
地上に立つ、白く輝く羽根を持つ天使の姿を。
その時お互いは、地上に出た喜びと、己の力不足を感じて近づかなかった。
そして、エーヌは空高く舞いどこかへ。
サジェスは知の泉へ。
それぞれ向かって行った。

サジェスとエーヌ。
2人の運命の始まりだった。
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