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天才に欠ける
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「えーと、次は…」
新明義尚は今日もここにいる。"新明義尚"、"新明医療センター"。そう、新明義尚はこの医療センターの院長。父は亡くなった。父は新明医療センターの院長だった。28歳という若さで、院長。天才、秀才。逸材。
私にできないことなどない。
「涙が出ない、と。」
ファイルを開いてみた。
あの中里のジジイ。めんどくせぇのよこしやがって。
新明は静かに舌打ちをした。まぁ、天才にできないことはないですから。
これが新明の日常だ。
………………そうだ、絶対そうだ。私を診る先生は……………新明義尚で間違いない。
ちょっと安心する。
なんたって院長。そして天才。
「伊山美桜さーん。お入りください。」
カラカラとドアが開いて光が差し込んだ。
さっと立ち上がりゆっくり入った。自分でドアを締めようとすると看護婦さんが既にしめていた。
「こんにちはー。えー。その、涙が出ないというのは、産まれてからずっとなんですよね。」
こんにちは、とこちらも返した。
「はい、まぁそうですね。」
「うーん……ドライアイかなぁ。」
「はい………」
「うーん。シェーグレン症候群だとは思うんだがね。」
何だろう、何か違う気がするんだが。
ちょっとごめん、と言って美桜の瞼を引っ張った。
「MRI検査受けてくれませんか。こちらへ。」
ここを出て放射線科と書いてある部屋へ入った。
MRI、聞いたことはもちろんある。磁気検査である。
放射線は何も関係ない、らしい。
青い服に着替えて不思議なドアを開ける。すると辺り一面に青空の広がる。と入っても壁紙だが。
なんとも異様な空間か。
ヘッドホンをつけて型に入った。苦しくなった時に握るというものを渡され、いよいよ検査は始まった。
うるさい。ただそれだけ。
寝たい。寝たい。寝れない。
それの繰り返しだ。
「ーーー。ーーーーーーー。」
ヘッドホンを通して声が聞こえた。聞き取れないが。
ウィーーンと音を立て美桜は機械の中から出てきた。
終わった………。
立ち上がり、歩くともうくらくらして、歩き方が異様なほどになっていた。
「結果が出ましたのでこちらへ」
最近のは速くに結果を見れるらしく、、、それだけである。
看護婦について行った。
さっきいた部屋だ。診察室だ。
「まぁ、座って。」
新明は腰掛けながら。
・・・言われなくても座る。
「これをよーく見るとねぇ・・・」
紙を2枚手に持ってながめている。たぶん美桜の、MRIでとった写真。美から見て左側の、壁にも数枚貼り付けられている。今まで気づかなかった。まだ少し気分が悪い。
「涙腺ってわかるかな。よく聞くとも思うんだけど。。」
さっきまで黙ってたと思ったらいきなり話しだした。
「はい、」
すぐに返さず、ゆっくりと返した。
すると新明は"目"とその周りの模型を机の棚からとって美桜に見せた。
「この、眼の上の、この塊。これが涙腺。線じゃないよ。」
涙腺の部位を指で指して見せる。
「上涙点もあるし、下涙点もある。で、-------」
それから涙の出る仕組みとやらを聞かされた。
要は、涙腺から涙をだす。10%蒸発するらしいが。
「君には、その涙腺が存在しないんだ。両目共にね。
初めて見たし、凄い珍しいケースだと思う。でもバランスもなにも崩れていない。」
"涙腺が存在しない"なんて驚いた。そんな記事目にした事などなかったからだ。目にしたところで驚くのは同じだ。
「そうですか・・・」
言葉が出ない。みんなにある物が私にはないなんて。
すると新明は言う。
「命にはなんの危険もない。なんにも、ね。目、いいでしょ?見えるでしょ。」
しかし急に新明は顔をしかめる。
「君は問診票に目の不快はないと書いた。涙が出ないだけだと。で、見る限り傷もないみたいなんだ。」
それがどうした、と美桜は思った。
「つまり、君はドライアイではない。」
ならいいじゃないか。
しかし美桜はこの異変に気づいてはいなかった。
「涙が出ない、ということは目が潤うことは無い。
目はかわく。君は涙が出ない。目はかわいているはず。しかしだ。ドライアイじゃない。」
そして今気づく。私の目はどうなっている?と心の中で自分に問う。
「・・・・・まぁ、目が涙が出ない以外健康ならそれでいいんだ。」
「はぁ。」
「薬も要らないですね。では、そういうことで、お大事に。」
・・・・・・・・・・え?
美桜の心の中に「は?」という言葉が鳴り響いた。
「え、どういうことですか。」
「どういうことも何も。涙が出ないだけだから、大丈夫ですよ。お大事に」
意味がわからない。
私の涙はどうでもいいのか。
健康だ、不健康だ、そんなの私は求めてない。
この人は馬鹿だ、阿呆だ。
患者はまだ問題を抱えているというのに。
見捨てるのか?
この男には心底あきれた。
「もういいです………!あなたの考えはきっと間違えてる………………!!!」
新明に背を向けてドアにその言葉を吐いた。
敬語に抑えた私を褒めて欲しい。あの男はクズに近い。いや、それ以下だ。腹が立つ。新明を汚す言葉だけが出てくる。
ドアを静かにしめるのはキツかった。今に爆発しそうな憤怒を抑えた。
気づけばもう病院の外だ。
8000円くらいは取られたな。
もうすっかり暗くなった空。冷たい風に吹かれて頭が冷めた。
「何が天才だ」
吐き捨てたその言葉は風でとばされた。
笑えてきたんだ。何故かわからないけど、ただ笑えてきて。
その日は帰ると母がいて、父もいた。3人で食卓を囲むことも少ない。楽しく食べたかったが、美桜は今日のこと、あの男のこと。すべて話した。父も母も黙って聞いてくれて。
優しかった。
もう・・・・・・・・ダメなの?
「もういいです………!あなたの考えはきっと間違えてる………………!!!」
"あなたの考えはきっと間違ってる"
そんなはずはない。
あの後新明は考え続けた。
私は天才で、正しいことをしているだけだ。
私は・・・・・・・・・・天才だ。
新明義尚は今日もここにいる。"新明義尚"、"新明医療センター"。そう、新明義尚はこの医療センターの院長。父は亡くなった。父は新明医療センターの院長だった。28歳という若さで、院長。天才、秀才。逸材。
私にできないことなどない。
「涙が出ない、と。」
ファイルを開いてみた。
あの中里のジジイ。めんどくせぇのよこしやがって。
新明は静かに舌打ちをした。まぁ、天才にできないことはないですから。
これが新明の日常だ。
………………そうだ、絶対そうだ。私を診る先生は……………新明義尚で間違いない。
ちょっと安心する。
なんたって院長。そして天才。
「伊山美桜さーん。お入りください。」
カラカラとドアが開いて光が差し込んだ。
さっと立ち上がりゆっくり入った。自分でドアを締めようとすると看護婦さんが既にしめていた。
「こんにちはー。えー。その、涙が出ないというのは、産まれてからずっとなんですよね。」
こんにちは、とこちらも返した。
「はい、まぁそうですね。」
「うーん……ドライアイかなぁ。」
「はい………」
「うーん。シェーグレン症候群だとは思うんだがね。」
何だろう、何か違う気がするんだが。
ちょっとごめん、と言って美桜の瞼を引っ張った。
「MRI検査受けてくれませんか。こちらへ。」
ここを出て放射線科と書いてある部屋へ入った。
MRI、聞いたことはもちろんある。磁気検査である。
放射線は何も関係ない、らしい。
青い服に着替えて不思議なドアを開ける。すると辺り一面に青空の広がる。と入っても壁紙だが。
なんとも異様な空間か。
ヘッドホンをつけて型に入った。苦しくなった時に握るというものを渡され、いよいよ検査は始まった。
うるさい。ただそれだけ。
寝たい。寝たい。寝れない。
それの繰り返しだ。
「ーーー。ーーーーーーー。」
ヘッドホンを通して声が聞こえた。聞き取れないが。
ウィーーンと音を立て美桜は機械の中から出てきた。
終わった………。
立ち上がり、歩くともうくらくらして、歩き方が異様なほどになっていた。
「結果が出ましたのでこちらへ」
最近のは速くに結果を見れるらしく、、、それだけである。
看護婦について行った。
さっきいた部屋だ。診察室だ。
「まぁ、座って。」
新明は腰掛けながら。
・・・言われなくても座る。
「これをよーく見るとねぇ・・・」
紙を2枚手に持ってながめている。たぶん美桜の、MRIでとった写真。美から見て左側の、壁にも数枚貼り付けられている。今まで気づかなかった。まだ少し気分が悪い。
「涙腺ってわかるかな。よく聞くとも思うんだけど。。」
さっきまで黙ってたと思ったらいきなり話しだした。
「はい、」
すぐに返さず、ゆっくりと返した。
すると新明は"目"とその周りの模型を机の棚からとって美桜に見せた。
「この、眼の上の、この塊。これが涙腺。線じゃないよ。」
涙腺の部位を指で指して見せる。
「上涙点もあるし、下涙点もある。で、-------」
それから涙の出る仕組みとやらを聞かされた。
要は、涙腺から涙をだす。10%蒸発するらしいが。
「君には、その涙腺が存在しないんだ。両目共にね。
初めて見たし、凄い珍しいケースだと思う。でもバランスもなにも崩れていない。」
"涙腺が存在しない"なんて驚いた。そんな記事目にした事などなかったからだ。目にしたところで驚くのは同じだ。
「そうですか・・・」
言葉が出ない。みんなにある物が私にはないなんて。
すると新明は言う。
「命にはなんの危険もない。なんにも、ね。目、いいでしょ?見えるでしょ。」
しかし急に新明は顔をしかめる。
「君は問診票に目の不快はないと書いた。涙が出ないだけだと。で、見る限り傷もないみたいなんだ。」
それがどうした、と美桜は思った。
「つまり、君はドライアイではない。」
ならいいじゃないか。
しかし美桜はこの異変に気づいてはいなかった。
「涙が出ない、ということは目が潤うことは無い。
目はかわく。君は涙が出ない。目はかわいているはず。しかしだ。ドライアイじゃない。」
そして今気づく。私の目はどうなっている?と心の中で自分に問う。
「・・・・・まぁ、目が涙が出ない以外健康ならそれでいいんだ。」
「はぁ。」
「薬も要らないですね。では、そういうことで、お大事に。」
・・・・・・・・・・え?
美桜の心の中に「は?」という言葉が鳴り響いた。
「え、どういうことですか。」
「どういうことも何も。涙が出ないだけだから、大丈夫ですよ。お大事に」
意味がわからない。
私の涙はどうでもいいのか。
健康だ、不健康だ、そんなの私は求めてない。
この人は馬鹿だ、阿呆だ。
患者はまだ問題を抱えているというのに。
見捨てるのか?
この男には心底あきれた。
「もういいです………!あなたの考えはきっと間違えてる………………!!!」
新明に背を向けてドアにその言葉を吐いた。
敬語に抑えた私を褒めて欲しい。あの男はクズに近い。いや、それ以下だ。腹が立つ。新明を汚す言葉だけが出てくる。
ドアを静かにしめるのはキツかった。今に爆発しそうな憤怒を抑えた。
気づけばもう病院の外だ。
8000円くらいは取られたな。
もうすっかり暗くなった空。冷たい風に吹かれて頭が冷めた。
「何が天才だ」
吐き捨てたその言葉は風でとばされた。
笑えてきたんだ。何故かわからないけど、ただ笑えてきて。
その日は帰ると母がいて、父もいた。3人で食卓を囲むことも少ない。楽しく食べたかったが、美桜は今日のこと、あの男のこと。すべて話した。父も母も黙って聞いてくれて。
優しかった。
もう・・・・・・・・ダメなの?
「もういいです………!あなたの考えはきっと間違えてる………………!!!」
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そんなはずはない。
あの後新明は考え続けた。
私は天才で、正しいことをしているだけだ。
私は・・・・・・・・・・天才だ。
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