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129:筋肉ゴリラに拐われるとか聞いてない
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すでにケンカ腰だった相手につられ、かなり態度も悪くなってしまった俺が、今さら気にしてもダメかもしれないけれど。
可能なら、極力穏便に済ませたい気持ちがあるのもたしかだった。
でも。
つかまれた手首は、本気で粉砕骨折になったらどうしようかと心配してしまうくらい、強い力でにぎられているし、一刻もはやく解放してもらいたい気持ちのほうが上だった。
「とりあえず俺は今、パレルモ様をお待ちしてるんであって、あんたと話す気もなければ、そんな時間もない。いいかげん、その手を離……っ!!」
「~~っ、ほざくな泥棒猫が!」
ダンッ!
苦情を申し立てようとした途中で、まるでメロドラマのような古式ゆかしい単語とともに、相手に突き飛ばされる。
おかげで、つかまれた手首は解放されたけれど、逆にいきおいがよすぎたせいで、受け身も取れないまま廊下の壁にぶつかった。
「ーーっ痛ぅ!」
痛てぇ!!
結構ないきおいだったぞ、ふざけんなよこの筋肉ゴリラ!?
見た目どおりに力が強すぎるんだよ、バカヤロー!!
おかげでその衝撃で息は詰まり、今度は壁にしたたかに打ちつけた肩と背中が痛い。
なんなら痛みのあまりに、ちょっとだけ目尻に涙が浮かんだ。
いや、泣いてはないぞ、まだ!
「~~~~っ!」
そこから全身に響いていく痛みをどうにかして逃がそうとして、うつむいて身を固くしていれば、ふいにこちらのほうに影が差す。
なんだ、まさか今度はいきなり殴られたりしないよな?!
クソ、パレルモ様を待つという目的がある以上、ここから走って逃げ出すわけにもいかないし、どうやってこれ以上絡まれないようにしたらいいんだ?!
いや、そもそもこの筋肉ゴリラは、理由も話さず一方的に『話があるからついてこい』とか言ってきたんだぞ?
その理由もわからないうちは、俺だって対処しようもないだろ!
もう、たいして役に立たないとしても、はやく帰ってこいよ、ジミー!
この場にあたまに血ののぼったヤツとふたりっきりってのは、よろしくない気がする。
この時間、寮内の廊下なんてもうだれもいないんだから。
いるのは、パレルモ様のようなまだ登校していない生徒だけだ。
部屋のなかに残る付き人さんたちは、基本的にこちらの生徒用の廊下には出てこないからなぁ……。
ワシッ
突然巻き込まれたトラブルで混乱するあたまに、さらに追い討ちをかけるように、突然髪をわしづかまれ、無理やりに上を向かされた。
「いきなり、なにしやがる!?」
だから力が強すぎて痛てぇんだってば!!
さっきからコイツ、やることが全部雑すぎねぇか?!
「なるほど……なぜ貴様のようなかわいげのない人間が、あの方の心を射止められたのかと思ったが……なかなかどうして、啼かせ甲斐のありそうな顔をしているじゃないか……」
その青カビあたまの筋肉ゴリラは、やけに筋肉質な上半身をぐっとかがめて俺の顔の横に片手をつくと、こちらに顔を近づけてくる。
「なっ!?」
なんだよ、それ!?
その顔に浮かぶいやらしい笑みを間近なところで見たとたん、生理的な嫌悪感によって一瞬にしてブワッと鳥肌が立つ。
「ふざけんな、気安く触ってんじゃねぇ!」
頭上で俺の髪をつかむ相手の大きな手をふり払おうとしたところで、逆にそのまま手首をつかまれた。
先ほどとおなじ、利き腕だ。
「痛……っ!」
今度はそこまで強くにぎられたわけでもないのに、先ほど強くにぎりしめられたときのなごりなのか、すぐに手首は痛みを訴えてくる。
そしてロクな抵抗もできないまま、取られた右手は壁に押しつけられた。
ひょっとしたら、この青カビあたまの筋肉ゴリラは、ブレイン殿下よりも背だって高いのかもしれない。
上からのぞきこまれると、なんというか圧迫感がスゴい。
つーかよくかんがえるまでもなく、この体勢、壁ドンみたいになってんじゃねぇか!
まぁ、髪の毛わしづかまれてるとか、それよりもどう見てもケンカ腰だし、若干不穏だけどな?!
「───いいや、逃がしはしないぞ、ダグラス!貴様のせいで、我が最愛の弟がブレイン殿下と別れさせられたのだ!貴様には、その責任を取ってもらおう!」
だけどそのセリフには思わず、俺にとっては聞き捨てならない単語がふくまれていた。
「はぁっ!?」
なんだって!?
俺のせいでブレイン殿下と別れさせられただって……??
突然もたらされた情報に、さっきまでの全力で逃げ出したいと思う気持ちが失せていく。
……どうやらこれは、俺としても無視していい話ではなさそうな気配だった。
「フン、ようやくおとなしくついてくる気になったか。では行くぞ!」
「いや、まだ行くとは言ってな……いっ!」
つかまれていた髪の毛は離してもらえたけれど、右手はつかまれたまま、それを引っぱられる。
「ちょっと待てってば!」
「行くぞ」
「えぇい、『行くぞ』じゃねぇよ!ちょっとは人の話を聞けーーっ!!」
だから、痛てぇっつーの!!
その場でたたらを踏むようになったものの、そんな俺を無視して筋肉ゴリラは歩き出す。
手首の痛みのせいでロクな抵抗もできないまま、なかば引きずられるようにして廊下を進んでいく。
曲がり角に差しかかった、そのとき。
「お待たせ、テイラー……って、あれ?どこ行ったんだよ!?おーい、テイラー?」
遠くから声がして、ようやく待ち望んでいたジミーが帰還した。
「ジミー、こっち……わぁっ!」
声をあげて呼ぼうとした瞬間、筋肉ゴリラに強く手を引かれ、その分厚い胸に飛び込むようなかたちになる。
「悪いが、我輩の用があるのは貴様だけだ、ダグラス」
「ん~~っ!」
そのまま大きくてこれまた分厚い手のひらで口をふさがれ、今度こそ引きずられて運ばれた。
「あれ~、マジでテイラーどこ行ったんだよ?ひょっとしてパレルモ様は出てきたのか??そんでもって先に教室向かったのかなぁ?」
バカヤロー、全然ちげぇし!
遠くで見当ちがいなセリフを吐くジミーの声を聞きながら、心のなかでツッコミを入れたのだった。
可能なら、極力穏便に済ませたい気持ちがあるのもたしかだった。
でも。
つかまれた手首は、本気で粉砕骨折になったらどうしようかと心配してしまうくらい、強い力でにぎられているし、一刻もはやく解放してもらいたい気持ちのほうが上だった。
「とりあえず俺は今、パレルモ様をお待ちしてるんであって、あんたと話す気もなければ、そんな時間もない。いいかげん、その手を離……っ!!」
「~~っ、ほざくな泥棒猫が!」
ダンッ!
苦情を申し立てようとした途中で、まるでメロドラマのような古式ゆかしい単語とともに、相手に突き飛ばされる。
おかげで、つかまれた手首は解放されたけれど、逆にいきおいがよすぎたせいで、受け身も取れないまま廊下の壁にぶつかった。
「ーーっ痛ぅ!」
痛てぇ!!
結構ないきおいだったぞ、ふざけんなよこの筋肉ゴリラ!?
見た目どおりに力が強すぎるんだよ、バカヤロー!!
おかげでその衝撃で息は詰まり、今度は壁にしたたかに打ちつけた肩と背中が痛い。
なんなら痛みのあまりに、ちょっとだけ目尻に涙が浮かんだ。
いや、泣いてはないぞ、まだ!
「~~~~っ!」
そこから全身に響いていく痛みをどうにかして逃がそうとして、うつむいて身を固くしていれば、ふいにこちらのほうに影が差す。
なんだ、まさか今度はいきなり殴られたりしないよな?!
クソ、パレルモ様を待つという目的がある以上、ここから走って逃げ出すわけにもいかないし、どうやってこれ以上絡まれないようにしたらいいんだ?!
いや、そもそもこの筋肉ゴリラは、理由も話さず一方的に『話があるからついてこい』とか言ってきたんだぞ?
その理由もわからないうちは、俺だって対処しようもないだろ!
もう、たいして役に立たないとしても、はやく帰ってこいよ、ジミー!
この場にあたまに血ののぼったヤツとふたりっきりってのは、よろしくない気がする。
この時間、寮内の廊下なんてもうだれもいないんだから。
いるのは、パレルモ様のようなまだ登校していない生徒だけだ。
部屋のなかに残る付き人さんたちは、基本的にこちらの生徒用の廊下には出てこないからなぁ……。
ワシッ
突然巻き込まれたトラブルで混乱するあたまに、さらに追い討ちをかけるように、突然髪をわしづかまれ、無理やりに上を向かされた。
「いきなり、なにしやがる!?」
だから力が強すぎて痛てぇんだってば!!
さっきからコイツ、やることが全部雑すぎねぇか?!
「なるほど……なぜ貴様のようなかわいげのない人間が、あの方の心を射止められたのかと思ったが……なかなかどうして、啼かせ甲斐のありそうな顔をしているじゃないか……」
その青カビあたまの筋肉ゴリラは、やけに筋肉質な上半身をぐっとかがめて俺の顔の横に片手をつくと、こちらに顔を近づけてくる。
「なっ!?」
なんだよ、それ!?
その顔に浮かぶいやらしい笑みを間近なところで見たとたん、生理的な嫌悪感によって一瞬にしてブワッと鳥肌が立つ。
「ふざけんな、気安く触ってんじゃねぇ!」
頭上で俺の髪をつかむ相手の大きな手をふり払おうとしたところで、逆にそのまま手首をつかまれた。
先ほどとおなじ、利き腕だ。
「痛……っ!」
今度はそこまで強くにぎられたわけでもないのに、先ほど強くにぎりしめられたときのなごりなのか、すぐに手首は痛みを訴えてくる。
そしてロクな抵抗もできないまま、取られた右手は壁に押しつけられた。
ひょっとしたら、この青カビあたまの筋肉ゴリラは、ブレイン殿下よりも背だって高いのかもしれない。
上からのぞきこまれると、なんというか圧迫感がスゴい。
つーかよくかんがえるまでもなく、この体勢、壁ドンみたいになってんじゃねぇか!
まぁ、髪の毛わしづかまれてるとか、それよりもどう見てもケンカ腰だし、若干不穏だけどな?!
「───いいや、逃がしはしないぞ、ダグラス!貴様のせいで、我が最愛の弟がブレイン殿下と別れさせられたのだ!貴様には、その責任を取ってもらおう!」
だけどそのセリフには思わず、俺にとっては聞き捨てならない単語がふくまれていた。
「はぁっ!?」
なんだって!?
俺のせいでブレイン殿下と別れさせられただって……??
突然もたらされた情報に、さっきまでの全力で逃げ出したいと思う気持ちが失せていく。
……どうやらこれは、俺としても無視していい話ではなさそうな気配だった。
「フン、ようやくおとなしくついてくる気になったか。では行くぞ!」
「いや、まだ行くとは言ってな……いっ!」
つかまれていた髪の毛は離してもらえたけれど、右手はつかまれたまま、それを引っぱられる。
「ちょっと待てってば!」
「行くぞ」
「えぇい、『行くぞ』じゃねぇよ!ちょっとは人の話を聞けーーっ!!」
だから、痛てぇっつーの!!
その場でたたらを踏むようになったものの、そんな俺を無視して筋肉ゴリラは歩き出す。
手首の痛みのせいでロクな抵抗もできないまま、なかば引きずられるようにして廊下を進んでいく。
曲がり角に差しかかった、そのとき。
「お待たせ、テイラー……って、あれ?どこ行ったんだよ!?おーい、テイラー?」
遠くから声がして、ようやく待ち望んでいたジミーが帰還した。
「ジミー、こっち……わぁっ!」
声をあげて呼ぼうとした瞬間、筋肉ゴリラに強く手を引かれ、その分厚い胸に飛び込むようなかたちになる。
「悪いが、我輩の用があるのは貴様だけだ、ダグラス」
「ん~~っ!」
そのまま大きくてこれまた分厚い手のひらで口をふさがれ、今度こそ引きずられて運ばれた。
「あれ~、マジでテイラーどこ行ったんだよ?ひょっとしてパレルモ様は出てきたのか??そんでもって先に教室向かったのかなぁ?」
バカヤロー、全然ちげぇし!
遠くで見当ちがいなセリフを吐くジミーの声を聞きながら、心のなかでツッコミを入れたのだった。
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