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マツヲ。

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95:これもまた、ひとつの世界の真理

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 勘弁してくれよ、なんでリオン殿下は俺を巻き込もうとするんだよ?!
 でも、そんなことを言えるわけもなく。

「は、はい、パレルモ様が取るべき対応ですね?それなら……担任の教師が来たところで、『教室へ来る途中、息が苦しそうな様子の転校生を見かけて声をかけたが、本人には大丈夫だから先に行けと言われた。しかしやはり心配なので、迎えに行ってもよいか?』とたずねる、あたりでしょうか?」

 それなら、一応事実を切り取っているから、パレルモ様は一切ウソはついていないことになるし、場合によってはパレルモ様のポイントをかせぎたい担任かクラスメイトが、ベルを代わりに迎えに行ってくれる。

 そうなればベルだって、たんなる遅刻として担任教師から咎められることはなくなるんじゃないか?
 ついでに自分も、ベルを置きざりにしたことへの罪悪感も薄れて、言うことなしだ。

「───あぁ、正解だ」
 そんなかんがえによる俺のこたえは、リオン殿下からの合格点をもらえたらしい。
 さすがはブレイン殿下の弟だけある、あでやかな笑みを口もとに浮かべてうなずいてくれた。

 その笑みに、教室内でそれを目撃してしまったご令嬢方から、黄色い悲鳴があがる。
 うん、やっぱりメインの攻略キャラクター、顔面が強いな。

 まぁ、今のこたえは、あくまでもパレルモ様ならどうすべきかという内容だ。
 もし自分がその立場になったなら、こたえは異なる。
 もし自分がその立場になったならば、『カイエンにベルをかかえて走ってもらい、自分は遅刻する』の一択だけどさ。

 だって、そのカイエンとの遅刻ギリギリでのお姫さま抱っこイベントは、ヒロインのものだから。
 それを他人が奪おうなんて、おこがましいにもほどがある。

 第一、それはヒロインの立場や見た目、言動すべてがあわさった結果、カイエンからの好感度がアップするんであって、ほかの人がヒロインとおなじことをしたからといって、必ずしもおなじように好かれるとはかぎらないだろ?

 そもそもこれが俺だったら、カイエンはあやまりつつも見捨てて、ひとりで走っていくだけになると思う。
 それならそれで、俺にしても遅刻のいいわけをかんがえて対応するだけだから、全然問題ないし。

 世のなかには、いろいろ時と場合によって変わることってあると思うけど、もちろんそれだけじゃなくて、立場や外見によって変わることもあるハズだ。
 よくある『美人は得をする』の法則は、この世界でも有効だと思う。

「────あぁそうか、だ……!」
 ふいに、気づいてしまった。

「ん?どうした、ダグラス?」
「い、いえ、なんでもありません……」
 不審なつぶやきをして固まる俺に、リオン殿下が声をかけてくるのに、あわててかえす。

 でも、ようやく気づくことができた。
 これもまた、この世界の真理なんだろう。
 というよりは、生きている人間相手なんだから、あたりまえと言えばあたりまえだった。

 これまでに俺が見てきた各攻略キャラクターたちのイベントスチルみたいな姿は、本来のヒロインが体験するハズのものとは、そこに至るまでの経緯もふくめ、まるで状況がちがっていた。
 でも確実に彼らからの好感度はあがっていたし、なんでなんだろうって思っていたけれど……。

 そんなのは、あたりまえのことだった。
 だれが言っても好感度があがるような、そんな魅了の魔法みたいに万能なセリフ、現実にはあるハズがない。
 時と場合、そして相手の立場や外見によって対応が変わって当然だった。

 だってそうだろ?
 彼らはゲームのなかではだれがプレイしても、おなじ選択肢さえチョイスすれば、必ずおなじ対応をしておなじ結果にたどりついていたから、うっかり混乱してしまったけど。
 でもさ、よくかんがえてみれば、なんてことはない。

 プレイヤーはちがうのかもしれないけれど、ゲームの世界のなかでは、なんだ。

 だから、おなじ人がまったくおなじ条件でその言動をしたなら、そりゃおなじ結果になるよな。
 それは『星華せいかとき』の開発スタッフたちが気にしていた、整合性というもうひとつの真理に由来することだ。

 そこから導き出されるこたえはひとつ、たぶんってことだ。

 だってパレルモ様は恵まれた環境の公爵家嫡男で、ベルはしがない貧乏男爵家の長女だ。
 どちらも、小さくてかわいらしいという外見なのは、おなじかもしれないけれど。
 でも性別もちがえば、なによりも圧倒的に立場がちがう。

 そりゃおなじことをしたところで、まわりの対応がちがってたって当然だろ!
 ついでに言えば、ヒロインが女子ではなく男子として来たのなら、きっと似たような結果になる。

 元はたしかに、プログラミングされただけのキャラクターという存在でしかなかった彼らも、こうしてこの世界では、リアルな人間として生きているわけで。
 ヒロインとは前提条件がちがったなら、そりゃ好感度があがるシーンだって変わってもおかしくはないか……。

 そんなふうにモヤモヤとかんがえこんでいたら、ぼんやりしてしまっていたらしい。

「おい、ダグラス、聞いているのか?」
「───へっ?」
 気がつけばものすごい至近距離から、顔をのぞき込まれていた。

「し、失礼しましたっ!」
 視界いっぱいに広がる、めちゃくちゃととのった顔に、びっくりしてあわてて身を引けば、足が近くにあった椅子の足に引っかかる。

「~~っ!!」
 あ、ヤバい。
 そう思ったときには、バランスをくずしていた。

「おいっ!」
 尻もちをつくかと思って、その衝撃にそなえてぎゅっと目をつぶり身を固くしたものの、いつまで経ってもその衝撃はやってこなかった。

「…………あれ?」
「危なかったな、ダグラス」
「え……??」
 とっさになにが起きているのか、理解できなくてまばたきをくりかえす。

 至近距離には、こちらを心配そうに見つめるリオン殿下の顔がある。
 っていうか、近い、近すぎる。

 俺はといえば、ガッチリと背中にまわされたリオン殿下の腕によって、ささえられていた。
 つまり、ほぼ抱きしめられているのとおなじというか、この体勢、やたらと見覚えがあるというか……。

「おまえは案外そそっかしいんだな、俺がついていてやらないと……」
「えっ……と……?」
 ほほえみを浮かべたその顔は、リオンルートで好感度がアップしたときのイベントスチルそのものだった。
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