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15:二度目の修正命令発動のとき

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 原作者サイドにとって、二次創作をされることは本来とてもよろこばしいことなのに……。
 そんなふうに創作意欲がかきたてられるくらい、魅力的なキャラクターと世界観だったんだって、そう認められた気がして。

 だけど、いくらなんでもこれはない。
 自分が好きなキャラクターを持ち上げるためだけに、ほかのキャラクターの公式設定の性格を、己の都合に合わせ、激しくゆがめてしまっている。

 ───彼らを我が子のように愛するものとして、軽率にそんな改悪をされて、ゆるせるはずがなかった。

「ハハッ、こんなにカチカチにして、とんだ淫乱じゃナイの、この子!さぞアイツらにも、かわいがられたんダロウね?」
「んぐっ、んんっ!!」
 ちがうと言いたくても、『魅了香チャーム・パフューム』で高められたからだは、たしかに反応をしてしまっている。

「アイツら相手に、さんざん腰をふってヨガってタンだろう?ブレインくんには、お清めエッチでもしてもらうつもりだったのカナ?」
 そのセリフには、さっきから原作にはありえないような腐女子文化ワードが頻出していた。
 それこそが侵食者による改変の影響だということを、雄弁に語っている。

 だけど、これだって冗談だとしても、タチが悪すぎる。
 仮にも保健医とはいえ『先生』と呼ばれる立場の大人が、生徒をこんなふうに性的にからかって手を出そうとするなんて。
 ふつうにかんがえたなら、倫理観が欠如しているにも、ほどがあるだろ!

 別に創作物を、必ずしも現実世界の倫理観や法律に合致させろとは言わない。
 でも、もしそこに違和感をいだかせるのであれば、それはリアリティーがないってことになる。
 創作者として、世界観の構築に失敗してると言っていい。

 ───だいたい、こんな変態医者にしたら、セラーノというキャラクターの背景はどうなるんだよ?!

 そもそも『星華せいかとき』のなかでセラーノは、実は隣国パドロンの王子だという裏設定がある。
 原作ゲームでは、隣国の王家の第四王子としての出自が、セラーノルートの後半で明かされることになるんだ。

 そんな恵まれた地位にいたはずの彼は、たまたま幼いころからいちばん親しかった己の従者を病で亡くしたことから医者を志し、両親の反対を押し切って飛び出し、この国に来たというエピソードがあった。

 本当の名はセラーノ・ギンディージャ・パドロン。
 デルソルというファミリーネームは、身を寄せた先の母方の親戚の家名だった。

 ───そうだ、セラーノにとって、その従者との思い出はとてもキラキラとして美しく、なにより大切なもののはずなんだ。
 だからこそ、自らの身分を捨ててでも医者を目指したってのに……それが改変されてパレルモ様を愛でるためだけに、ただの少年愛あふれる変態医者あつかいをされているだなんて、納得いかないだろ!

 正直なところ、俺が雑にあつかわれようと、そんなことはこの際どうでもいい。
 でも、そのセラーノの志をなかったことにされるのだけは、見逃せるはずかなかった。
 そんな底の浅いキャラクター性で、隠れ攻略キャラクターになれると思うのかよ?!

 ただ自分が好きなキャラクターを引き立たせるために、ほかのすべてのキャラクターを踏み台にするのは、愛でもなんでもない。
 好きという気持ちが根底にあれば、なにをしてもゆるされるなんて、そんなの幻想だ!
 そんなの───原作好きを名乗るのもおこがましい、ただの独りよがりの原作レイプでしかないだろ!

 ただくやしくて、いきどおりをおぼえて。
 それでもこの世界をこんなふうに改変した相手がわからないからこそ、どこにぶつけていいのかわからない思いにさいなまれる。

 そのときの俺は原作ゲームのシナリオライターだとか、この世界の改変を正してほしいとたのまれたことだとか、そんな立場をすべて忘れて、ひとりの『星華の刻』の世界を大切に思うファンとしてそこにいた。

世界創造者ワールドクリエイター権限を確認しました。シナリオ改変、却下の要求を受諾。修正命令リテイクオーダー、発動します』
 二度目となるその機械的な合成音声が、俺のあたまに鳴り響く。

「───セラーノ、そこまでだ」
 怒りがにじむ、静かな声。
 その主がだれかなんて、かんがえるまでもなかった。
 だってこの場所には、俺とセラーノ以外にはブレイン殿下しかいない。

「解毒剤をよこせ、あるだろう?」
「……どういう風の吹きまわしナンだい?」
 淡々とした声が、『魅了香チャーム・パフューム』を中和するための薬を要求する。
 それに疑問符を差し挟むのは、セラーノだ。

 そりゃ、解毒剤は最初に俺が欲していたモノではあるけれど。
 でもそういった薬品の管理はセラーノに一任されていたから、あきらめていたところはある。
 だからここでなら、あらためてもらうことはできるとは思うけど……。

「───別に、この学園専属の医者として生徒に必要な処置をしろと言ったまでだよ?」
「ふぅん?いいのカナ、せっかくここまで連れてきた相手なのにサ」
 ブレイン殿下のセリフに、セラーノが手を止めて応じる。

 解毒剤を投与すれば、きっとこのからだの熱さだとか過敏になった皮膚だとか、そういうものは元にもどるだろう。
 そうしたら、さすがにもう俺のことを好き勝手にはできないはずだ。

 この場合、解毒剤があたえられないかぎり、媚薬で高められたからだは、ただヌくことでしか楽にはならないから。
 俺のためだとか言って、おためごかしで、いかようにもあつかえたハズだった。

 ここに連れてこられる前は、俺もブレイン殿下におもしろ半分にお持ち帰りされようとしていたからこそ、そんなツッコミが入ったんだろう。
 けれどブレイン殿下は静かに首をふる。

「もういいんだ、セラーノ。そんなふうに装わなくても、この子なら大丈夫だから」
「ブレイン……?」
 その声は、思った以上にやさしく響いた。
 そのせいで、とまどうセラーノの声は、寄る辺なき子どものように不安そうにゆれて聞こえてきた。
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