御月山

かたあげぽてとたべたい

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ある男の話

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それは遠い遠い遥か昔。この村に住んでいた、ある男の話をしよう。
まだこの村に名前がなかった頃の話だ。

代々この村に伝わる話に、「満月の。山の頂にある社へ宝物ほうもつを納めると、一つだけ願いが叶う」とある。

これから話す男も、幼少からこの話を聞き育っていた。
男は生真面目な性格で、よく働き、村の者たちにも世話を焼いていた。朝は畑仕事や家畜の世話に精を出し、午後には子供たちと遊んだりお手伝いをするのだ。

ある晴れた日のこと。男はいつものように仕事を終え、子供たちと遊んでいた。子供たちはよく「お月さまにおねがいごとをするんだ!」と元気よく言っていた。男も、『俺も、こんな幼子の頃にはよく夢を見ていたものだ。』と、子供たちの様子を見て懐かしんでいた。

夕暮れ時になり、子供たちを家に返した男は、ふと天を仰いだ。
紅く移り行く茜色に染る空の中。白く輝きのない満月は、ぼんやりとそこに浮かんでいた。

その日の夜、男は思い出した。
20年も前に、母から聞いた話を。
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