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マツヲ。

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38:フラグは完全に折った……ハズ??

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 ぎゅうっと、胸が締めつけられているみたいに痛む。
 本当に苦しくて、息もできなくて。
 こんな思いをするくらいなら、やさしくなんてされなきゃよかった。

 パレルモ様がすべてのキャラクターから愛されるように改変された世界のままの彼なら、きっと俺のようなモブ、路傍の石のようにかえりみることもなかっただろうに……。
 そんなことをかんがえそうになって、ハッと気がつく。

 ───いけない、それこそ本末転倒だ。
 俺はその腐った世界線に変えられてしまったこの世界を、正しく公式で構築されていたとおりの乙女ゲーの世界線へと引きもどすために、ここにいるのに。
 ならばこれは、その任務を受けると決めた以上、甘んじて受け止めるべき痛みだ。

 よし、そうと決まれば話は早い。
 必死に顔を取りつくろい、あたりさわりのないうっすらとした笑みを口に刷くと、スッと顔をあげる。
 こういうとき、テイラーという表情に乏しいキャラクターでよかったなんて思う。

「ブレイン殿下のお言葉、大変ありがたくうかがいました。ただ、昨夜のことは……本当にライムホルン公爵家のご当主様よりパレルモ様の身の安全を託された立場として、すべて私の不徳の致すところであり、殿下の責めに帰すことができないものであります。どうぞこのようなものを相手に、お心をくだいていただかずとも結構でございます」
 そして、ひと息に言いきる。

 まわりくどい、貴族らしい言いまわし。
 あぁ、嫌だ。
 こんなの意訳したら、『俺の自己責任だから気にするな』のひとことで済むだろうに。

 しかもブレイン殿下からの告白にも似た今の言葉にたいして、『あくまでも昨夜巻き込んでしまった俺にたいして責任を感じているからこそ、面倒を見ると言っただけだ』と認識をしているという前提のもとでのセリフになっている。

 ───つまり、トータルすれば『告白されたのはありがたいけど、ブレイン殿下の愛人にはなれません』っていう、おことわりの意味を持つことになる。

「いったいキミは、どういう子なんだ……?」
 さっきまでの隙だらけな姿から一転して、急に心を閉じてよそよそしくなった俺に、ブレイン殿下は肩透かしを食らったような気分になったことだろう。
 そうつぶやく顔には、とまどいの表情が浮かんでいた。

「しょせん私は『』ですから、信に値しないものと思ってくださって結構です」
 うっすらと笑う顔は、きっとテイラーらしい『なにをかんがえているのかわかりにくい』と言われるになっているはずだ。

 これだけ言えば、きっともうブレイン殿下は俺にやさしくしようなんて、そんな気も起きなくなるだろう。
 なにしろ我が家の名前は、この世界における『信用ならない家』の代名詞のようなものだからな。

 たとえばダグラス家の手がける事業のひとつに、ありとあらゆるモノをあつかう大商会がある。
 欲しいものが手に入るからと、そこを便利づかいしているうちはまだいい。

 けれど、あまりに便利だからとそこだけにかたよった取引をするようになれば最後、生命線をにぎられて、徐々に値上げをされて全財産を巻きあげられかねないことになる。
 それくらいのやり手だ、ということだけど。

 まぁ、そんなわけだから、あらゆる方面から恨みを買っていてもおかしくはないし、それでいて表面上はけっして違法じゃないグレーゾーンの瀬戸際を攻めるようなやり口だから、被害者はどこに訴えるわけにもいかず、当主本人クソオヤジはまるで悪気を感じていないから手に負えなかった。

 あらためてあげてみても、我が家ってホントにクズだと思う。
 そりゃブレイン殿下も、校内に蔓延する違法薬物摘発用の囮に使ってもいいと思うだろうし、セラーノだって、その薬物の流通の大元とうたがってきて当然だ。

 実際のところはテイラーなんて小者だから、パレルモ様の取りまき要員として、小間づかいよろしくずっとそばにいることくらいしかできないんだけど。
 ステータスを見れば、その知力をふくめて平凡すぎる数値に納得するしかないだろうよ。

「ますますキミがわからなくなってきたよ。でも、もしキミのそれが本来の姿なのだとしたら、むしろ黙って私の寵愛を受け入れていたほうが、都合がよかったはずだろう?なぜ、それをあかして断った?」
「それは……っ」
 さっそく、とっさによそおったばかりの弱いところを突いてくるブレイン殿下に、息を飲みそうになる。

 クソ、これだからメインキャラクター中、知力数値がいちばん高いヤツは!
 でもさすがに俺が断る本当の理由には、この世界に住んでいるだけのキャラクターには、たどりつけないだろうよ。
 なら俺も、これ以上話してボロを出す前に、早めに退散したほうがよさそうだ。

「……ところで、パレルモ様が心配されているみたいなので、一度教室にもどりますね?お借りした制服は、また後日あらためて洗ってお返しいたします」
 あえて話題を変えて、はずされていたシャツのボタンをはめなおしながら、なんてことのないような態度で、そう口にする。

「そうだね……それならば次、その痕が消える前に私の部屋へ届けにおいで。ただし、付き人ではなく、キミ自身が直接私に届けにくることが条件だ」
 けれどこの場では、相手のほうがさらに一枚上手だったようだ。
 そのキレイな指先が、こちらのくちびるをスッとなでていく。

「っ!それって……」
 やけに艶っぽい笑みを浮かべたブレイン殿下に見下ろされ、心臓はドキリとハネる。
 自室に来いということは───それはつまり、ふたたびの夜のお相手としての指名を受けたも同然だった。

 その意味に気づくと、ギクリとからだが勝手に強ばる。
 そんな俺の首もとへと、はずしたネクタイを手ずからしめてくれるブレイン殿下は、どことなく楽しげに見えた。

「さて、キミなりの誠意の見せ方をどうするのか見守るのも、大変興味深いものだね。キミの動向を楽しみにしているよ」
 そう言って背中を押され、見送られたのだった。
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