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第一部 裕子の事情
第六章 大嫌いな男
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裕子入社3年目「社長室」
20●0年3月4日 PM 3:30
※※※※※※※※※※※※※※※
「あほぅっ・・・
何年、この仕事やっとんねん・・・」
裕子がカップをテーブルに置いた瞬間、幸造の罵声が社長室に響いた。
「すっ・・すみませんっ・・・」
役員の一人が深々と頭を下げて声を出している。
その隣で同じく若い男が頭を並べるように下げていた。
「当たり前のことやったら、誰でもでける。
なんで考えへんのやぁ・・・」
裕子の姿に気づいた幸造は言葉を途中で切った。
「ま、まぁ・・ええわ・・・」
さっきとは打って変わり柔らかな口調になっている。
「すんだことは、しゃぁないし・・・
今度から、気ぃつけぇや・・・」
「えっ・・・?」
柔和になった表情に役員の男が驚いている。
「特別秘書課」に珍しく社員が訪れていた。
普段は専務の悟以外は踏み入れることが出来ない社長室に役員とその部下が呼ばれたのだ。
本社と空中廊下で接続された「奥の院」と呼ばれる社長室は本館とは全く別の空間であった。
巨大グループ「秋元薬局」のワンマン総帥である幸造のためのみに存在している。
そこは幸造の欲望のはけ口として特別な秘書が待機していた。
裕子が配属されて2週間になろうとしている。
噂通り、いや、それ以上にこの男に幻滅している裕子には罵声を上げた後で取り繕う幸造の態度に吐き気がする思いであった。
神聖な職場である社長室に自分好みの女を秘書として連れ込んでいるのである。
どうせ行きつけの店のホステスに違いない派手な容貌の女に制服を着させ、職務中にセクハラまがいのプレイを楽しんでいる。
そう。
ここは幸造の「遊戯室」なのだ。
元々、裕子は幸造のようなタイプが苦手であった。
むしろ、嫌悪すべき存在である。
社長という権力にまかせ好き放題にふるまっている。
アクの強い関西弁にも虫唾が走った。
こんな奴のために自分は大好きだった職場を離れ、「専属秘書」に人事異動させられてしまったのだ。
秘かに想いを寄せる上司の悟とも別れて。
会社を裏から支えるチーフになる。
早苗に言われたが正式には何も指示されていない。
確かに報道されれば大スキャンダルになるような重大な情報は教えられていた。
だが、それらが事実である確証はない。
早苗の偽造かもしれないのだ。
社長である幸造の性癖については認めざるを得なかったが。
何人かの女を秘書として連れ込んでいる。
報酬が良いせいもあるが女達も大企業の秘書というドラマのような設定に自分も酔いながら演じていた。
早苗からにわか仕込みの作法を学び、社長室にコーヒーを運ぶと同時に受けるセクハラを嬉々として楽しんでいるようだった。
時には、わざと裕子にコーヒーを運ばせ、その現場を見せつけるようにすることに呆れて、今では転職しようかと迷っているくらいだった。
「あんな奴・・大っ嫌い・・・」
帰宅後に一人きりの夕食をで何度も呟いていた。
それは寂しさの裏返しでもある。
離婚してからの一人暮らしは当初は夫との争いの日々から解放されたこともあって快適だった。
だが、日々を重ねるうちに一人寝の寂しさが辛くなっていたのだ。
そう。
裕子は人一倍、寂しがり屋だった。
幼い頃から両親に愛されて育ったこともあり、大学入学と同時に親元を離れたことが凄く辛かった。
学生結婚をした理由の一つだったのかもしれない。
夫はセックスには淡泊だったが、一緒にいてくれる温もりが裕子には嬉しかったのだ。
離婚して改めて一人暮らしを始めると、泣きたくなるような寂しさが心を包んでいた。
気丈にふるまえば振る舞うほどに。
※※※※※※※※※※※※※※※
『よう、来てくれたなぁ・・・』
『ひっ・・・』
皺がれた両手で自分の手を掴まれた時ですら、悲鳴をあげながらも幸造の手の温もりが嫌ではなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※
あの時の気持ちを思い出すと唇を噛んでしまう。
何か男に心の純潔を奪われたようで悔しいのだ。
「あんな奴・・大っ嫌い・・・」
気持ちを打ち消すように呟きを繰り返す。
秋元幸造。
巨大グループ「秋元薬局」の総帥。
絶対にこの男に心を許してはいけないと。
自分を戒める裕子であった。
第一部 裕子の事情(完)
20●0年3月4日 PM 3:30
※※※※※※※※※※※※※※※
「あほぅっ・・・
何年、この仕事やっとんねん・・・」
裕子がカップをテーブルに置いた瞬間、幸造の罵声が社長室に響いた。
「すっ・・すみませんっ・・・」
役員の一人が深々と頭を下げて声を出している。
その隣で同じく若い男が頭を並べるように下げていた。
「当たり前のことやったら、誰でもでける。
なんで考えへんのやぁ・・・」
裕子の姿に気づいた幸造は言葉を途中で切った。
「ま、まぁ・・ええわ・・・」
さっきとは打って変わり柔らかな口調になっている。
「すんだことは、しゃぁないし・・・
今度から、気ぃつけぇや・・・」
「えっ・・・?」
柔和になった表情に役員の男が驚いている。
「特別秘書課」に珍しく社員が訪れていた。
普段は専務の悟以外は踏み入れることが出来ない社長室に役員とその部下が呼ばれたのだ。
本社と空中廊下で接続された「奥の院」と呼ばれる社長室は本館とは全く別の空間であった。
巨大グループ「秋元薬局」のワンマン総帥である幸造のためのみに存在している。
そこは幸造の欲望のはけ口として特別な秘書が待機していた。
裕子が配属されて2週間になろうとしている。
噂通り、いや、それ以上にこの男に幻滅している裕子には罵声を上げた後で取り繕う幸造の態度に吐き気がする思いであった。
神聖な職場である社長室に自分好みの女を秘書として連れ込んでいるのである。
どうせ行きつけの店のホステスに違いない派手な容貌の女に制服を着させ、職務中にセクハラまがいのプレイを楽しんでいる。
そう。
ここは幸造の「遊戯室」なのだ。
元々、裕子は幸造のようなタイプが苦手であった。
むしろ、嫌悪すべき存在である。
社長という権力にまかせ好き放題にふるまっている。
アクの強い関西弁にも虫唾が走った。
こんな奴のために自分は大好きだった職場を離れ、「専属秘書」に人事異動させられてしまったのだ。
秘かに想いを寄せる上司の悟とも別れて。
会社を裏から支えるチーフになる。
早苗に言われたが正式には何も指示されていない。
確かに報道されれば大スキャンダルになるような重大な情報は教えられていた。
だが、それらが事実である確証はない。
早苗の偽造かもしれないのだ。
社長である幸造の性癖については認めざるを得なかったが。
何人かの女を秘書として連れ込んでいる。
報酬が良いせいもあるが女達も大企業の秘書というドラマのような設定に自分も酔いながら演じていた。
早苗からにわか仕込みの作法を学び、社長室にコーヒーを運ぶと同時に受けるセクハラを嬉々として楽しんでいるようだった。
時には、わざと裕子にコーヒーを運ばせ、その現場を見せつけるようにすることに呆れて、今では転職しようかと迷っているくらいだった。
「あんな奴・・大っ嫌い・・・」
帰宅後に一人きりの夕食をで何度も呟いていた。
それは寂しさの裏返しでもある。
離婚してからの一人暮らしは当初は夫との争いの日々から解放されたこともあって快適だった。
だが、日々を重ねるうちに一人寝の寂しさが辛くなっていたのだ。
そう。
裕子は人一倍、寂しがり屋だった。
幼い頃から両親に愛されて育ったこともあり、大学入学と同時に親元を離れたことが凄く辛かった。
学生結婚をした理由の一つだったのかもしれない。
夫はセックスには淡泊だったが、一緒にいてくれる温もりが裕子には嬉しかったのだ。
離婚して改めて一人暮らしを始めると、泣きたくなるような寂しさが心を包んでいた。
気丈にふるまえば振る舞うほどに。
※※※※※※※※※※※※※※※
『よう、来てくれたなぁ・・・』
『ひっ・・・』
皺がれた両手で自分の手を掴まれた時ですら、悲鳴をあげながらも幸造の手の温もりが嫌ではなかった。
※※※※※※※※※※※※※※※
あの時の気持ちを思い出すと唇を噛んでしまう。
何か男に心の純潔を奪われたようで悔しいのだ。
「あんな奴・・大っ嫌い・・・」
気持ちを打ち消すように呟きを繰り返す。
秋元幸造。
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