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93:そこにのこる違和感
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結局、ベルは朝礼の時間が終わるまぎわに、ようやくやってきた。
授業には一応間に合ったとはいえ、転校翌日からのいきなりの遅刻に、担任からのお小言が長くなったのも仕方あるまい。
涙目であやまっていたものの、スカートをはいている貴族ご令嬢とちがって、ご令息なら制服的にも走れなくはないわけで、やはりゲーム本編で好感度アップイベントに失敗して遅刻した場合のヒロインよりも、今のベルにたいするあたりは厳しめだった。
パレルモ様が途中で『ベルくんがかわいそうだよ』って止めたから、『パレルモくんは天使だなぁ、君が言うなら仕方ない』とか言って担任はお小言を止めて黙ったけれど……。
いやパレルモ様、そもそもあなた寮で同室だったでしょうよ?!
なんで力尽きて、廊下ダッシュから脱落したベルを見捨ててるんですか!?
せめてそのときに、カイエンにかかえられる役を代わってやれなかったんですかね?!
思わずそうたずねそうになったのを、グッとこらえる。
それよりも、なにがあって遅刻なんてことになったのか、そっちのほうが大事だった。
「それで、なにがあってそんな遅刻しそうになったんですか?まさか付き人たちが仕事をサボっていたなんてことは、ないですよね?!」
休み時間になって、真っ先にパレルモ様のもとへとはせ参じてたずねる。
「うん、みんな朝はちゃんと起こしてくれたよ?それよりテイラー、その上着の色かわいいね!それにピアスも!もしかして、またあのお兄ちゃんから借りたの?」
「……ありがとうございます、パレルモ様。これは、その……ブレイン殿下からいただきました」
「えぇっ!?とうとう借りたんじゃなくて、もらったの?!ヒュー!さすがホンモノの『恋人』はちがうな!!」
だけど話はすぐに脱線するし、しかも横からはジミーが茶化してきて、ちっとも聞きたいことのこたえがかえってこない。
俺にとっては、ヒロイン(予定)のベルがなんで男の格好をしてるのかも気になるし、各攻略キャラクターにたいしてどんな対応をしてくるのかも、気になるところなのに。
だって、もしかしたら彼───彼女が、この世界の一部権能をうばった犯人なのかもしれないから。
「んー?なんかね、ベルくんが今朝は早くお部屋を出るとよくないことが起きるって、夢でお告げを聞いたんだって」
はいぃ?
「……なんですか、それ?!」
いや、パレルモ様はそれを信じたんかい!?
「だって、ベルくんすごい真剣な顔で言うんだもん。ボクにも『先に行っててもいい』なんて言ってきたけど、心配しちゃったんだ」
「さすがパレルモ様、おやさしいです!」
けれど、もはや息を吸うように自然に相手を褒める言葉が出てくる己の口に、むしろびっくりだった。
「まぁ、でも結果的にはいきなり転校翌日から遅刻でしたからね……十分よくないことが起きてる気はしますが……」
「たしかに!いきなり担任に呼び出し食らうとか、ツイてないよなぁ~」
俺のセリフにかぶせるように、ジミーが追従する。
そう、今はその遅刻の件で担任からの職員室へと呼び出されて、ベルは不在だった。
だからこそ、こうしてパレルモ様から直接聞き取り調査ができるというわけなんだけど。
でもたしかに、ジミーの言うとおりなんだよなぁ。
ベルをわざわざ自室に招き入れるくらい、本能的に惹かれるものがあったなら、パレルモ様もいっしょに遅刻してあげればよかったんじゃないのか?って。
だって、担任は例によって魅了の魔法が効いているわけだし、パレルモ様といっしょだったのなら、逆にお咎めなしだった可能性も否定できない。
だけどパレルモ様はそうやってベルを助けるよりも、本来はヒロインが起こす予定だったカイエンルートのイベントを乗っとるほうを優先させたようにも見えてしまうから。
そこに、ザラザラとした違和感のようなものが残る。
はたしてパレルモ様は、本当にベルのことが好きなのか、それとも見捨てても心が痛まない程度の存在だと思っているのか?
その真意が読めない。
この世界を改変させた腐女子は、おそらくパレルモ様が皆から愛される世界を望んでいて、だからこそ今朝も原作ゲームでのヒロインの立ち位置にパレルモ様を据えたんだとは思うけど。
そうして権能の力で書き換えたシナリオにそって、パレルモ様はカイエンに運ばれてきたわけだし、なによりそうすると決めたのはカイエンの意思でもある。
だから『乗っとる』なんて言い方、悪意がこもりすぎな気もするけれど。
───じゃあ、パレルモ様自身の意思は?
ベルのことを好きだと思う気持ちは、ひょっとしたらパレルモ様本人の意思で、でもカイエンとのイベントを優先したのが権能の力でゆがめられた結果だとしたら……?
それはパレルモ様にとって、ツラいことじゃないのか??
確信的なことは、まだなにも言えないけれど。
カイエンなんて、とっくの昔に魅了の魔法にかかってるハズなのに、今さらそのイベントをやる理由なんてないだろうに。
それにヒロインのベルも、わざとそのイベントが起きるような時間まで理由をこじつけて待っていたし、しかもさりげなくパレルモ様を先に教室に向かわせようとしていたようにも聞こえるからなぁ。
カイエンとの好感度アップイベントを、自分で起こすつもりはあったようにも思える。
パレルモ様をヒロインの位置に据えたい意思と、ベル自身がヒロインの位置に据わりたい意思と。
そこには、相反するふたつの意思が介在してるようにしか思えないんだけどさ。
───まぁ、なんにしてもあっさりベルを裏切って、パレルモ様自身がカイエンにひとりだけ運んでもらうほうを選んでたのは、さすがにどうかと思わなくもないわけで。
途中で脱落しちゃったって、めっちゃ他人ごとのように言ってたもんな、今朝。
「わざわざ同室だったヤツを追い出してまで招き入れた相手なのに、案外あっさりと見捨てたんだな」
「っ!?」
一瞬、自分の思ったことが口からもれてしまったのかと思った。
「リオン殿下!?」
いつの間にか、そばにはリオン殿下が立っていた。
授業には一応間に合ったとはいえ、転校翌日からのいきなりの遅刻に、担任からのお小言が長くなったのも仕方あるまい。
涙目であやまっていたものの、スカートをはいている貴族ご令嬢とちがって、ご令息なら制服的にも走れなくはないわけで、やはりゲーム本編で好感度アップイベントに失敗して遅刻した場合のヒロインよりも、今のベルにたいするあたりは厳しめだった。
パレルモ様が途中で『ベルくんがかわいそうだよ』って止めたから、『パレルモくんは天使だなぁ、君が言うなら仕方ない』とか言って担任はお小言を止めて黙ったけれど……。
いやパレルモ様、そもそもあなた寮で同室だったでしょうよ?!
なんで力尽きて、廊下ダッシュから脱落したベルを見捨ててるんですか!?
せめてそのときに、カイエンにかかえられる役を代わってやれなかったんですかね?!
思わずそうたずねそうになったのを、グッとこらえる。
それよりも、なにがあって遅刻なんてことになったのか、そっちのほうが大事だった。
「それで、なにがあってそんな遅刻しそうになったんですか?まさか付き人たちが仕事をサボっていたなんてことは、ないですよね?!」
休み時間になって、真っ先にパレルモ様のもとへとはせ参じてたずねる。
「うん、みんな朝はちゃんと起こしてくれたよ?それよりテイラー、その上着の色かわいいね!それにピアスも!もしかして、またあのお兄ちゃんから借りたの?」
「……ありがとうございます、パレルモ様。これは、その……ブレイン殿下からいただきました」
「えぇっ!?とうとう借りたんじゃなくて、もらったの?!ヒュー!さすがホンモノの『恋人』はちがうな!!」
だけど話はすぐに脱線するし、しかも横からはジミーが茶化してきて、ちっとも聞きたいことのこたえがかえってこない。
俺にとっては、ヒロイン(予定)のベルがなんで男の格好をしてるのかも気になるし、各攻略キャラクターにたいしてどんな対応をしてくるのかも、気になるところなのに。
だって、もしかしたら彼───彼女が、この世界の一部権能をうばった犯人なのかもしれないから。
「んー?なんかね、ベルくんが今朝は早くお部屋を出るとよくないことが起きるって、夢でお告げを聞いたんだって」
はいぃ?
「……なんですか、それ?!」
いや、パレルモ様はそれを信じたんかい!?
「だって、ベルくんすごい真剣な顔で言うんだもん。ボクにも『先に行っててもいい』なんて言ってきたけど、心配しちゃったんだ」
「さすがパレルモ様、おやさしいです!」
けれど、もはや息を吸うように自然に相手を褒める言葉が出てくる己の口に、むしろびっくりだった。
「まぁ、でも結果的にはいきなり転校翌日から遅刻でしたからね……十分よくないことが起きてる気はしますが……」
「たしかに!いきなり担任に呼び出し食らうとか、ツイてないよなぁ~」
俺のセリフにかぶせるように、ジミーが追従する。
そう、今はその遅刻の件で担任からの職員室へと呼び出されて、ベルは不在だった。
だからこそ、こうしてパレルモ様から直接聞き取り調査ができるというわけなんだけど。
でもたしかに、ジミーの言うとおりなんだよなぁ。
ベルをわざわざ自室に招き入れるくらい、本能的に惹かれるものがあったなら、パレルモ様もいっしょに遅刻してあげればよかったんじゃないのか?って。
だって、担任は例によって魅了の魔法が効いているわけだし、パレルモ様といっしょだったのなら、逆にお咎めなしだった可能性も否定できない。
だけどパレルモ様はそうやってベルを助けるよりも、本来はヒロインが起こす予定だったカイエンルートのイベントを乗っとるほうを優先させたようにも見えてしまうから。
そこに、ザラザラとした違和感のようなものが残る。
はたしてパレルモ様は、本当にベルのことが好きなのか、それとも見捨てても心が痛まない程度の存在だと思っているのか?
その真意が読めない。
この世界を改変させた腐女子は、おそらくパレルモ様が皆から愛される世界を望んでいて、だからこそ今朝も原作ゲームでのヒロインの立ち位置にパレルモ様を据えたんだとは思うけど。
そうして権能の力で書き換えたシナリオにそって、パレルモ様はカイエンに運ばれてきたわけだし、なによりそうすると決めたのはカイエンの意思でもある。
だから『乗っとる』なんて言い方、悪意がこもりすぎな気もするけれど。
───じゃあ、パレルモ様自身の意思は?
ベルのことを好きだと思う気持ちは、ひょっとしたらパレルモ様本人の意思で、でもカイエンとのイベントを優先したのが権能の力でゆがめられた結果だとしたら……?
それはパレルモ様にとって、ツラいことじゃないのか??
確信的なことは、まだなにも言えないけれど。
カイエンなんて、とっくの昔に魅了の魔法にかかってるハズなのに、今さらそのイベントをやる理由なんてないだろうに。
それにヒロインのベルも、わざとそのイベントが起きるような時間まで理由をこじつけて待っていたし、しかもさりげなくパレルモ様を先に教室に向かわせようとしていたようにも聞こえるからなぁ。
カイエンとの好感度アップイベントを、自分で起こすつもりはあったようにも思える。
パレルモ様をヒロインの位置に据えたい意思と、ベル自身がヒロインの位置に据わりたい意思と。
そこには、相反するふたつの意思が介在してるようにしか思えないんだけどさ。
───まぁ、なんにしてもあっさりベルを裏切って、パレルモ様自身がカイエンにひとりだけ運んでもらうほうを選んでたのは、さすがにどうかと思わなくもないわけで。
途中で脱落しちゃったって、めっちゃ他人ごとのように言ってたもんな、今朝。
「わざわざ同室だったヤツを追い出してまで招き入れた相手なのに、案外あっさりと見捨てたんだな」
「っ!?」
一瞬、自分の思ったことが口からもれてしまったのかと思った。
「リオン殿下!?」
いつの間にか、そばにはリオン殿下が立っていた。
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