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104:うちの子たちが激おこです!?

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 あ、れ……??
 ちょっと待て、その部分はこれから俺が指摘しようとしていたことなのに、セブンに先んじて言われてしまった、だと……!?

 その予想外の展開に俺は、目をぱちぱちとしばたかせるしかなかった。
 いや、まぁ、だれが言ったところで、せいぜいベルの印象が少し悪くなる程度でしかないから問題ないと思うけど。

 ……なんて気楽にかまえていたのは、どうやら俺だけだったらしい。
 思った以上にうちの子は、俺が理不尽な目に遭ったことにたいして、怒りをおぼえていたらしかった。

「それにこれは、担任教師の見ている前で行われたやり取りだ。仮にあんたが身分を気にしないタイプで、そのときには通常、寮の部屋の改修に時間がかかることも知らなかったとしよう」
 セブンはそこで言葉を切ると、いかにも興味なさそうにベルから視線をはずす。

「そ、そうだよ、僕は別にそんなつもりはなかったんだ!」
 なのに、ベルはここぞとばかりにセブンにすがるような視線を向けて、言いのがれをしようとした。

 こうしているとベルは、小柄で華奢で、でもちょっぴり強気で……と、いかにも男ならほだされてしまいような、そんなヒロインらしいかわいらしさを持っているように見える。
 なのにその顔は今、ふしぎと醜悪な怪物のようにゆがんで見えた。

「……だとしても、寮の空室状況を知るハズの教師が、そこに気づかないのはおかしいだろ!あんた、担任教師という身分でありながら、なぜ寮の部屋の交代を推奨したんだ!?」
 どうやらセブンの怒りは、黙って空気のようにおとなしくしていた担任教師にまで飛び火する。

「えっ?えぇっ!?私ですか!?私はただ、パレルモくんの好意を尊重してあげたいと思っただけで……っ!」
 案の定、いきなり責任が問われた担任教師は、目を白黒させてとびあがった。

「そうだな……おそらくパレルモは、幼い子どものごとき無垢さゆえ、己の選択によりテイラーがこうむる不利益に気づかなかったのだろう。だが、そんな生徒をフォローし、指導すべき立場の教師までもが思考停止したように、もろ手をあげてそれに賛同していたのは、さすがにいかがなものかと思う」
 そこに乗っかるようにして、リオン殿下がたたみかける。

「あぁ、そういえばたしかにあのとき、あんたは『パレルモくんに迷惑をかけないように、一刻も早く出ていくように』と、止めるどころかテイラーに念押ししていたな」
 それにたいして、セブンが相づちを打つ。

 ───あれっ!?
 いつのまに、そこのふたりが息ぴったりになってるんだよ?!
 いわゆる『星華せいかとき』のメイン攻略キャラクターのツートップというか、立場上、本編ではあまり接点なかったハズなのにな!?

 あと、ふたりとも怒りのオーラがにじみ出てきてるけど、美形が怒ってるのって、ふつうのモブ顔が怒るのとくらべて、5割り増しくらいで怖いんだよっ!!
 ついでに言うと、さっきからうちの子、めちゃくちゃ記憶力がいいね?!
 スゴいね、さすがセブン!!

「よりによって貴様は、兄上の恋人を宿なしにしようとしたわけだ。生徒の身の安全を気づかうべき立場にありながらそれに加担したというのは、教師としてゆるされざる暴挙だと思う。『王族の恋人』が、いかに周囲から嫉妬される存在なのか、まさか知らないわけでもないだろうに───まぁ、その場には俺もいたから、人のことは言えないかもしれないが……」
 担任を糾弾しつつも自嘲気味にくちびるをゆがめるリオン殿下に、周囲はゆらぎはじめる。

 ひょっとして、本当に『俺がパレルモ様をいじめていた』という話は、誤解かなにかで事実ではないんじゃないかって。
 さっきまでの完全に俺が『黒である』という空気は、どうも流れが変わりはじめていた。

「まぁ、実際にテイラー自身も、部屋を追い出されたことを、たいして気にしていなかったけどな。というより、危機感が足りていないだけだと思うが……昨晩も『部屋が使えないならロビーのソファーで眠ればいいか』と言っていたしな」
 深いため息とともに、セブンがつぶやく。

 んんっ!?
 セブンさんや、それ、今この場で言う必要ありますかね??
 俺、昨夜のうちにちゃんと反省したよな?

「まったく、紫殿下が保護してくださらなかったら、いったいどんな目に遭っていたことか……」
「なにそれ、いくらなんでもテイラー、危機感足らなすぎでは??あんなにエロい雰囲気出してたら、コロッといくヤツだっているだろうに」
 セブンがグチるのに、カイエンまでもが乗ってくる。

 おいおい、今度は俺にまで飛び火してるんですけど?!

 ───っていうか、3人そろって、かわいそうなものを見る目で俺を見るんじゃないっ!!

「命拾いをしたな……?もしそこでダグラスが不心得者に襲われでもしていたら、今ごろはふたりそろって斬首されていたかもしれなかったからな。兄上は、それはそれは大層ダグラスを愛でているゆえ、本人どころか、一族郎党そろって処刑コースだったかもしれん」
 そこにリオン殿下がトドメを刺した。

 もうそのころには、ベルも担任も、見ていられないくらいに真っ青な顔でふるえあがっていた。

 ───いや、ちょっと待て、俺もこれから逆転の一手を打つ気満々だったのに、すでにベルも担任もかなりザマァされたみたいになってないか??
 そりゃ、己の失態をセブンとリオン殿下のふたりがかりであげつらわれたあげく、セブンの殺気が直撃して、カイエンは無自覚に危機感をあおるし、最後にリオン殿下がトドメを刺してたわけだろ?

 かわいそうに、むしろもうそれは『ライフはゼロよ』案件じゃねーか!
 そしてたぶん、俺の希望がとおったら、ベルはもう周囲からの信用さえも失ってしまうと思う。

「さて、まだ言いのこしたことがあるんじゃないか?言ってごらんなさい」
 心なしか、校長の目線がやわらかくなったような気がする。
 ここへ来て俺が、これ以上ベルと担任を追い詰めることに躊躇しているのが、伝わってしまったのかもしれなかった。

 黙ってコクリとうなずく校長に背中を押され、口のなかが緊張で干上がっていくのを感じつつも、己を鼓舞する。

「それでは……最後にこれまでのこちらの主張の正当性を担保するため、この学校の『保安記録セキュリティー・レコード』のアーカイブの公開を要求します」
 そうして、俺にとっての冤罪を晴らすための切り札ともいうべきものを要求したのだった。
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