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マツヲ。

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124:腹黒殿下の溺愛対象

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 原作ゲームの本編に影響をあたえないように、かつライムホルン公爵家から我が家が切り捨てられないようにしつつ、俺がブレイン殿下との未来を手にするルートを、うすらぼんやりと思い浮かべる。

 正直に言えば、勝率は100%じゃない。
 それどころか、かなりのハードモードというか、ぶっちゃけ鬼モードなのはまちがいないわけで。
 それでもそんな無茶をしようと思ってしまうのは、この人と、もっといっしょにいたいって思うから。

 いまだにこちらの腰に手をまわして、抱きついているブレイン殿下をチラリと見れば、ほっぺたに赤みが差したままだった。
 なんだろう、今までだったら照れた顔なんて見せてくれなかっただろうな……なんて思うと、こうして素を見せてくれるようになったのは、それだけ心をゆるしてくれたんだって証しに思えてくる。

「うん?私の顔に、なにかついていたかな?」
「いえ……照れたお顔を見せてくださるのが、うれしいなぁと噛みしめていたところです」
 こちらの視線に気づいたブレイン殿下が、顔を上げてたずねてくるのにこたえる。

「その……前にも言ったと思うんですけど、俺はあなたにとっての『あたりまえの日常』をかたちづくるもののひとつになりたいんです。だからこうして素のお顔を見られることが、そうなってきていることの証しのように思えてきたというか……」
 なんて思うのは、ちょっとおこがましいだろうか?

 でも、こうしてそばにいることが、自然だと思われるような、そんな関係でいられたら───それが俺にはなによりの贅沢で、ワガママに思えるんだ。

 だって本来ゲームの世界なら、テイラーはパレルモ様の取りまきにすぎないから。
 ヒロインの目線で描かれるストーリーでテイラーが出てくるのは、いつだってパレルモ様のそばだけだった。
 テイラーの日常には、パレルモ様しかいなかったんだ。

 そういう意味では、俺だってすでにこの世界にずいぶんな改変を加えてしまったようなものなのにな……。
 けれど、前に出会った女神様はそうではないようなことを口にしていた。
 本当に、なにが正解なんだろうな、この世界では?

「~~~っ、まったくキミときたら、突然デレてくるんだから!」
「えっ……デレ……?」
 ついかんがえごとをしていたら、またもやブレイン殿下がぎゅうっと強く抱きつきながら、そんなことを言ってくる。

 今のどこら辺に、デレ要素があったんだよ?!
 というか俺がデレたところで、ブレイン殿下が照れる理由になり得るのか……?

「キミねぇ、かわいい恋人にそんなはにかむようなかわいらしい笑顔で言われたら、グッとクるに決まってるだろう!?」
「笑顔って、そっか……俺、笑ってたんですね……?」
 そう言われて、はじめて気がついた。
 これってつまりは────。

「あなたといると、居心地がよすぎて、気がゆるんじゃうのかもしれませんね」
 本当ならこの国の第二王子で、年上で、どこをとっても緊張する相手でしかないハズなのに、いつのまにか安らぐ相手になっていたんだ……。
 それって俺にとっては、ブレイン殿下はあたりまえの日常になっているってことだ。

 フワフワとした気持ちに満たされ、ほんのりと胸のあたりがあたたかい。
 あぁ、うん、こういうのしあわせって言うのかな?
 今度こそ、自覚をもって笑顔になる。

「っ!あ~~~~っ、もうっ!無理っ!!」
 けれど、そんなふうに俺のまとうほんわりとした空気を突然吹き飛ばすいきおいで、ブレイン殿下は突然叫んだかと思ったら、あたまをかきむしるみたいにしたあと、おでこに手をあててうつむいた。

「えっ?あの……??なにが無理なんですか!?」
 ……ひょっとして、昨夜からさんざん口ではかわいいと言われてきたものの、実は明るいところで見るには俺の笑顔、気持ち悪かったとか??
 あわてて両手でほっぺたをおさえたところで、もう遅いのかもしれないけれど。

「その顔、人前で気軽に見せないでくれたまえ。昨夜も言ったように、私が心配になるから!」
「は、はい……」
 うつむいていたブレイン殿下は、サッと顔をあげてするどいまなざしでこちらを見据えると、やや口早に命じてくる。
 不安な気持ちのままに、俺はすなおにうなずく。

「そのかわいさを知るのは、私だけで十分だ!特にリオンの前では見せないように!!───それとあの赤髪の……」
「カイエンですか?」
「そう、アマリージョ伯爵家の子の前でも禁止だ!キミは『』恋人なのだから、決して他人の前では隙を見せてはいけないよ!?」

 ───うん、ちがった。
 思った以上に、本気でかわいいと思ってもらえるくらいには、俺も溺愛されていたらしい。
 ほら、よく『あばたもえくぼ』って言うしな。

「ンンッ……気をつけます」
 若干の気まずさに赤くなるほっぺたは、せきばらいでごまかして、ここはすなおにそう返すしかなかった。

 なんだろう、心なしか周囲の付き人さんたちからもほほえましいものを見るような、そんなあたたかい目線で見守られている気がする。
 ……いや、むしろあきれてるのか?

 そりゃそうか、朝からこんなにイチャついてるんだもんな……。
 まだ登校前だというのに、のんびりしすぎた。

「それより、そろそろ教室に向かわないと……」
「あぁ、そうだね」
 そうこたえつつも、あごのあたりにこぶしを添えて、どこか上の空な反応を見せるブレイン殿下の顔をのぞきこむ。

「うーん……もういっそのこと、ライムホルン公爵を失脚させるしかないか……?」
「───はい?」
 すると、ブレイン殿下の口から出てきたのは、冗談にしては不穏すぎるセリフだった。

「いや、だってキミに危険をおよぼす恐れのある男なんて、いなければいいわけだろう?これでも私は、多少の権力ならば持っているからね───それになにより知略にかけては、ちょっとした自信があるんだけれども」
 にっこりと笑みを浮かべて、こちらを見上げてくるブレイン殿下のその笑顔が空恐ろしい。

「冗談、ですよね……?」
 ……いやいや、どうして、そうなった?!
 思わず心のなかで盛大にツッコミを入れたところで、目の前のうるわしい顔を見る。

「フフ……そんなことよりキミの言うとおり時間だし、そろそろ登校しようか?」
 けれどそこには、わざとらしい笑みを浮かべた顔が、これでもかとまぶしさを放っていた。

 ……うん、たぶんこれ……ごまかす気満々の顔だわ……。

「ハイ、ソウデスネ……」
 若干遠い目をしながら、なんとも言えない生ぬるい気持ちに襲われたまま、連れ立って部屋をあとにしたのだった。
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