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一章【災禍操るポンコツ娘】
神々の邂逅
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『……ふむ』
遠く離れた位相すら異なる暗黒の空間。その女は海辺で眠る一頭と一人の様子を観察し、密やかに微笑む。
すると背後から近付く者があった。気配で何者か察する。
『珍しいな、トゥール』
【このような形での訪問、まずは詫びよう】
振り返ると、相手の姿はおぼろげで明確な像を結んでいなかった。この異空間に介入し遠隔で映像と音声だけを送りつけて来ている。幾重にも張り巡らせた障壁を突破するとは流石。
『とうに主らと袂を分かったワシに、今さら何の用じゃ?』
【やはり戻るつもりは無いのか。その惑星にそれだけの価値があると?】
『わからんやつじゃのう、主も。何度も説明したではないか、価値がどうのこうのという話ではない。試練を司る神として気に入らん。一方的で理不尽な虐殺などな』
【だからといって何の意味がある? 君が情けをかけたところで彼等の運命は変わらない。今もまだ未来は確定したままだ。その星からは近い将来、宇宙全体にとっての深刻な脅威が生まれる。そして免疫システムはそれを防ぐため動き出した。
正常な動作だ。我々に止める理由は無い。今のうちに対処しなければ他の星々が犠牲となる。だから私達は──】
『知っておる』
女は立ち上がった、そしておぼろな映像に近付く。向こうでも同じように見えているのだろう。表情がしっかり再現されているといいが。
恨みは無い。憎しみも無い。たとえあの星が滅ぼされようとそれは変わらない。これは自分のただのわがまま。使命にかこつけた気晴らし。永遠を生きる神の暇潰し。
だとしても、あの場所で生きている彼等には全てを賭した神聖な戦い。
『トゥール、覚悟して聞け。ワシはこれ以上、直接介入するつもりは無い。だがお主らにあやつらの邪魔をさせるつもりも無い。過去現在未来の全てを見通す主とて絶対的な予知はできない。必ずどこかに綻びがある。
ワシはそれを信じたい。あやつらなら見つけられるかもしれぬと、希望はあると信じて待ちたい。あの方、我らが創造主ならそうなさるはずじゃ。違うか?』
【……】
その通りだ。介入者、眼神アルトゥールにもわかっている。だから千年間、説得は試みても力づくで彼女を、嵐神オクノケセラを連れ戻そうとはしなかった。創造主以外の神々は対等。誰も誰にも命令などできない。
『ワシはお主も信じとるよ、トゥール。なんせ唯一無二の友だものな』
【君は卑怯だな、ケセラ】
いつも同じ言葉で諦めてしまう。彼女の決意は何よりも固いと思い知らされて。神同士の長く続いた友情を天秤にかけるほどだと。
【もちろん我々も介入はしない。だが、これ以上の譲歩もできない。する必要も無いのだ、彼等は死ぬ。私の予知は絶対ではないが、相手がより上位の神々でもない限り、限りなくそれに近い精度を誇る】
『もちろん、それも知っておる』
だとしてもオクノケセラは信じたい。あの日、初めて免疫システムが赤い星を落とした夜に出会った可能性を。
青い目をした子犬と、彼の見出した希望を。
この手で育てた子と、その相棒を。
『案ずるな、審判の日は近い。特異点は現れた』
【ああ】
『答えはもうすぐ出る。さて、どのような結果になるものか。なんにせよ気張れ。ワシはいつもここから応援しとるぞ、子供達』
(二章に続く)
遠く離れた位相すら異なる暗黒の空間。その女は海辺で眠る一頭と一人の様子を観察し、密やかに微笑む。
すると背後から近付く者があった。気配で何者か察する。
『珍しいな、トゥール』
【このような形での訪問、まずは詫びよう】
振り返ると、相手の姿はおぼろげで明確な像を結んでいなかった。この異空間に介入し遠隔で映像と音声だけを送りつけて来ている。幾重にも張り巡らせた障壁を突破するとは流石。
『とうに主らと袂を分かったワシに、今さら何の用じゃ?』
【やはり戻るつもりは無いのか。その惑星にそれだけの価値があると?】
『わからんやつじゃのう、主も。何度も説明したではないか、価値がどうのこうのという話ではない。試練を司る神として気に入らん。一方的で理不尽な虐殺などな』
【だからといって何の意味がある? 君が情けをかけたところで彼等の運命は変わらない。今もまだ未来は確定したままだ。その星からは近い将来、宇宙全体にとっての深刻な脅威が生まれる。そして免疫システムはそれを防ぐため動き出した。
正常な動作だ。我々に止める理由は無い。今のうちに対処しなければ他の星々が犠牲となる。だから私達は──】
『知っておる』
女は立ち上がった、そしておぼろな映像に近付く。向こうでも同じように見えているのだろう。表情がしっかり再現されているといいが。
恨みは無い。憎しみも無い。たとえあの星が滅ぼされようとそれは変わらない。これは自分のただのわがまま。使命にかこつけた気晴らし。永遠を生きる神の暇潰し。
だとしても、あの場所で生きている彼等には全てを賭した神聖な戦い。
『トゥール、覚悟して聞け。ワシはこれ以上、直接介入するつもりは無い。だがお主らにあやつらの邪魔をさせるつもりも無い。過去現在未来の全てを見通す主とて絶対的な予知はできない。必ずどこかに綻びがある。
ワシはそれを信じたい。あやつらなら見つけられるかもしれぬと、希望はあると信じて待ちたい。あの方、我らが創造主ならそうなさるはずじゃ。違うか?』
【……】
その通りだ。介入者、眼神アルトゥールにもわかっている。だから千年間、説得は試みても力づくで彼女を、嵐神オクノケセラを連れ戻そうとはしなかった。創造主以外の神々は対等。誰も誰にも命令などできない。
『ワシはお主も信じとるよ、トゥール。なんせ唯一無二の友だものな』
【君は卑怯だな、ケセラ】
いつも同じ言葉で諦めてしまう。彼女の決意は何よりも固いと思い知らされて。神同士の長く続いた友情を天秤にかけるほどだと。
【もちろん我々も介入はしない。だが、これ以上の譲歩もできない。する必要も無いのだ、彼等は死ぬ。私の予知は絶対ではないが、相手がより上位の神々でもない限り、限りなくそれに近い精度を誇る】
『もちろん、それも知っておる』
だとしてもオクノケセラは信じたい。あの日、初めて免疫システムが赤い星を落とした夜に出会った可能性を。
青い目をした子犬と、彼の見出した希望を。
この手で育てた子と、その相棒を。
『案ずるな、審判の日は近い。特異点は現れた』
【ああ】
『答えはもうすぐ出る。さて、どのような結果になるものか。なんにせよ気張れ。ワシはいつもここから応援しとるぞ、子供達』
(二章に続く)
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