黒曜の誓い、竜を狩る者たち

ンヴ

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フェニックスの卵をアルドリスが持つ特殊な保温機能付きの鞄に大切にしまい、俺たちは灼熱のピラミッドを後にした。砂塵の魔境の過酷な環境は相変わらずだったが、俺たちの心は、一つの大きな達成感と、次なる戦いへの決意で満たされていた。

「まさか、不死鳥が卵に戻るとはな……。生命の神秘ってやつか」
ザナックが、感慨深そうに呟いた。

「ええ。フェニックスは、死と再生を繰り返す聖なる鳥。いつか、あの卵から再び力強い翼が羽ばたく日が来るでしょう」
アルドリスが、静かに答えた。

次なる目的地、「常闇の森」は、王国の中でも特に不吉な場所として知られていた。そこは、一年中太陽の光が届かず、常に深い闇と霧に包まれているという。そして、森の奥深くには、月影のウルフロードという、闇を操り、獲物の魂を喰らう恐ろしい狼の王が封印されていると言い伝えられていた。

数週間の旅の末、俺たちは常闇の森の入り口へと辿り着いた。そこは、噂に違わず、昼間であるにもかかわらず薄暗く、不気味な静寂に包まれていた。木々はねじくれ曲がり、まるで亡霊のように不気味な影を落としている。そして、どこからともなく、獣の遠吠えのような、あるいは人の呻き声のような、気味の悪い音が聞こえてくる。

「……ここは、嫌な感じがするな」
俺は、思わず身震いした。邪神の宝石のレプリカが埋め込まれた剣の柄頭が、警告を発するかのように微かに振動しているのを感じる。

「ええ。この森は、負の魔力が非常に強く、生者の魂を蝕むと言われています。気を引き締めてください。そして、決して一人で行動しないように」
アルドリスが、厳しい表情で注意を促した。

ルナは、少し顔色が悪かったが、それでも俺の手を強く握りしめ、前を見据えている。彼女の聖なる光は、この森の闇の中でも、俺たちにとって心強い道しるべとなるだろう。

俺たちは、松明に火を灯し、慎重に森の奥へと足を踏み入れた。地面は湿っており、木の根が複雑に絡み合っているため、歩きにくい。そして、進むにつれて、周囲の闇はますます深くなり、方向感覚を失いそうになる。

「ザナックさん、アルドリスさん、ルナから離れないように!」
俺は、声を張り上げた。

「ああ、分かってるぜ!」
「了解しました!」

時折、闇の中から、赤い目をした影のような魔物が襲いかかってきた。それは、森の闇に溶け込むように動き、鋭い爪や牙で攻撃してくる。

「こいつら……シャドウウルフか! 群れで襲ってくるぞ!」
ザナックが叫び、剣を振るって応戦する。

俺も、レプリカの力を解放し、炎の属性を纏った剣でシャドウウルフを薙ぎ払う。アルドリスは、闇の力を使い、シャドウウルフの動きを封じたり、幻影を見せて同士討ちさせたりと、巧みな戦術で俺たちをサポートする。

ルナは、聖なる光を放ち、シャドウウルフの闇の力を弱めると同時に、傷ついた俺たちを癒していく。彼女の存在は、この呪われた森において、まさに希望の光そのものだった。

激しい戦いを何度か繰り返しながら、俺たちは森のさらに奥深くへと進んでいった。そして、ついに、ひときわ大きな、禍々しいオーラを放つ巨木の前に辿り着いた。その巨木の根元には、まるで獣の牙のように鋭い岩で囲まれた、洞窟の入り口のような場所があった。

「おそらく、あそこがウルフロードの石碑がある場所でしょう。そして……すでに災厄の使徒の気配がします」
アルドリスが、険しい表情で言った。

俺たちが洞窟の入り口に近づくと、中から一人の男がゆっくりと姿を現した。その男は、全身を漆黒の毛皮のようなもので覆い、その顔には狼の頭蓋骨を模した仮面をつけている。その手には、三日月のような形をした、禍々しい輝きを放つ鎌が握られていた。

「ククク……よくぞ来たな、光の者どもよ。この常闇の森へ、そして我が主、月影のウルフロード様の聖域へようこそ」
男は、まるで獣の唸り声のような、不気味な声で言った。その体からは、濃密な殺気と、森の闇そのものを凝縮したかのような、重苦しい圧力が放たれている。

「お前が、この地の災厄の使徒か……!」
俺は、剣を構えた。

「いかにも。私は、影の教団が誇る七人の災厄の使徒の一人、闇を狩る者、フェンリル。お前たちの魂は、我が主への極上の贄となるだろう」
フェンリルと名乗る男は、そう言うと、その三日月鎌を構えた。

「魂を喰らうだと……? ふざけるな!」
ザナックが、怒りを込めて叫ぶ。

「ククク……恐怖か? それもまた、美味な魂の味付けとなる」
フェンリルは、嘲るように言った。

俺たちは、一斉にフェンリルに襲いかかった。しかし、フェンリルの動きは、まるで影そのもののように素早く、そして捉えどころがない。彼は、森の闇に溶け込むように姿を消したり、分身を作り出して俺たちを惑わせたりする。

「どこだ!? あいつ、どこに消えた!?」
ザナックが、焦ったように周囲を見回す。

「気をつけろ! 奴は、闇に潜んで奇襲を仕掛けてくるぞ!」
アルドリスが警告する。

その瞬間、俺の背後から、フェンリルの三日月鎌が音もなく迫ってきた。
「もらった!」

「危ない、ウルフルム!」
ルナが叫び、聖なる光のバリアを俺の背後に展開した。フェンリルの鎌は、バリアに阻まれ、甲高い音を立てて弾き返された。

「ちぃっ……! ドラゴンの娘め、小賢しい真似を……!」
フェンリルが、忌々しげに舌打ちする。

「フェンリル! お前の相手は俺たちだ!」
俺は、レプリカの力を高め、炎と光の属性を融合させた新たな技を繰り出した。
「聖炎の斬撃(ホーリーフレイム・スラッシュ)!」

俺の剣から放たれた、聖なる炎を纏った斬撃は、フェンリルの闇のオーラを切り裂き、その体に確かなダメージを与えた。

「グオオオッ!」
フェンリルが、苦痛の呻きを上げる。彼の体から、黒い煙のようなものが立ち昇っている。

「やったか!?」
ザナックが期待の声を上げる。

しかし、フェンリルはまだ倒れていなかった。彼は、傷ついた体を奮い立たせ、さらに禍々しいオーラを放ち始めた。
「ククク……面白い……面白いぞ、人間ども! お前たちの魂は、ますます美味そうだ!」

フェンリルは、その三日月鎌を天に掲げ、何やら呪文のようなものを唱え始めた。すると、周囲の闇がさらに濃くなり、地面から無数の黒い影の手が伸びてきて、俺たちの足を掴もうとしてきた。

「うわっ! なんだこれは!?」
ザナックが、影の手に足を取られ、動きを封じられてしまう。

アルドリスも、闇の力で抵抗しようとするが、フェンリルの闇の力はあまりにも強力で、逆に押さえ込まれてしまう。

「まずい……! このままでは……!」
俺は、焦りを覚えた。

その時、ルナが叫んだ。
「みんな、諦めないで! わたしが、この闇を照らすから!」
ルナの体から、これまでで一番強く、そして清らかな白い光が放たれた。その光は、まるで太陽のように、常闇の森の闇を打ち払い、フェンリルの作り出した影の手を消滅させていった。

「なっ……!? 我が闇が……こんな小娘の光に……!?」
フェンリルが、驚愕と怒りに顔を歪ませた。

「今だ、ウルフルム!」
ルナの光によって、一時的にフェンリルの闇の力が弱まった。その隙を、俺は見逃さなかった。
俺は、レプリカの力を極限まで高め、ザナック、アルドリス、そしてルナの想いを乗せた、渾身の一撃をフェンリルに向かって放った。

それは、もはや剣技と呼べるものではなかった。
仲間との絆、そして世界を守りたいという強い願いが具現化した、純粋なエネルギーの奔流だった。

「おのれえええええええええええええええええええっ!」
フェンリルは、断末魔の叫びを上げ、俺の放った光の奔流に飲み込まれ、その姿は完全に消滅した。

後に残されたのは、静寂と、そして禍々しいオーラを放ち続ける巨木だけだった。

「……やった……のか……?」
俺は、荒い息をつきながら、その場に膝をついた。

ルナも、大きな力を使い果たしたのか、ふらつきながら俺の肩に寄りかかってきた。
ザナックとアルドリスも、ようやく拘束から解放され、安堵の表情を浮かべていた。

「ああ……また、ギリギリだったな……」
ザナックが、苦笑いを浮かべながら言った。

しかし、安心するのも束の間だった。
巨木の根元にある洞窟の奥から、地響きと共に、何かが目覚めるような、恐ろしい気配が漂ってきたのだ。

「まさか……! 月影のウルフロードが……!?」
アルドリスが、絶望的な声を上げる。

災厄の使徒フェンリルは倒したが、その先に待ち受けていたのは、さらに強大な、真の災厄、月影のウルフロードの覚醒だった。
俺たちは、疲弊しきった体で、この恐るべき存在にどう立ち向かうというのだろうか――。
残る災厄の石碑は、あと一つ、「虚無の祭壇」に眠る「終焉のドラゴン」のみ。
しかし、その前に、この常闇の森の主、月影のウルフロードを鎮めなければならない。
俺たちの、本当の正念場が、今、始まろうとしていた。
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